4-02. 立てこもり
「え、いいよ、お別れ会なんて……」
帰ってきたヒナに打診すると、彼は困惑した様子で首を振った。
いわく、隊商は街を転々と移動しており、たいていは長くともひと月やそこらで発つため、今まで、街でできた友だちとの別れの場を設けたことはないらしい。
「出発の時、見にくる子はいたけど。ラクダ、珍しいから」
「でも、仲良くなって、もうずいぶん経つでしょう。今回は、やってもいいんじゃない?」
「……だって、楽しい友だちなのに。わざわざお別れして、悲しくなるのは、いや」
ヒナは頬を膨らませた。
弁当チケットを導入し、店に子どもたちが来るようになって数か月。ヒナにとって、これほど長期にわたって続いた友だちは初めてなのだ。
いずれ別れの日が来ると分かってはいても、今はまだ、目を背けていたいのかもしれない。
「悲しいのは分かるよ。でも、お別れは、ちゃんと言ったほうが良い。挨拶もなしに居なくなるだなんて、それこそ、悲しいと思わない?」
「ヤダ! マリーの意地悪!」
マリーの声は優しかったが、ヒナは強く拒絶した。バタバタと居間を出ていき、すぐ隣にある、俺の寝室に立てこもってしまう。
「ヒナ……」
マリーが、扉の前に立ち尽くす。
「……ごめんね。また、あとで話そうか」
扉に錠前はついていないし、重い家具はヒナの力では動かせない。やろうと思えば、押し入ることはできる。
けれど今は、そっとしておいたほうが良いと判断したようだった。
「どうしよう」
マリーは居間へ戻ってくると、眉を下げてささやいた。室内の壁は薄いので、普通に話していると、会話が聞こえてしまうのだ。
「うーん……」
普段なら、マリーとヒナはそろそろ、事務所に帰る時間帯だ。ふたりとも戻らなければ、心配した親方が、様子を見に来るかもしれない。
あまり大ごとになると、ヒナも後に引けなくなってしまうだろうからな……。
「マリーは、先に帰ってて。ヒナには、ウチで夕飯を食べさせて……後で事務所へ送るか、ウチに泊めるかするから」
わざと、ヒナにも聞こえるように言った。マリーが頷く。
「ありがとう、お願いね」
マリーが帰った後、寝室の扉の前に立った。ひとまず、送別会の話は脇に置くとして、聞きたいことがあった。
「夕飯の買い出しに行ってくるけど、ヒナは、何が食べたい?」
「……肉」
やや間が空いて、返答があった。
あまりにも漠然としたリクエストだが……まあ、いいか。市場に行って食材を見れば、いい考えが浮かぶことだろう。




