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2-18. 帳簿

「よし。じゃあ、今日の売り上げを精算しようか」


 昼食後、マリーが切り出した。


 組合事務所前で営業していた頃の仕入れや売り上げは、俺の財布で管理していた。しかし、今日の営業から、タッパー亭は正式にマリーの店になるのだった。


 彼女は上階から、帳簿らしき真新しいノートと万年筆を取ってきた。


 すでにいくつかの項目が記載されているが、字が読めないので詳細は分からない。たぶん、組合の厨房レンタル費用と薪代、ルカに払った材料費や工賃などだろう。


「はい。これ、今日の売り上げ」


 ヒナが、マリーの前に麻袋を差しだした。マリーは中身をテーブルに広げて、手早く数える。


「まず、売り上げが……おにぎり弁当二十六食で、ひとつ500円だから、1万3千円になるはずね。ちょうど揃ってる。で、出費が……トーヤ。シロって、いくらで仕入れてるの?」


 マリーが顔を上げた。ヒナもこちらを見た。


「えっと……」


 すき焼き弁当の原価率を計算した時、ネットスーパーで見た米の価格を思い出そうとした。


 細かい金額は覚えていなかったが、確か2キロで2千円ちょっとだった。ならば、1キロ千円としておけばいいだろう。


「今日使った分が、3キロ。1キロ千円で仕入れてる」


 と答えた。わずかに声が震えたが、なんとか、気づかれずに済んだ。


「他に、トーヤが仕入れたものはある?」


「えーと……炊飯鍋、使い捨てコップ、麻布と……塩くらいかな。……あれ。そういえば、ルカに鍋のフタを頼んだけど、あの代金、請求されてないような」


「うん、それは私が払った。トーヤが頼んだ後、請け負ってもいいかって、ルカに聞かれたから」


 ……なるほど。俺は一従業員の立場なのだから、直接ルカに頼んだりせず、先にマリーに話を通すべきだったのだ。


 日本の仕事はすでに辞めていたが、そういう立ち回りができないところが社会人としてダメだったんだろうなと、今さらながらヘコむ。


「それじゃ、ヒナのスープの素は?」


 マリーは俺たち(といっても、米以外はほぼヒナの記憶頼み)が申告した品名と金額を、帳簿に書き込んでいった。


 最後に、各々が使った金額を精算して、タッパー亭の財布から支払った。


「じゃあ、これからは、店用の財布を渡しておくから……店の出費はここから払って、何にいくら使ったかをメモしておいてね。あとで、帳簿に書き込むから」


 と言って、マリーは俺たちの前にそれぞれ麻袋を置いた。結構な金額が入っていそうな、重い音がした。さらに俺には、生活費だと言って別の麻袋までくれた。


「そんなユルい感じでいいの?」


「まあ、ほぼ家族経営みたいなものだし。私は、トーヤとヒナを信用してるよ」


 もちろん、店のカネを勝手に使い込む気など毛頭ない。でも、次からはちゃんと仕入品目と金額を手元にメモしておこう、と改めて決意した。


 そもそもタッパー亭を始めたキッカケは、俺が弁当の原価をマトモに把握しておらず、ヒナを怒らせたからなのだ。


 同じ過ちを、何度も繰り返すわけにはいかなかった。

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