4-01. 企画
「ねえ。ヒナのお別れ会、企画しない?」
夏も終わりに近づいた頃。昼食後のお茶の席で、マリーが切りだした。
ヒナは友だちと遊ぶ約束をしているとかで、食べ終わるなり出かけたので、居間には二人きり。
「そういえば、隊商って、いつ帰ってくるの?」
尋ねると、マリーは「そうだねえ」と呟く。
「詳しい日程は分からないけど、たぶん、感謝祭の頃には」
「感謝祭?」
「うん、商人組合の主催でね。毎年秋に、港に仮設の出店会場を作って、商売の場を提供してるの。最初の頃、組合事務所の前庭を間借りしてたでしょう? あれの、大規模版って感じかな」
「なるほど」
事務所前の出店は、たまたま通りかかった人が立ち寄るスタイルだったが、大規模イベントとなれば街じゅうから、また近隣都市からも人が集まるだろう。
それだけ客の目に留まるチャンスが増える、ということか。
「じゃあ、ウチも出店する?」
送別会を開くより、祭りにタッパー亭の出店を出すほうが、ヒナへのはなむけには相応しいように思えた。
感謝祭に合わせて隊商が戻って来るなら、彼が商売をする姿を、また父親に見せることもできる。
「そうだね。……まあ、それはそれとして。夏休みが終わる前に、お友だちとのお別れの場を作ってあげたいの」
マリーが話を戻した。……なるほど、お別れ会というのは、俺たちとではなく、子どもたちとのか。
ヒナの交友関係は、詳しくは知らないのだが、店にやって来る子どもたちを通じて、たくさんの友だちができたようだった。
特に夏休みに入ってからは、朝食を食べにくる子どもたちに誘われ、遊びに出かけることも多い。
「ポスターを作って、お店に貼ろうと思うの。そしたら、大人のお客さんたちも、ヒナに声を掛けてくれるかもしれないでしょ」
ヒナは、大人の常連客にも可愛がられている。急に居なくなったら、彼らも悲しむはずだ。とはいえ、忙しい朝のお客に、いちいち口頭で説明するのも押しつけがましい。
その点、お別れ会の告知ポスターを壁に貼っておく、という距離感はちょうどいいかもしれない。
「いいね」
「場所は、二階には入りきれないと思うから……お昼どきを外して、広場でやるのはどうかな。参加費は、500円で」
「え、子どもたちからお金取るの?」
「うん。別に、お金は私が出しても良いけど……事前に参加費を用意するのは、子どもたちにとっても、心の準備になると思うの。何の準備もなしに、急にお別れするのはつらいから」
マリーはちょっと俯いた。母親との突然の別れを、思い出しているのだろうか。
「大丈夫?」
「うん。……ポスターの紙や飾りも、買いに行かないとだね」
そうか。告知ポスターを作り、会の内容を企画し、準備し、当日を迎える。お別れ会は、子どもたちだけでなく、俺たちにとっても、ヒナとの別れの儀式の一環なのだ。
お茶を飲んだ後は、いつもどおり手分けして、昼食の片づけをする。食器を洗いながら、テーブルを拭くマリーに話しかけた。
「……あのさ、マリー。ヒナは、その……ずっとうちに居てもらうわけには、いかないの?」
ヒナは、マリーと父親が対立することを恐れて、この話題を口に出せずにいた。
しかし、俺はタッパー亭の一従業員。心情的にはともかく、立場的には無関係の第三者だ。俺になら、マリーも本音を話せるのではないだろうか。
「うーん。北への旅は、半年なんだけどね。南への旅は、戻ってくるのに三年かかるから。さすがに、許してもらえないんじゃないかなあ」
「三年か……」
いま十一歳のヒナも、三年後には十四歳。あの父親も、ヒナの将来について、何かしら考えがあるはずだ。隊商で仕事を教えるとか、どこかの学校に入れるとか。
「仕方ないよ。ヒナだって、ずっと今のままではいられない」
マリーの声は寂しげに聞こえた。
でも、これはよその家庭の問題。他人の俺たちには、口は挟めないのだった。




