2-25. 団らん
ひととおりの生活用品を揃えた頃には、冬の短い日が傾きかけていた。
最後に荷車をレンタルして、買った品物を引き取って回った。重い荷車を引いて帰り、裏庭の外階段から、二階の居住空間へ荷物を運びこんだ。
「おそい」
ヒナはとっくに二階の掃除を終え、ひとりで居間のソファに座っていた。俺がダイニングテーブルに箱を置いて一息つくと、こちらへやって来て、少し軽くなった麻袋を返してくれた。
それから、箱の中身を覗きこんで、呆れたように言う。
「住むの、トーヤだけ。なぜ、こんなに食器が要る?」
「マリーに聞いて……」
ティーカップを取りだして、テーブルに置いた。
マリーは、あれこれ買い揃えるうちに楽しくなってしまったらしく、『せっかくなら、全部お揃いにしたいでしょ』と言い出し、ひと家族分はまかなえそうなほど大量の食器を買い込んだのだった。
「……ああ。マリーも、ここに住むの?」
「へっ!?」
「冗談。だとしても、カップ、五個も要らない」
「仕方ないでしょ。二組の次が、五組だったんだもの」
タオルの包みを抱えて入ってきたマリーが、口を挟む。
「やっぱり、一日の終わりには、みんなお揃いのカップでお茶を飲みたいじゃない? 五組あれば、ルカにもお茶を出せるし、割れちゃった時の予備にもなるし」
と説明したが、ヒナは納得していない顔だった。同じ異世界人ではあっても、隊商暮らしのヒナと街育ちのマリーとでは、価値観が違うのだろう。
いったん、二階にすべての荷物を運びこんだ後、俺はひとりで荷車を返しに行った。帰ってきた時には、マリーとヒナが寝室を整えてくれていて、ひとまず今日ここで寝ることはできる、という状態になっていた。
「じゃあ、今日はここまでね。……お茶にしようか」
マリーは買ってきた茶葉をティーポットに入れると、ストーブに載せていたヤカンからお湯を注いだ。ダイニングテーブルに、あらかじめ温めておいた真新しいティーカップを三つ並べて、それぞれに注ぎわける。
ハーブの香りが、湯気と共にテーブルを満たした。薄い陶器越しに伝わる熱が、かじかんだ指先をじんわりと温めていく。
「ふふっ。やっぱり、こうして皆でお茶を飲むなら、お揃いのカップが良いと思わない?」
マリーが尋ねると、ヒナは小さな両手でカップを包み込んで、今度は頷いた。
「『一緒のヤカンでお茶を飲んだ友だち』だね」
『同じ釜の飯を食った仲』的な概念は異世界にもあるんだな、と何となく考えた。ヒナは持ち上げたカップを小さく傾けて、ひと口飲む。
「隊商も、夜のお茶はある。ヒナも、たまに、一緒に飲んでた」
「たまに?」
「……いつも、子どもは寝てる時間。でも、眠れない時もある。そしたらパパ、ヒナにもお茶、分けてくれる。甘くておいしいの」
嬉しそうに言った。その視線はティーカップの中に注がれているようで、どこか遠くを見ているようでもあった。
「ヒナは、甘いお茶が良いの? じゃあ、次は、ハチミツを用意しようか」
マリーが提案した。彼女の個人的な好みなのか、地域全体の傾向なのか分からないが、マリーのハーブティーはいつもノンシュガーだった。
「ううん。マリーのお茶も、ヒナは好き」
「そっか」
と言って、彼女もひと口飲んだ。俺もひと口すすった。
ストーブの火は暖かかった。けれど、熱い茶の、身体の芯から温まる感覚にはかなわないな、と思った。
◇ ◆ ◇
外が薄暗くなってきたので、ふたりを組合事務所まで送っていった。
ヒナの父親の隊商は、まだ街の隊商滞在地に居るはずだが、ヒナはすでに、事務所の三階に居候しているということだった。
「帰っても、姉ちゃん居ない。パパも、あんまり帰ってこない。キャンプに居ても、つまんない」
と言って、マリーの背中に抱きついた。ヒナにとってマリーは、姉代わりの存在になりつつあるのだろう。
「トーヤ。ストーブの薪、ちゃんと足さなきゃダメだよ。夜は冷えるからね。おやすみ」
二人と別れて、いったん店に戻る。
昼過ぎから燃やされていた薪は、ほとんど燃え尽きてくすぶっていた。ストーブの扉を開けて、残った灰を掻き出して火消し壺に入れ、フタをして密閉した。
外に出て、玄関扉を施錠した。火消し壺を裏庭に置いて、その足で、例の穴へ向かった。




