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1-24. 作戦会議

 十四時まで粘ったが、弁当は半分ほど売れ残った。


 ヒナは残った弁当を、希望する組合事務員に、定価から三割引の1000円で販売した。それで、俺が用意した十食の照り焼きチキン弁当は、なんとか全部売り切れた。


 出店セット一式や簡易ストーブを片づけ、事務員との状態チェックを済ませて返却した後、ヒナと共に例の広場へ向かった。


 俺は、異世界500円硬貨事件のせいで、弁当があまり売れなかったことについては、もはやどうでも良くなっていた。


 しかし、もちろん何も知らないヒナにとってはそうではなく、彼はまかない弁当を食べに広場へと向かう道中、俺の手を引きながら、ずっと何か考え込んでいた。


「まあ、売れなくても仕方ないよ。初日だし」


 と慰めた。するとヒナは、呼び込みもせずに座っていたばかりか自分の呼吸すら忘れてチアノーゼになったバカが、何やらエラそうなことを言っている、という白い目でこちらを見上げた。そもそも何も言われていなかったが、何も言い返せなかった。


「うれなかったのは、きにしてない」

「そうなの?」

「うん。ぜんぶうるのは、かんたん。ヒナがかんがえてるの、どうすれば、まちのひとが、タッパーテイのおきゃくになるか」


 目を瞬かせた。発言内容は聞き取れたが、意味が分からなかった。俺の困惑を察したのか、ヒナは説明を続ける。


「さっき、マリーがみんなに、『ベントー、かってくれるひと?』って、きいた。おとこたち、みんなきて、すぐ、ぜんぶうれた」

「……なるほど」


 もし、俺ではなくマリーが店頭に座り、弁当の売り込みをすれば、すぐに行列ができるだろう。十食など、瞬殺されるに違いなかった。


 しかし、それは問題集の解答をノートに丸写しするのと同類の行為であり、首尾よく売り切れたとしても、商売の実力は身につかないということか。


「え、でもさ。じゃあ、残った弁当は、マリーにお願いしてよかったの?」

「ベントーつくるの、おかねいる。さいごは、マリーにたよってでも、うる」


「でも、マリーがまちのひとにうったら、つぎからみんな、マリーのためにかいにくる。よいうりかた、わからなくなる。だから、くみあいでうった」


 言った直後、ヒナはなぜか、俺の腕を前ではなく横に引いた。


 ふと思い立ち、首を回して、ヒナが避けさせた空間を目視した。


 何もない石畳の地面だったが、もしかして馬糞が落ちていたんじゃないか、と思った。思えば過去にも何度か、ヒナは歩いているときに、妙な方向に手を引いたことがあった。


「トーヤ。ベントーたべて、うりかた、かんがえる」

「いいね」

「ひとごとじゃない。タッパーテイ、ヒナとトーヤのみせ」

「はい……」


 また怒られた。そしてまた、ヒナは何もない空間を避けた。



   ◇  ◆  ◇



「あったかくない」


 照り焼きチキンを頬張りながら、ヒナが言った。俺もチキンを頬張って、そうなんだよな、と思った。


 もちろん、弁当はそもそも冷めた状態で食べる前提であり、そのための濃い味つけをしていた。だから、味という意味では、冷めていても問題なく食べられるし、うまい。


 問題なのは、今が真冬であり、タッパー亭が屋外で営業していることだった。


 自分で客の立場になってみれば、すぐに分かる。


 真冬に、風の吹きすさぶ大通りを歩きながら、今日の昼飯は何にしようかなと考える。そこで、タッパー亭の弁当が売られている。


 見た目はうまそうだが、しかし、冷めた弁当を食べたいだろうか。うーん、やっぱ温蕎麦にしようかな、と俺なら思う。


 だったら、温かい弁当を提供すればいいわけだ。ここが日本であれば、電子レンジでチンすればいい。しかし、異世界ではそうはいかない。仮に電子レンジを持ち込んだとしても、電源がないので使えない。


「温蔵したらどうかな」


 と提案した。食品衛生講習会の動画で、『食中毒菌を増やさないために、10度以下で冷蔵するか、65度以上で温蔵しましょう』と説明があったのを思い出したのだ。


「はじめてトーヤにもらったベントー、あったかかった。トーヤ、あったかいベントー、できる?」


 そんなこともあったな、と思い出した。近所の公園に向かう途中であの穴を発見し、ヒナに出会い、レンチン済みの冷凍タッパー弁当をあげたのは半月前のことだったが、もうずっと遠い昔のような気がした。


「うーん、そうだな……」


 どういう手段があるだろう、と考えた。


 そうだ。借りている簡易ストーブを、熱源として使えないだろうか。ドラム缶のような形で、上部は平たくなっており、何か置けそうだった。


 まあ、俺の目にそう見えたからといって、異世界的にも平たいのかは不明だが……。


「ヒナ。あのストーブの上に、鍋を置けるかな?」


 尋ねると、ヒナは『何を言っているんだコイツは』という表情でこちらを見た。


「おける。……ストーブ、みなかったの? わすれた?」


 大丈夫そうだった。もしかすると、そういう情報も含めて、俺のイメージに反映されるのかもしれない。


 さて。ストーブに鍋を置けるということは、お湯を沸かせるわけだ。では、鍋に入れて蒸すのはどうか。タッパー本体が鍋底につかないように金網か何かで上げ底すれば、溶けてしまう心配もない。


「試してみる」


 と答えて、今度は冷えた米飯を頬張った。


 基本的に、米は温かいほうがうまいとされるし、俺もそう思う。でも、弁当の冷えた米って、なぜか妙にうまいんだよな、と考えた。

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