2-24. 布団
交通量調査の結果、ヒナが太鼓判を押したので、タッパー亭の実店舗は、元総菜屋の空き物件に決定した。マリーがさっそく手続きをして、数日後には入居できることになった。
室内は綺麗なものだったが、一度改めて掃除すべきだろう。そういうわけで入居初日、俺たちはまず掃除道具を買いに行くことにした。
「ね、トーヤ。せっかくだし、掃除用具だけじゃなくて、お布団とか、食器とか……身の回りのものも、まとめて買っちゃおうか?」
市場へ向かう道中、マリーが提案した。俺の反応が薄いので、ちょっと首を傾げて続ける。
「だって、トーヤは店の二階に住むでしょ。わざわざ、寮から通うことないじゃない。いろいろ揃えて、今日のうちに引っ越しちゃったら?」
「あー……」
そうか。マリーの中では、俺はこの街に住んでいることになっているのだった。
口ぶりから察するに、おそらく街のどこかに、労働者のための寮があるのだろう。俺が東京で借りている、古アパート的なところが。
「今日から住むなら、ひとまずストーブまわりと、お布団は用意しないとね」
マリーは、俺の返事を待たずに思案しはじめる。
「あとは、厨房や洗濯関係……洗面用具なんかも要るかな。細かいものは、おいおい買い足すのでもいいと思うけど」
「え、いや。そんなに荷物、持てないんじゃ」
俺たちは、身ひとつの徒歩移動だった。掃除用具だけならまだしも、布団などとてもじゃないが運べないと主張すると、マリーは「大丈夫」と首を振って説明する。
「先に支払いだけして、品物は店で預かってもらうの。そしたら、あとで荷車を借りて、まとめて引き取りに行けばいいでしょ」
「……なるほど」
正直、本格的に異世界に住むつもりはないのだが、しかし店の二階があるのに、わざわざ寮から店舗に通うと言い張る理由も思いつかなかった。
曖昧に頷くと、マリーは「決まりね」と嬉しそうに手を叩く。
「なら、ヒナは道具買って、二階の掃除しとく。買い物の間にきれいにしたら、すぐ、部屋を支度できるでしょ」
ヒナがこちらへ手を差しだした。数秒後、掃除用具代を請求されているのだと思い至り、ポケットから麻袋を取り出して手渡した。
彼は、マリーからは店の鍵を受け取り、なぜかにやりと笑ってこちらを見上げる。
「じゃ、ごゆっくり」
と言って、ひとりで市場の方向へ駆けていった。
◇ ◆ ◇
そういうわけで、俺とマリーはふたりで、市場の日用品を取り扱うエリアへやってきた。
「このお布団カバー、可愛いね! ああでも、こっちもいいなあ……」
マリーは楽しそうだった。いちおう、二階には俺が住むことになっているはずなのだが、あれこれ店主と話しては、次々に購入する品を決めていった。
「げっ」
寝具一式の支払いをする直前になって、ようやく気づいた。さっきヒナに、有り金を麻袋ごと渡してしまっていた。
「どうしたの?」
マリーがきょとんとして振り向く。
「あ、……その、財布……さっき、ヒナに渡しちゃって……」
「あれだけしか持ってなかったの!? ヒナも言ってたけど……トーヤって、お金に無頓着だよね」
呆れた様子で言って、彼女は自分のポケットから麻袋を取りだした。店主が、弾いたソロバンをマリーに見せる。
「ちょいとオマケして、全部で2万にしとくよ、お嬢さん」
「あら、ありがとうございます」
マリーの麻袋から、見たことのない銀貨が出てきた。
店主に四枚渡したので、一枚5千円相当であることが分かった。次に来た時は、異世界5千円札になっているかもしれない。
「ていうか、マリー……結構いいもの買ってない……?」
「そう? 普通だと思うけど」
日本の古アパートで使っている布団は、セットで5千円くらいだった気がするが……マリーは以前『ウチは結構お金持ちだから』と言ってたしな。普通の基準が、俺とは違うのだろう。
「それじゃ、夕方までには、受け取りに来ますから」
「はいよ」
店主は壁にかかっている小さな木札を一組とって、片方をまとめた荷物に載せた。それから、もう片方の木札をマリーに差しだした。
後ろからのぞき込んでみると、店のシンボルマークの下に、札番号らしき文字がひとつ刻まれていた。




