2-12. 包装材
微調整の後、ルカはおにぎり木型の量産に入った。
こちらとしては、全部作ってからまとめて納品してくれても構わなかったが、彼は毎日、わざわざ港近くの倉庫から組合事務所まで歩いて、数個の木型を納品に来た。
もっとも、その理由は火を見るより明らかであり、つまるところルカはマリーに会いたいのだった。
「あのぅ……」
最後の木型を持ってきた日。
来客ロビーのテーブルで材料費の精算をし、工賃と一緒に受け取った後、ルカはじっとうつむいていたが、決心したように顔を上げて、口を開いた。
「木型の仕事は、これで終わりですけど……他に、何か仕事はねえでしょうか? 安い仕事でも、なんでもしますんで」
「うーん、そうねえ」
マリーは小さく首をかしげたが、何も思いつかないようだった。ヒナはもともとルカを良く思っておらず、わざわざアイデアをひねり出してまで助け舟を出す気はないらしい。
しかし、木型は消耗品だ。一度作れば、ずっと同じように使い続けられるわけじゃない。作り直しとまではいかなくても、今後も細かい調整、あるいは修理や追加などが必要になる可能性はある。
ルカは、まあ言動がうかつなところはあるが、丁寧な仕事のできる職人だった。今後注文のない状態が続けば、木工職人の仕事を諦めてしまうかもしれない。これで彼との縁が切れてしまうのは、もったいないのではないか?
「――あ、そうだ。包装材は?」
マリーが振り向いた。
「包装材?」
「そう。いま、おにぎりを包むのに包装紙を使ってるけど、似たものを木の薄板で作れないかな」
するとルカは、テーブルに両手をついて、半分腰を浮かせる。
「その、話だけでも、聞かせてもらえねえでしょうか!?」
と言うので、いま使っているおにぎり弁当の包装について説明した。手を汚さずに食べられるよう、包装の真ん中からふたつに割れるようにしたいのだと伝えると、彼は黙って考え込んだ。
「……その、やってみねえと分かりませんが……材には、割れやすい方向ってモンがあるんです。向きを合わせて、割りたいとこに薄くケガキすりゃ、手で割れるように作れるかもしれません」
「じゃあ、試作をお願いできる?」
「へえ!」
マリーが依頼すると、ルカは嬉しそうに立ち上がった。そのまま回れ右して、事務所を出ていこうとする。
「ちょっと、ルカ! お金忘れてる!」
「へ? ……ああっ! すんません、どうも」
彼はマリーの声に振り向くと、慌てて戻って来て、テーブルに置きっぱなしだった麻袋を懐へと押し込んだ。バタバタと去っていく後姿を見送って、ヒナがため息をつく。
「……ほんとに、アレに頼む?」
「まあ、ダメでも、今までどおり紙を使えばいいわけだから……」
宥めると、ヒナは呆れたように続けた。
「トーヤは、良いの?」
「……?」
「はあ。……なら、良いけど」
何の話だろうと思ったが、ヒナにはそれ以上、説明する気はないようだった。




