2-43. 振舞い
振舞い当日。俺たちは朝から通常営業した後、仕出し料理の製作に取り掛かった。
黄色スパイスおにぎりをせっせと作り、使い捨て深皿に盛り付けた。行商カゴに並べて麻布と木板で仕切りをし、積み上げる。
しかし、隙間なく詰めて並べられるおにぎり包装と違い、深皿はひとつあたりの体積が大きく、さすがに全部は入りきらなかった。
慌てて新しい行商カゴを買いに行き、残りの十個を詰めて、そちらはヒナに背負ってもらうことにした。
籐製のカゴは丈夫で軽い。中身もさほど重くはなく、身体的負担はランドセルレベルだと思う。とはいえカゴがあまりに大きいので、小柄なヒナが背負うと、かなりちぐはぐに見える。
……これって、児童労働で通報されたりしないんだろうか。
現代日本人の倫理アラートは赤色灯を回していたが、ヒナはすでに毎日タッパー亭で働いているのであり、それを児童労働と呼ぶならば、今に始まったことではなかった。
何より、ヒナ自身は誇らしげだった。ひとつ首を振って、俺たちは店を出発した。
◇ ◆ ◇
隊商滞在地に到着したのは夕方だった。
大型テントに入ると、宴会の準備は終わっていた。もう少し具体的に言うと、羊が肉になった後だった。
香辛料店の老店主が来ており、羊肉にスパイスや塩を振って下味をつけていた。
奥では若者たちがなにやら大声で騒いでいるが、異国語(たぶんヒナの故郷の言葉)で話しており、内容は聞き取れない。
すでにヒナが先方と交渉し、ヤカンと水は、隊商側で用意してもらえることになっていた。
まず、隊商所有の大型ヤカンを二つ借りた。いわく、毎日のお茶の時間に使っているヤカンであり、つまり二つぶん沸かせば全員に飲み物が行きわたる量ということだ。お茶漬けを作るには十二分といえる。
ヤカンに水を入れ、ストーブに載せた。
季節は春。昼間はそこそこ暖かいが、日が暮れるとぐっと冷え込む。水も冷たく、大型ヤカンの中身が沸騰するには、かなりの時間が掛かりそうだ。
そうこうしているうちに、宴会が始まった。
隊商長であるヒナの父親が挨拶し、全員で乾杯。隊員たちは切り分け下味をつけられた串刺し肉を手に取り、各々たき火前に刺して炙る。
肉が焼けるのを待ちつつ、酒を注ぎ合い、親しく言葉を交わし、時には歌う。言葉は分からなかったが、はた目から見ても和気あいあいとした会で、みんな楽しそうだった。
ヒナの父親は、年季の入った金属コップ片手にせわしなく動き回り、あちこちで隊員たちに声を掛けていた。
明日から半年も会えなくなる息子が来ているというのに、こちらへは見向きもしない。
でも、きっと、冷たい人ではないのだ。目を掛ける相手が多すぎて、ヒナが後回しになっているだけで。もちろん、だからって、息子に寂しい思いをさせていいわけじゃないが。
ヒナはお湯が沸くのを待ちながら、隊員たちと親しげに話している父親の背中を、少し寂しげに見つめていた。
「行ってきたら?」
と促した。さすがにヒナから近寄っていけば、少しは声を掛けてくれるだろう。しかし、ヒナは首を振る。
「タッパー亭、仕事中」
「……そうだね」
お湯を十分に沸かした後、火から下ろし、麻袋に詰めた大量の茶葉を投入した。
フタをして、そのまましばらく待つ。
ティーポットで三人分入れるだけなら数分だが、リットル単位となるとかなりの時間がかかる。時々、少し小皿に取って味見しながら、抽出時間を調整。
ちょうどよい濃さになったところで、麻袋を取りだした。
大容量のヤカンなので、そうそう冷めはしない。『宴もたけなわ』になるまで、ヒナとふたり、宴会の様子を見つめていた。




