4-07. 手伝い
翌朝、俺は先に起きて身支度をし、静かに一階へ向かった。おそらく普段の起床時刻であろう頃に、ヒナが下りてくる。
「おはよ」
「おはよう。健康チェックは、済ませた?」
「うん。……何か、ヒナがすることある?」
期待の目を向けられたが、すでに米は炊きはじめた後だった。木型の煮沸やかまどの火加減調整を任せるのは、安全面や商品への影響を考えると、さすがに……。
「そうだ。昨日、上にヒナの踏み台を持って行ったの、元に戻しといてくれる?」
「わかった」
「あ、待って。鍵、これ」
南京錠なので、施錠は鍵が無くてもできるのだが、一度閉めると開けられない。ヒナは戻ってきて鍵を受け取り、ふたたび二階へ向かう。
保護者は大変だな、と思った。
子どもは、忙しそうな大人を手伝おうとする。しかし、慣れていない子どもに手伝われても、結局は大人が段取りやフォローをしなければならず、却って手が掛かってしまうのだ。
普通に自分でやったほうが早いのだが、子どもは善意なので、無碍にするのも申し訳ない。
その点、かつての俺は、トロくてドジなくせにやたら大人の真似事をしたがるという、じつに厄介な子どもだった。そのうえ、うまくできないと落ち込むのだから、始末に負えなかっただろうな……。
ヒナは踏み台を手に足早に戻ってきて、レジの足元に置いた。マズい。これ、すぐに次の仕事を要求されるやつだ。
「おはよう」
裏口から、マリーが入ってきた。いつもより早い時間だった。市場に寄らずに、直接こちらへ来たのだろう。助かった。
「ヒナ。マリーと買い出しに行っておいで」
「……うん」
ヒナは少し緊張している様子だったけれど、おとなしく頷き、ふたりで裏口を出て行った。
◇ ◆ ◇
戻ってきた時には、ふたりはすっかり仲直りしていた。日替わり弁当を製作してカウンター横の机に運び、ヒナが黒板にメニューを書いた。
「いらっしゃいませ!」
シャッターを開けると、すでにお客が待っていた。今日は、ヒナにレジに立ってもらった。途中で俺と交代して、マリーとヒナで朝のまかないをつくり、三人で食べた。
ヒナは、イキイキと仕事をしていた。
近頃の彼は、今後俺たちが二人でもやっていけるようにと、意識して手を出さずにいてくれたのだ。従業員用休憩スペースで本を読んでいるのは、ラクではあっても、楽しくはなかったのだろう。
営業を終え、昼のまかないを食べた後、俺は米の仕入れのために店を出た。
その間、マリーとヒナは市場に用紙や飾りの買い出しに出かけ、店の二階でお別れ会のポスターを作ると言っていた。
異世界の夏は終わりかけだったが、東京の残暑はまだまだ厳しい。暗くなるのを待って帰ってきた頃には、二人はもう店には居なかった。
つくったポスターは見当たらず、ストーブコンロの炉の中に、紙の切りくずだけが残っていた。切りくずを着火剤にしてお湯を沸かし、ハーブティーを飲む。
大家さんと飲んだ緑茶は、故郷の味がした。けれど、今はこのハーブティーが、我が家の味だと思えた。




