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2-02. 先行研究

 忙しい小規模店主に、昼食を提供する。それが、タッパー亭の基本方針(コンセプト)(仮)になった。


 しかし、これは難題だ。忙しい朝にさっと購入し、昼の空き時間に手早くつまめて、とつぜん客が来てもすぐに飲み込める。店の仕事をしながら食べるとなれば、手が汚れるのも望ましくない。


 そんな都合のいい食事が――あるんだよな、これが。


 餅は餅屋。日本において、『便利な食事』といえば、ほぼコンビニの専売特許と言える。というわけで、俺は自宅最寄り駅に入っている某大手コンビニの、とある棚の前にいた。おにぎりのコーナーだ。


 俺は生まれてこのかた、コンビニおにぎりを食べたことがなかった。常に部屋に米袋がある人間は、わざわざコンビニで一個200円近くするおにぎりを買ったりしない。


 ……え、おにぎりってこんな高かったっけ? 大学生協で見た時は、100円とかだったような……まあ、いいか。


 昔は、コンビニおにぎりといえば三角形の海苔巻き型が主流だった気がするが、今は丸や四角などいろいろな形があるようだった。


 さらに、梅干しやおかかといった定番の具だけでなく、おかずのような大ぶりの具が入っているものや、混ぜごはんタイプもあるらしい。


 とはいえ、あまり棚の前であれこれ吟味しては、他の客に迷惑だ。数種類を買い物カゴに入れ、セルフレジで会計をして帰路についた。



   ◇  ◆  ◇



 もちろん、タッパー亭では、最初から多種多様なおにぎりを展開する必要はない。品数を増やすと調理や在庫管理が煩雑になるし、なにより米がない異世界では、『おにぎり』の時点で他店との差別化には十二分だからだ。


 すると、ひとまず考えるべきことは二点に絞られる。


 まず、『食べやすさ』は譲れない。ここをおろそかにすると、『忙しくても食べられる』という、タッパー亭の基本方針(コンセプト)(仮)が成立しなくなってしまう。


 次に、『作りやすさ』も重要だ。


 本格的に弁当屋をやるとなれば、今のお試し販売とは比べ物にならない、大量生産が必要になる。日本のスーパーで食材を仕入れ、古アパートで調理し、カバンに入れて異世界へ通勤するという現行手法は、あまりに非効率すぎる。


 最低限、生米は持ち込まざるを得ないにせよ、具材や容器などは現地調達、調理も異世界厨房で完結したいところだ。


 ――さて、解くべき問題は洗い出した。解を導くには、どこから手を付けるべきか?


 まずは、日本で広く売られている、成功済みの既製品を観察するところから始めよう。前例のないところに、とつぜん良いアイデアは生まれない。先行研究を調査する中で、自らの仕事の位置づけを探るのだ。


「………………」


 まずは、基本情報から。外観を原寸大でノートに写し取り、重量や原材料も書いておく。


 さて、食べやすさに深くかかわる部分といえば包装だ。コンビニおにぎりはビニール包装されているので、ビニール部分を持って食べれば手が汚れない。しかし、異世界にはビニールはなさそうだった。


 定番三角おにぎりの場合、ビニール包装は最初に取り去る前提だ。その場合は、海苔を持てばよい。しかし、異世界に海苔はあるんだろうか? 海苔そのものはなくとも、似たような食品はあるかもしれない。


 ひととおり観察し、気づきや疑問点を書きだしてから、実食に移った。最初は、一番シンプルな塩むすび。封を切り、ひと口食べてみる。


 冷めた状態で棚に並べられていたのに、そのまま食べても柔らかい。単に炊いた米飯を冷やしても、こうはならないはず。さすが、米にうるさい日本人に『コンビニおにぎり』を広く受け入れさせただけの、企業努力が感じられる――。


 などと考えながら食べていて、ふと気づいた。意外と、米をそのまま触っても、手につかないのだ。


 なぜだろう? 原材料に『調味酢』や『植物油脂』とあるが、これが関係してるのか?


 ラップトップで調べてみると、油を少量入れて炊くことで、冷めてもおいしさを保てる上に、くっつきづらくなるという。


 知らなかった。そもそも、米に水以外を入れて炊くという発想がなかった。ネットにレシピがあったので、明日やってみよう。


 最後に、弁当用におにぎりを作る場合の工夫や、衛生上の注意点等をネットで調べ、事前調査は完了。


 とりあえず、明日はシンプルな塩むすびを作り、ヒナやマリーに食べてもらうことにした。評判が良さそうなら、具材についての意見も聞いてみたい。


 餅は餅屋。異世界人の好みは、異世界人に聞くべきだ。

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