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2-21. 店舗探し

 その後、異世界弁当屋タッパー亭は、数日かけて、小規模店舗エリアをひととおり回った。


 たいていどこのエリアにも、組合事務所前の出店でタッパー亭の弁当を買った店主がいて、『シロ』は冷めてもうまいことを覚えていた。


 そして、誰かひとりが店でおにぎり弁当を食べはじめると、周囲の店主も興味を持ってくれるのだった。


「ねえ。そろそろ、お店探さない?」


 そんなある日のこと、まかないの席で、マリーが切り出した。


「え。このまま、行商で続けるんじゃないの」


 スープの中の米飯(安定して炊けるようになってきた)をかき混ぜながら尋ねると、今度はヒナがバッサリ切り捨てる。


「トーヤ……。組合の厨房、いつまで借りてるつもり? 迷惑」


「ウッ」


「春から、新しいまかないの人が来てくれることになってね。それまでには出て行かないとって、昨日話してたの」


 マリーが補足した。


 ……なるほど。今はマリーが組合のまかない仕事をしているから、色々と融通を効かせてもらっている。しかし、この厨房が赤の他人の職場になるのであれば、いつまでも、厚意に甘えているわけにはいかないな。


「貸し厨房だと、他の人も使うから、衛生管理……とか、色々と面倒でしょ。やっぱりここは、自前の店舗を用意しないとね!」


「貸し厨房って?」


「……あれ。お弁当、前は貸し厨房で作ってたんじゃないの?」


「えっ! あっ、いや……」


 組合の厨房を借りる前、俺は日本の古アパートで弁当を作り、異世界に持ち込んでいた。


 しかしふたりは、穴の向こうにある地球世界のことなど知る由もない。だから、俺がこの街の『貸し厨房』とやらで、弁当を作っていると考えていたのだ。


「……あの、うん、そう。そうだね」


 視線を逸らしつつ適当に話を合わせると、ヒナが呆れたように口を開く。


「トーヤ、すぐ忘れる。ヒナ、鍋をストーブに置けるか、聞かれた」


「はい……」


 結局ふたりには、俺のド忘れで納得してもらえたようだった。


 昔から、ズレているとか抜けているとかよく言われたが、それが役に立つこともあるんだな。……いや、そもそも抜けていなければ、まずこんな事態に陥らないのだろうが。


「それでね。組合に、いくつか空き物件を紹介してもらったの。片づけが終わったら、見に行ってみない?」


「うん」


「お店決めたら、看板も頼みたいね。私、色々と案を考えてるの。あとで、トーヤにも見てほしいな」


「ヒナ、昨日も言った。看板は、スタンプと同じで良い。マリーのは細かすぎ」


「えー、そうかなあ……」


 マリーはちょっと頬を膨らませて何かブツブツ言っていたが、部屋から空き物件の資料を取ってくると、ダイニングを出ていった。


 ヒナはその後ろ姿を見送り、こちらを見上げて続ける。


「トーヤは、商売ヘタ。だけど、マリーより向いてる」


「えっ?」


「マリーは、『自分の好きな店』がやりたい。でもトーヤは、『おなか空いてる人に食べてほしい』って言った。自分が売りたいだけじゃ、買ってもらえない。お客が欲しいものを売る、それが商売」


 確かに俺には、店に対する自分のこだわりみたいなものはなかった。そもそもは、ヒナと仲直りしたくて始めたことだったし、今だって、マリーの独立の手助けをしているだけだ。


「分かってる? ヒナ、すぐ居なくなる。タッパー亭、マリーとトーヤの店。トーヤがしっかりしないと」


 ああ……そうだよな。ヒナの父親は、秋までヒナを預かることは承諾してくれた。でも、その先は? また彼を連れて、どこか遠くへ旅に出てしまうのだ。


「ヒナはさ、その……ずっとここに居るわけには、いかないの?」


 と尋ねた。


 ヒナは、父親は自分に関心がない、と言っていた。だったらこの街で、まずは俺たちと一緒に、そしてゆくゆくは自分のやりたい商売をやって生きていくという道も、あるのではないだろうか?


「……パパの隊商、いろんな街に支店ある。兄ちゃんたちが、商売してる。でも、この街にはない。こないだ組合に来てたの、支店を出す話かも」


 であれば、この街に、ヒナが暮らせる拠点ができるのだ。


 良いニュースに思えたが、ヒナは浮かない顔だった。俺が状況を理解していないと察したのか、彼は説明を続ける。


「ヒナ、子ども。大事な店の仕事、させるわけない。兄ちゃんがやる」


「まあ、そりゃそうだけど……手伝いとかでもさ」


 口ではそう言ってみたものの、それ以上の後押しはできなかった。


 実際に俺自身、それができずに、実家から逃げ出したようなものだった。

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