3-28. 女子会
休憩中、部屋の隅では順次、演者のメイク直しが行われていた。主役ふたりの順番は最後なのだろう、後輩たちは弁当を食べ終わると、そのまま雑談を始める。
「マリー先輩、せっかく来たんだし、演技指導してください。マリアが誘いを断るシーンの」
ふと、ヒロイン役の子が、身を乗りだしてマリーに頼んだ。
「ええ? そんな……あなたのしたい演技を、したらいいと思うよ? 上手なんだから、自信を持って」
「そんなこと、分かってます。でも、わたし、夏公演で先輩の演技を見て、演劇部に入ったんですよ? 去年だって、指導してもらえるのを楽しみにしていたのに、先輩、途中で学校辞めちゃうし……」
不満げに言いかけたところに、慌てたエリザ嬢の妹が「ちょっと!」と割って入る。
「……ごめんね。去年の公演、途中で投げ出しちゃって」
「いえいえ、そんな! だって、お母さまが亡くなられたんですから。仕方ありませんよ」
「そうなの!? うわっ、ごめんなさい……」
「ええっ、知らなかったの!?」
「うん。てっきり、良い縁談が決まって、それでお辞めになったんだとばかり……。でも、そうよね。マリー先輩が、あんな小さいお店に嫁ぐはずないもの」
と言って、ちらと俺を見た。なんでこんなやつがマリーの隣に座っているんだという、怪訝そうな表情だった。
「あはは。タッパー亭は、私のお店だよ。トーヤとヒナに、手伝ってもらってるの」
「すごいですよね! 女の人が、自分で店を始めるなんて。ご主人が亡くなって、おかみさんが切り盛りしてる……とかは、たまに聞きますけど」
「どうして、自分のお店を始めたんですか? マリー先輩なら、あちこちの大店から、お見合い話が山ほど来るでしょう?」
「……さあ、どうなのかな」
マリーの曖昧な返答に、エリザ嬢の妹が同調する。
「難しいですよね。大店は、家柄の時点で相手が限られてしまうじゃないですか? そのうえ、年齢や性格まで合う相手となると、なかなか……」
「あら。お姉さまは、まだ、嫁ぎ先が決まらないの?」
「……うん。近頃はもう、お見合い話もなくって……。この街には、エリザ姉さんの隣に立てる殿方は居ないのかもしれない」
「困ったわねえ。お姉さまが嫁入りなさらないと、あなただって、お見合いもできないじゃないの!」
「うん。まあ、そうなんだけどさ……」
何か言いかけたところで、エリザ嬢の妹がメイク直しに呼ばれた。入れ替わりに、街娘の衣装を着た生徒がやって来て、彼女がいた席に座る。
「あんまり、ズケズケ言わないほうが良いよ? 気にしてるんだから」
声を潜めて、ヒロイン役の子を窘めた。彼女は「だって」と頬を膨らませ、ちらとエリザ嬢の妹の後ろ姿を見やる。
その後の楽屋トークは、完全に女子会モードに移行した。
俺がここに居ていいのだろうかと不安になったが、いまさら席を立つのも却って目立つ気がして、空気に徹することにした。
まあ、飲み会ぼっちは慣れていた。さすがに、女子会ぼっちの経験はなかったけど。
やがて、エリザ嬢の妹のメイク直しが終わり、ずっと喋っていたヒロインの子が呼ばれた。
そろそろ、昼公演の開演も近い。俺は弁当ガラを回収して行商カゴに詰め、マリーとヒナがテーブルを拭いた。
カゴは楽屋に置いて行き、昼公演後に取りに来ても構わないという。そろそろ会場へ向かおうかと立ち上がりかけたところで、とつぜん、ノックもなしに裏口のドアが開いた。
「おお、マリア!」
男の声だった。楽屋にいた全員が、一斉にそちらへ目を向けた。




