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4-04. 焼肉

「ヒナ。夕飯つくるの、手伝ってくれないかな?」


 店の二階に戻り、寝室に声を掛けた。


 応答はなかったが、深追いはせず、そのまま居間に入る。ストーブコンロで土鍋に米を炊き、羊肉にスパイスを振りかけて下味をつけた。


 米が炊けた頃を見計らって、もう一度、ヒナに声を掛ける。


「肉を焼くの、手伝って」


 はたして、今度は扉が開いた。ヒナは黙って出てきた。


 ストーブコンロは、小柄なヒナが作業するには少し高い。彼がふだんレジで使っている踏み台を、ストーブの前に持ってきていた。


「ヒナがやっていいの?」


「うん」


 今まで、ヒナにもおにぎり作りは手伝ってもらっていたが、包丁や火を使うような調理はさせていなかった。


 料理をする大人が二人いて必要なかったのもあるが、無意識のうちに、危険から遠ざけようとしていたのだと思う。


 でもヒナは、それが嫌だったんじゃないか。


 子どもだからと、やりたいことをさせてもらえない。大人にとってはほんの数年でも、子どもにとっては無限にも思える待ち時間。


 それでヒナは、早く大人になりたいと背伸びをして、自ら商売を学びはじめたのだろう。


 もちろん保護者としては、やりたいと言われたことを、ぜんぶ許可するわけにはいかない。


 でも、前に進んでいると自信を持てるよう、能力や安全に配慮しながら段階的に経験を積ませるのも、必要なことではないだろうか。


「……」


 幼い日のことを思い出す。


 ウチの実家は大規模米農家であり、普段の農作業は、当然ながら機械化されていた。


 けれど、ある田んぼの端のエリアは、何かの事情で農業機械では刈り入れができないという触れ込みだった。


 それで俺は毎年、兄と共に、昔ながらの鎌を使い、手作業で刈り入れを行うスキマバイトをしていた。


 ――いま思えば、機械が入れないというのは建前で、兄は俺の体験学習に付き合ってくれていたのだろう。


 けれど当時の俺にとっては、そのバイトをしている時だけが、『自分も家族の役に立てている』と誇りに思える時間だったのだ。


「トーヤ、焼かないの?」

「……ああ、ごめんね」


 温めたフライパンで、まずは脂身を焼く。油が出たら、下味をつけた羊肉を投入。ジュッと良い音がして、焼けた肉とスパイスの匂いが立ちのぼる。


「良い匂い!」


 トングを渡し、焼けた肉から裏返すように言った。


 大人用の調理器具はヒナの手には大きく、慣れていないので手つきもたどたどしい。どう考えても俺がやったほうが早いけれど、この『体験学習』の時間が、ヒナには必要なのだ。手は出すまい。


「もう良い?」


「そこ、まだ焼けてないよ。色が変わるまで、しっかり焼かないと」


「はーい」


 全体にきちんと火が通っていることを確認したら、焼肉を大皿に移し替え、乾燥パセリを振りかけて完成。


 蒸らし終わった土鍋の米飯も底からかき混ぜ、深皿によそってもらう。ヒナのアイデアで、異国情緒スープも作った。


 あとは、普段なら野菜の付け合わせを追加するところだけれど、一食くらいは栄養バランスに目をつむっても良いだろう。ヒナのリクエストは『肉』だったしな。


「じゃあ、食べようか」

「うん!」


 ヒナはすっかり機嫌を直していた。


 ヒナがいつもの席に座ったので、俺がひとつ隣にズレて、彼の前に座る。大皿からそれぞれ焼肉を取り、米飯に載せて頬張った。


「おいしい!」


 老店主は、白米に合うスパイスを選んでくれたようだった。余った米はおにぎりにし、皿ごとカゴに仕舞って布巾を掛けた。

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