第3話 【魔王のプライド】神域の独占禁止法、アンバインド(武力介入)します
空を埋め尽くす天使の軍勢。
アルフレッドが熾天使の一角を崩したものの、天界の物量はいまだ圧倒的であった。
「不浄なる地上の民よ、これ以上の抵抗は『規約違反』である。……全人類の魔力を一括徴収する!」
天界の第二軍団、数百の「権天使」が天に槍を掲げると、巨大な魔力吸引陣が展開され、街の明かりが、そして人々の活力が吸い上げられ始めた。
だが、その絶望を切り裂くように、地平線の彼方から漆黒の雷鳴が轟いた。
ドォォォォォォォォォォン!!!
「――おいおい。……神ともあろう者が、他人の領土で勝手に『集金(魔力徴収)』とは、感心せんな」
拡声魔法によって大陸全土に響き渡る、傲慢不遜にして不敵な声。
雲を割って姿を現したのは、全長数百メートルに及ぶ漆黒の魔導巨大戦艦――魔王軍旗艦『ベリアル』。
その後方には、最新鋭の魔導戦闘機や駆逐艦が、整然たる陣形を組んで空を埋め尽くしていた。
「……ゼクス陛下。……予定より3分遅れの『出勤』ですね」
地上でバインダーを片手に空を仰ぐゼノンが、通信機越しに冷たく告げる。
『ハハハ、ゼノンよ。……これだけの艦隊を動かすための「稟議」を通すのが、どれだけ大変か分かっているのか?
……だが、安心しろ。……我が『魔王軍』のシェアを、あの時代遅れのワンマンオーナー(神)に奪わせるつもりはない』
戦艦のブリッジ。豪華な椅子に深く腰掛け、高級なワイングラスではなく「栄養ドリンク」を片手にした魔王ゼクスが、不敵に笑った。
「全艦、主砲開栓。……ターゲットは、空に浮かぶあの不愉快な『利用規約(令状)』だ」
「バ、バカなッ!? 地上の王ごときが、神の法に砲火を向けるというのか!
汝の国は、神罰によって滅びるであろう!!」
権天使たちが驚愕に叫ぶが、ゼクスは鼻で笑った。
「滅びる? ……笑わせるな。……我々は既に、神の奇跡に頼らぬ『自立経営』を確立している。
貴様らが言う神罰とやらの『減価償却』は、我が軍の防衛予算で既に計算済みだ。
――全艦、撃て(アンバインド)ッ!!」
ゴアァァァァァァァァァッ!!!
漆黒の船体から放たれた、数千の魔導収束砲。
それは神の加護を無視し、純粋な「エネルギー飽和」によって空間そのものを焼き切る、魔導科学の結晶。
「ギャアアアアアアアアッ!?」
黄金の盾を構えていた天使たちが、その圧倒的な物理火力の前に、紙屑のように燃え上がっていく。
『ゼノンさん! ゼクス陛下の艦隊、凄まじいですよ!
天界の防御術式を「過剰なデータ負荷」で無理やりパンクさせてます!』
「……ええ。……彼は『信仰』よりも『効率』を選んだ。……その結果が、あの暴力的なまでの解答です」
ゼノンは冷静に状況を分析しながら、次なる一手を指し示す。
「ゼクス陛下。……令状の右下、第47項の魔力結節点を狙ってください。
そこが、全人類の魔力を吸い上げている『振込先口座』です」
『了解した。……野郎ども! ターゲットは神様の「金庫」だ。
――一文字残らず、物理的に削除してやれ!』
旗艦ベリアルの主砲が、赤黒い光を放ちながらチャージを開始する。
「させるかッ! 神の領域を汚す不届き者どもめ!!」
天使軍の精鋭が戦艦に特攻を仕掛けるが、魔王軍の迎撃システムがそれを冷酷に弾き返す。
「……遅いな。……神の使いともあろう者が、最新の『セキュリティソフト(対空魔法)』も導入していないのか?」
ゼクスが立ち上がり、空に浮かぶ召集令状を見据えた。
「神よ。……お前はかつて、我ら魔族を不浄の者として排斥した。
だが、そのおかげで我々は、お前の『慈悲』に頼らず、泥を啜りながら独自の進化を遂げることができた。
――今の我々にとって、お前は敬うべき創造主ではない。
……市場を独占しようとする、ただの『迷惑な同業者』だッ!!」
ゼクスの咆哮と共に、旗艦の主砲が放たれた。
ズドォォォォォォォォォォン!!!
直撃。
空に浮かぶ巨大な羊皮紙が、その一撃によって大きく引き裂かれた。
吸い上げられようとしていた魔力の奔流が逆流し、地上へと還元されていく。
「……バ、バカな……。……我らが神の……『絶対契約』が……物理的に破れるなど……」
権天使たちが絶望に染まる中、ゼクスは満足げに肩をすくめた。
「……我が友よ。……これで少しは貸しを返せたな。
……後の『事務処理』は任せた。……我々はこれより、逃げ惑う天使どもの『再教育』、
もとい、戦後処理の『コンサルティング』に忙しいのでな」
魔王軍の艦隊が、整然と隊列を組み替え、天界の軍勢を追い詰めていく。
勇者の「個人としての覚醒」に続き、魔王の「国家としての独立」。
天界の支配体制は、確実に、そして無惨に崩壊を始めていた。
「……お見事です、ゼクス陛下。
……さて、ルナ。……『ハードウェア(武力)』の破壊は終わりました。
次は、『ソフトウェア(論理)』の書き換えといきましょうか」
『了解、ゼノンさん! ――次はカナデちゃんの出番ですね!
深海の天才が、天界の「OS」に直接ハッキングを仕掛けますよ!!』
ゼノンは、激しく燃え上がる空の下で、次なるクライアントへと通信を繋いだ。
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