3-23. 後輩
「こんにちは。今、よろしいですか?」
ある日の十時過ぎだった。
朝のまかないを食べ終え三人で話していると、ふいに通りから声を掛けられた。目を向けると、揃いのワンピースを着た女の子が二人、立っている。
「あら! どうしたの」
マリーが声を弾ませ立ち上がった。どうやら知り合いらしい。ふたりは店の軒先へ入ると、カウンター越しに頭を下げた。
「お久しぶりです、マリー先輩」
「この子たち、演劇部の後輩なの。開港祭の公演では、ふたりが主役だったんだよ」
マリーが振り向き、こちらへ紹介する。ワンピースは、きっと、女学校の制服なのだろう。いかにも『お嬢様学校』というデザインだ。
「もう、学校は夏休みだよね?」
問いかけに、ふたりは揃って頷いた。
「今日は、お稽古はしないの? 夏公演が近いでしょう?」
「ええ、その、夏公演のことで来たんです。お昼の配達って、お願いできますか? 姉に、この店の……オニギリ? なら、わたしたちも、楽屋で食べられるんじゃないかと勧められて……」
「まあ! エリザ先輩が推薦してくれたの? 嬉しい!」
マリーが声を弾ませた。この大人しそうな子は、エリザ嬢の妹なのか。ちょっと意外だが、言われてみると、背格好や顔立ちは似ているな。
「注文は、何人前?」
「ええと、五十人前です」
マリーは、カウンターからメモ帳と万年筆を取ってきて、注文内容を書きつけた。
「予算はどれくらい?」
「3万円でお願いできますか。配達料込みで」
「うん。演者は、いつもどおり十二人でいいのかな」
「はい」
「お弁当の内容は、どうしようか。お任せでもいいけど、何か希望があれば」
「でしたら、姉は、ハチミツが絶品だと言ってたので……」
マリーの表情がぱっと輝いた。
これはマズいことになった……とヒナと顔を見合わせたが、はたしてマリーは、俺たちが何か言う前に首を振った。
「ハチミツおにぎり、私はとってもおいしいと思うんだけど、苦手な人も結構いるみたいで……全員ぶんっていうのは、やめておいたほうが良いかも」
「そうなんですか?」
「ええ。でも、興味があるなら、ぜひ食べていって!」
「じゃあ、ふたつください」
俺が会計をし、マリーが奥の厨房でハチミツおにぎりを製作した。戻ってきた彼女は、包装材をふたりの前で割ってみせ、それぞれの前に差し出す。
「はい、こちら、ハチミツチーズおにぎりです!」
いつの間にか進化していた。そういえば、前にエリザ嬢と『米の隙間からハチミツが漏れるのを何とかできないか』という話をしていたが、チーズと混ぜて解決したのか。
「……うわっ、おいしい!」
ひと口食べるなり、もうひとりの子が目を丸くした。エリザ嬢の妹はといえば、「あー……なるほど」と言葉を濁す。
「確かにその、……人を選びそうですね、これは」
最大限、言葉を選んでいた。彼女自身は、選ばれなかったようだった。




