2-33. 二色おにぎり
店に帰り、土鍋ふたつで一合(おにぎり三個分)ずつ、スパイスごはんを炊いた。
一方は赤、もう一方は黄色みがかっており、見た目は華やかだが、香りはどちらもさほど強くない。ヘラで底から混ぜ返すと、ほんのりと、異国情緒あふれる良い匂いが漂ってくる程度だ。
赤のほうには二色そぼろ、黄色のほうには細かく刻んだキュウリの漬物を混ぜ込み、おにぎり木型で成形した。本番さながらに包装紙で包み、それぞれ食べてみる。
「良い」
ヒナは赤いおにぎりを食べながら、満足げに頷いた。当然の結果という口調だったが、俺は驚かずにはいられなかった。
あの老店主は、おにぎりをたったひと口食べただけで、この味をシミュレートし、スパイスを調合したのか?
はた目には、適当にすくって麻袋に入れたようにしか見えなかったのに。
「なぜ驚く? おじさん、トーヤが生まれる前から、スパイスの商売してる。『ラクダはラクダ飼いが引け』でしょ」
異世界にも、『餅は餅屋』に類する格言があるらしい。
確かに、俺には適当な作業に見えたが、何十年も同じ仕事を続けていれば、即座に脳内で味を想像し、手元を見さえせずに狙った重量をすくいとることもできるのだろう。
雑なのではなく、熟練の職人技なのだ。
「これ、おいしいねえ。……でも、せっかくきれいなのに、包装しちゃったら、中身が見えないんじゃない?」
「見せるために、店の前に二個並べとく。お客には、奥から出して渡す」
ヒナは赤いほうを食べ終わり、黄色いほうに手を伸ばした。頬張りながら、続ける。
「でも、二個は多いかな。お祭り、たくさん屋台ある。みんな、いろいろ食べたい。多すぎると、買うか迷う」
なるほど、普段の昼食ならば、弁当ひとつで腹を満たせるほうが良いに決まっている。
しかし、今回の出店先は祭りの屋台だ。多少割高になったとしても、いろいろなものを少しずつ食べたい、という需要はあるだろう。
「それなら、半分ずつにしない? 右側が赤で、左側が黄色。それで、一個ずつバラ売りするの」
「トーヤ、バラ売り、どう思う?」
「……在庫は、カゴに入れておくよね? だったら、カゴの上を清潔な麻布で覆っておけば、良いんじゃないかな。次のお客が来るまでの間なら」
先日見たところ、港はおおむね石畳で舗装されており、細かい砂などが飛んでくる恐れはなさそうだった。上から麻布を被せておけば、風による異物混入は防げるだろう。
「中身を半々にするのも、薄板を間に立てて詰めればいいから、難しくはないと思う。少し手間だけど、祭りの日だけなら、特別感もあるし」
「決まり。明日は、半分ずつのおにぎり、まかないで作る」
ヒナが宣言した。
翌日の試作の結果、タッパー亭の開港祭屋台では、二色おにぎりを、一個300円でバラ売りすることに決まった。




