2-41. 茶葉
話し合いが終わると、マリーは昼の片付けと夕飯の支度のために事務所へ戻り、俺とヒナの二人で、お茶漬けに使う茶葉を探すことになった。
「シロは、黄色おにぎりのほうが良いと思うんだよね」
赤おにぎりは肉と卵入りであり、それだけで提供する分にはウケがいいだろう。
しかし、たらふく羊焼肉を食べ、酒を飲んだ後であることを加味すると、さっぱりした漬物入りのほうがふさわしいはずだ。
もちろん、米飯についても別案を考える、という手もあった。しかし、米飯とお茶という二つの変数を同時に変えると、試行回数が二乗のオーダーでかさんでしまう。
あまり時間が無い以上、米飯はすでに成功した開発済みメニューの中からアタリをつけ、固定してしまったほうがいい。
そういうわけで、俺たちは黄色おにぎりを三個作ってタッパーに詰め、市場を訪れた。
「○○○○、○○○○○」
ヒナに連れて行かれたのは、茶葉の店ではなく、例の香辛料店だった。
ヒナが老店主にひととおりの事情を説明すると、彼は席を立ち、俺たちを連れて外に出た。わざわざ自分の香辛料店を閉め、三軒先の茶葉店に入った。
老店主は、おにぎり入りのタッパーを茶葉店の店主に差しだした。それから、流暢な現地語で事情を説明し、合いそうな茶葉を紹介してほしいと頼んだ。
茶葉店の店主は、おにぎりを一口かじった後、三種類の茶葉を試飲させてくれた。老店主がひとつ、俺とヒナは半分ずつ黄色おにぎりを食べながら、一緒にお茶を飲む。
日本の米+異国情緒スパイス+現地ハーブティーという一見ちぐはぐな取り合わせのお茶漬けだったが、意外なほどよく合った。やはり、専門家に、現物を食べたうえで提案してもらえるのは強い。
使う茶葉を決め、必要量+αを購入した。香辛料店で追加の黄色スパイスも買い、老店主と別れて帰路につく。
「ねえ、ヒナ。スパイスのおじさんって、なんであんなに良くしてくれるの?」
と尋ねた。
黄色スパイスが香辛料店の売り上げになるといっても、たかだか500円。なのに、わざわざ自分の店を一時的に閉めてまで、馴染みの茶葉店につないでくれたのだ。
いったい何が、彼をそうまでさせるのだろう。
「――パパ、最初は、ひとりぼっちだった。若い時、少しのお金で、カゴだけ背負って、行商はじめた。おじさんは、その時からの友だちなんだって」
ヒナは、どこか遠い目をしていた。その話を息子に語る時、父親がそういう目をしていたのかもしれない。
握る手に、ぎゅっと力がこもる。
「パパはね、ヒナだけじゃない、隊商みんなのパパなの。だから、さみしい時もあるけど……ヒナもいつか、パパみたいに良い商売して、皆を笑顔にしたい。それが、ヒナの夢!」
ヒナは明るく宣言し、こちらを見上げて笑った。父親にそっくりな、人懐こい笑みだった。




