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第十一話:救済という名の暴力

第十一話:救済という名の暴力


 救われたい、という欲望ほど、攻撃的なものはない。

 私はそう思うようになった。

 誰かが私に手を差し伸べるとき、そこには必ず条件がある。

 言葉にされない条件。

 態度として滲み出る条件。

 ――そのままでいい、と言いながら、変化を期待する目。

 救済は、形を変えた要求だ。

 要求は、従わなければならないという圧力を生む。

 私は、弱っているときほど、救いを拒む。

 拒むことで、自分の輪郭を守ろうとする。

 だが拒否は、孤立を招く。

 孤立は、さらに弱さを深める。

 この循環を、私は何度も繰り返してきた。

 「助けたいだけ」

 その言葉を聞くたび、背中が硬直する。

 助けたい、という欲望の裏に、優位があることを、私は知っている。

 助ける側は、選べる。

 助けられる側は、選べない。

 私は、選べない立場になることを、極端に恐れている。

 だから、先に壊れる。

 壊れていれば、救済は成立しない。

 これは、狡猾な戦略だ。

 そして、ひどく疲れる。

 過去に、私は一度だけ、救われかけたことがある。

 相手は、私の言葉を修正しなかった。

 解釈もしなかった。

 ただ、そこに置いた。

 それが、怖かった。

 正しさを与えられないこと。

 意味づけされないこと。

 救済は、理解の形を装って、相手を固定する。

 「あなたはこういう人」

 この断定ほど、暴力的なものはない。

 私は、固定される前に、暴れる。

 言葉を乱し、態度を壊し、関係を破裂させる。

 そうすれば、誰も私を救えない。

 救えない存在であることは、自由だ。

 だが自由は、寒い。

 夜、布団の中で、救われなかった自分を思う。

 そして、救われたかもしれない未来を、想像してしまう。

 その想像が、私を責める。

 もし、あのとき手を取っていたら。

 もし、拒まずにいたら。

 仮定は、救済よりも残酷だ。

 現実には起きなかった可能性を、延々と提示する。

 私は、救済を語る文章を嫌悪する。

 そこには、必ず結末が用意されている。

 回復。

 再生。

 希望。

 だが私の内部では、回復は不均一に起こる。

 ある部分は治り、別の部分は腐る。

 再生は、同時に破壊を伴う。

 救済は、その矛盾を無視する。

 キーボードを打つ。

 今日は、強打しない。

 音を抑える。

 抑えることで、救済から距離を取る。

 私は、自分を救わない。

 そして、誰かを救おうともしない。

 ただ、ここにある状態を、正確に書く。

 それだけが、今の私に許された行為だ。

 救済のない文章。

 結末のない感情。

 それらは、売れない。

 評価されない。

 だが、暴力は含まれない。

 私は、その非効率さを、選ぶ。

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