2-04. 土鍋
タッパー亭の基本方針と、メイン商品が決まった。
もちろん、おにぎりの形や具材には、検討の余地はある。だが、最初はシンプルに三角塩むすびだけで始めたほうが良いとヒナは言った。
そこで、俺の課題は次の段階、『どうやって作るか』に移行した。
俺は今までずっと、炊飯器で米を炊いてきた。しかし、大量の米を日本側で炊き異世界に持ち込むのは、重量や衛生面の問題から現実的ではない。生米の状態なら簡単に運搬できるが、異世界に炊飯器は持ち込めない。
もちろん日本人は、電力が地球社会に出現するよりずっと前から、米を主食にして生きてきた。少量の米も、大量の米も炊いてきた。そのノウハウは、炊飯器が普及しきった現代のネットの海にも、変わらず流れている。
ひとまず、土鍋を買ってみた。むろん、大量に炊くなら羽釜にすべきだったが、いきなり大物に挑戦すると何キロもの米を無駄にするリスクがあるし、仮にうまく炊けても食べきれない。
その点、土鍋サイズであれば、最悪うまくいかなくても、雑炊などにして一人で処理できるだろうと踏んだのだ。
早速、『土鍋 ご飯 炊き方』で検索。レシピを複数サイトで比較して食い違いがないか確かめ、各工程の意味も確認した。
今回は、ひとまず三合炊いてみることにした。研ぐところまでは、炊飯器と同じ。土鍋に入れて、しばらく水に浸したら準備完了。問題はここからだ。
まずは強めの中火で、沸騰するまで加熱。沸騰したら弱火にして、さらに加熱を続ける。
中で水の沸く音がしなくなったら少しだけフタを開け、水分が飛んでいるのを確認。再度フタをして中の温度を戻した後、火を消してよく蒸らす。
蒸らし時間のタイマーが鳴ったので、フタを開けた。しゃもじでひっくり返して底まで確認したが、ちゃんと炊けていて、温かい湯気と良い匂いが立ちのぼった。
驚くほどアッサリ成功した。まあ、既存レシピを忠実に実行したのだから、驚くことじゃない。再現性がないものをレシピとは呼ばないからだ。
しかし、このシンプルなレシピにたどり着くまで、昔の人々はどれほどの試行錯誤を続けたのだろう。
『初めちょろちょろ中ぱっぱ、赤子泣いてもフタ取るな』という覚え歌を思い出した。
彼らの努力の結晶は、覚え歌となって長い歴史の中を受け継がれ、炊飯器で米を炊く現代人の耳にさえ残っている。
米をおいしく食べたいという日本人のDNAに刻み込まれた執念が、そうさせたのだろうか。冷ましておにぎりにするつもりだったのに、思わず、温かいまま茶碗によそってしまった。




