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4-05. 焼きおにぎり

 おにぎりを食べたいので泊まっていく、とヒナは言った。きっとまだ、マリーと話す心の準備ができていないのだろう。


 ふたりで皿洗いと部屋の掃除、弁当チケットづくりをした。


 窓の外が暗くなると、ヒナは物置部屋から絵本を引っぱり出し、小さなランプの明かりを頼りに、音読して聞かせてくれた。


 こういう時は大人が読み聞かせるのが普通だが、俺には異世界の字が読めない。けれどヒナにしてみれば、世話を焼く相手がいるのは、きっと嬉しいことなのだ。


「――姫は王子と結婚して、幸せに暮らしました。めでたしめでたし」


 彼は最後の一文を読み上げて絵本を閉じると、未読の山から一冊取って、また音読をはじめる。


「むかしむかし、ある街に……」


 ヒナの声を聞きながら、紙面に視線を落とした。


 今度の絵本の主人公は、金髪碧眼の少女。なんとなく、幼い日のマリーはこんな子どもだったのかな、と考える。


「……」


 マリーがヒナの勉強用にと持ち込んだ大量の絵本は、幼い頃、祖父母にプレゼントされたものらしい。鮮やかな多色刷りの豪華な絵本で、いずれも保存状態の良い美品だった。


 内容は、『主人公がトラブルに遭い、王子様が解決して最後に結婚する』という王道ストーリーが多い。


 しかしその中に、まるで様子の違う一冊があった。


 自由帳らしきノートに黒ペン一色で手描きされた、シンプルな絵柄の本。あちこちのページが折れ曲がり、ボロボロの状態だった。


 しかしマリーは、その絵本をいちばん大切にしていた。手ずからヒナに読み聞かせ、毎回、大事そうに持ち帰った。


『これはね、母さんが描いてくれたお話なの』


 マリーはそう言ってはにかんだ。


 女の子が街の人々のトラブル解決に奔走する内容で、王子は出てこなかった。きっとそれが、幼いマリーが憧れた人生だったのだろう。


 たくさんの折れ目は、遠い日の彼女が、夢中でページをめくった証なのだ。



   ◇  ◆  ◇



「おしまい。おにぎり食べよう!」


 数冊読み終えた後、ヒナが宣言した。


 おにぎりは皿ごとカゴに入れ、布巾を掛けてあった。そのまま食べても良いが、せっかくなので、今回は焼きおにぎりにしてみよう。


 ストーブコンロにフライパンを載せ、薄く引いたひまわり油を加熱。おにぎりを置き、軽く焼き色を付ける。


 出来合い調味料店特製の甘辛たれをたっぷり塗って裏返すと、じゅうっという音に続き、たれが焦げる香ばしい匂いが漂う。


 ひっくり返して反対側にも塗り、水分が飛ぶまで両面を焼いたら完成。


「おおっ!」


 初めて作ったが、どう考えてもうまい。ハーブティーを淹れ、ついでに蒸しタオルの準備もしておく。


「おいしい!」

「そうだね」

「……マリーも、一緒に食べたらよかった」


 ヒナは、最初こそハイテンションだったが、すぐにトーンダウンした。うつむいて、ぼそぼそ続けた。


「ひどいこと言った。マリー、ヒナのために考えてくれたのに」


「ヒナはまだ、お別れ会をするのは、嫌?」


 尋ねたが、ヒナは答えず、焼きおにぎりを頬張った。お茶をひと口飲んで、しばらく黙って、やっと答えた。


「悲しいのは、いや。最後まで、楽しい友だちがいい」

「そっか」


 夜食を食べ終わり、一緒に歯を磨いた。


 ヒナには買い置きの歯ブラシを渡したが、異世界歯ブラシは色分けされていない。取り違えないよう、ヒナのはティーカップに入れて、ダイニングテーブルに置く。


「入っちゃダメだよ」


 ヒナはそう念押しして、蒸しタオルを手に寝室へ消えていった。


 しかし、彼は普段から公衆サウナに通っているはず。俺は入ったことはないが、さすがに個室とは思えないけどな。まあ、それはそれ、これはこれなんだろうか?


 身支度を済ませ、収納から毛布を引っ張り出してきた。ソファで寝る支度をしていると、ヒナが寝室から顔を出す。


「トーヤ、ソファで寝るの?」

「うん。ベッドは、ヒナが使っていいよ」

「わかった」


 彼は使い終えたタオルを洗濯カゴに入れ、部屋に引っ込んだ。俺もランプを消して毛布をかぶり、目を閉じた。

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