4-06. お泊り会
「トーヤ」
肩を揺すられて、目を覚ました。また寝過ごしたのかと飛び起きたが、窓の外に見える空は、まだ真夜中の色だ。
「うぅん……? どうしたの」
寝ぼけた頭で次に考えたのは、ひとりでトイレに行くのが怖いのかな、だった。薄暗くて、表情はよく見えない。
「あの……お泊り会、しない?」
よく眠れなかったのだろうか。
枕が変わったからか、もしくは、少し肌寒いせいか。夏とはいえ、湿度が低い街の夜は冷える。ストーブをつけるほどではないけど……。
「トーヤはまだ、お泊り会は、いや?」
「……いいよ」
毛布とクッションを小脇に抱え、ふたりで寝室に戻った。枕を奥へずらし、隣にクッションを置く。
持ってきた毛布はヒナに掛けてやり、その上からもう一度、ふたりで布団をかぶった。
元は夫婦の寝室だったのだろう、ベッドは、ひとりで寝るにはだいぶ広い。ふたりでも、まあまあゆっくり寝られるはずだが、ヒナはこちらへ寄ってくる。
「寒いの?」
具合が悪いのだろうかと心配になった。頬を触った感じ、熱はなさそうだが……。
「寂しい」
彼はぼそりと呟いた。
そういえば以前に、寂しくて眠れない時、父親が一緒に寝てくれたと言っていたな。
隊商を離れている今、ヒナにとってはマリーが姉代わりで、俺が父親代わりなのだろう。本物に比べると、ずいぶん頼りない代理だろうけど。
「ねえ。トーヤは、お別れ会……したこと、ある?」
ヒナが小声で尋ねる。
「……まあ。何度かは」
「トーヤも、したほうが良いと思う? 悲しくても」
問われて、少し黙った。
俺は今まで、卒業式後の謝恩会、研究室の追い出し会、会社の送別会といった、関係者の全員参加が前提になっている会には、義務的に参加してきた。
それらの会には、今後の人生でもう二度と会わない人も、たくさん来ていたはずだ。
けれど振り返ってみると、彼らとの別れを惜しいと感じたことは、一度もなかった。
「俺は、ないな。お別れ会で、悲しくなったこと」
ためらったが、結局、正直に言った。ヒナが怪訝そうに問い返す。
「なぜ?」
「うーん……。別れが悲しいのは、もう会えなくなるからだよね。俺には、また会いたいなって思うほど、仲の良い人は居なかったから」
「ヒナは?」
彼は間髪入れずに続けた。
「うん?」
「トーヤは、ヒナとお別れ、悲しくないの」
「それは……もちろん、悲しいけど」
初めてこちらへやって来たあの日から、ヒナはずっとそばに居たのだ。ヒナ不在の異世界など、受け入れる以前に、まず想像がつかない。
……それでも、その時は、容赦なくやってくるのだろうけれども。
「でもさ、何も知らないままで、いきなりマリーに『ヒナはお父さんが連れていったよ』なんて言われたら、……きっと、もっと悲しいと思うな」
「……そうだね」
ヒナはそれきり喋らず、やがて、安らかな寝息が聞こえてきた。
「おやすみ」とささやいて毛布を掛けなおし、こちらもまぶたを閉じた。




