3-31. 書き割り
公演は、大喝采のうちに幕を閉じた。
割れんばかりの拍手の中、主役のふたりを中心に演者たちが緞帳の前に再登場し、深々とお辞儀をした。
演者たちが舞台袖に引っ込むと、まず、領主の一家が会場を後にした。次に前方協賛者席の人々が退場し、ようやく後方席の観客たちも動きはじめた。
「トーヤさんじゃないですか」
人波に乗って外へ出ようとしたところで、背後から声を掛けられた。振り向くと、ルカがこちらへ歩いてくる。
「今日は、お嬢さんがたは、ご一緒でないんで?」
「ああ、うん。ちょっと……ルカもひとり? 演劇好きなの」
話を逸らそうと尋ねると、彼は首を振った。
「いえ、おれは組合の仕事で来たんですが。せっかくなら劇も見てみろと、親方が言いなさるので」
「そうなんだ」
端に寄って話しているうちに、緞帳が上がった。舞台では、すでに片づけが始まっている。
「この後、暇ですか? 時間があんなら、手伝ってもらえませんか。書き割りの木枠、解体するんで」
「え? うん……」
舞台背景の書き割りは、土台となる木枠の上部に、日めくりカレンダーのように固定されていた。両端にスタンバイした生徒たちが書き割りの裾を持ち上げめくることで、場面転換ができる仕掛けだ。
書き割り自体は生徒たちが剥がして持ち去ったが、土台である木枠の解体は、木工組合の担当らしい。
ルカの他にも数名、若い職人が舞台上にいた。そのうちのひとりが、こちらを見て変な顔をする。
「ルカ、それ誰?」
「おれの知り合いです。手伝いを頼んだんで」
「はあ? 工賃払うンなら、テメエの財布から出せよ」
筋骨隆々の若者が何人もいるというのに、なぜわざわざヒョロいアラサー男を手伝いに駆り出すんだ、という顔だった。ちょうど、俺も同じことを考えていた。
彼らは木枠を手早く解体すると、舞台上から外へと運び出した。
表には子どもたちが待っていて、運ばれてきた木材をさらに細かい部品に分解し、荷車に積み込む作業をしている。
不思議なことに、木枠は一本の長い木材ではなく、端材をつなぎ合わせて作られているのだった。
最初は、材料費の節約のためかとも考えたが、これでは却って手間がかかり、人件費がかさむのではないだろうか?
訝しんでいると、ルカが分解作業をしながら説明してくれた。
「建材の木組みの仕事は、腕が立たねえモンには任せらんねえでしょう。けど、仕事をしなけりゃ、腕は上がんねえ。そんで組合が、こういう『すぐ壊す仕事』をつくって、若手に回してくれるんで」
「……ああ、なるほど」
「この冊子も、若手の仕事で。ページの端んとこに、そいつを彫った職人の名前があんでしょう。冊子を買ったお客に、自分の仕事を見てもらえるんです」
ルカはズボンのポケットに突っ込んでいた公演パンフレットを開き、自分が彫ったらしいページを広げてみせた。
確かにこの仕事ぶりを見れば、彼を名指しで注文したいという客も現れることだろう。
「おいルカ! テメエ、なにサボってんだ!」
「ひっ、すんません!」
俺とルカは子どもたちに交じり、運び出されてくる木材を分解していった。作業を終えると、荷車は薪サイズの端材でいっぱいになった。
「こいつは孤児院に持ってって、薪として寄付するんで」
なるほど、良くできた仕組みだな、と感心する。
開港祭もそうだったが、イベント用の仮設設備は毎回新しく作り直すことで若い職人に仕事を与えて腕を磨かせ、終わった後は薪として寄付するのが、この街のやりかたなのだ。
「じゃ、ルカ。あとやっとけよ」
筋骨隆々の若者たちはそう言い残し、荷車と子どもたちをその場に残して去っていった。
彼らは『今日の工賃で、ちょっと良い店に飲みに行こう』というような話をしていたが、ルカはそういう会には誘われないらしい。
なんとなく、ほの暗い親近感をおぼえた。




