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VS暑慧鬼 R1

「たった一人で敵陣を突き進み、ついには攫われの姫の元へたどり着いた勇者。しかし、立ちはだかるは全勝無敗の絶対王者、我らが暗黒四天王暑慧鬼ゼンザイィ!!果たして、勇者は四天王を打ち倒し、攫われの姫を助けることはできるのか!?乞ご期待なのじゃ!」

 

 白い風のマイクで状況を説明する幼女。


 ……今の状況を客観的に見るとそんな感じなのだろうか?

 ばぁちゃんに掴まり引き摺られてたら、いつの間にかここにいただけなんだけどな……。

 てか、どうしてこうなった!?

 

 そもそも、なんでプロレスのリングが平原のど真ん中にあるんだよ!

 しかも、なぜかリングの上だけ不自然に霧が立ち込めてないしさ。

 相も変わらず一寸先も見えぬ濃霧となっているリングの外をじっと見つめる。



 「あー、よく来たなぁ、歓迎……おぉっと、いけねぇ。シルコォッ!」

 突然大声で叫び出す四天王。


 「なんじゃ?」

 「ほらっ!アレくれよアレ!」

 「わかったのじゃ」

 自身が座っていたパイプ椅子をふわりと浮かせると、四天王のもとまで届ける。


 「おう、ちょうど疲れてたんだ……って、これじゃねぇよ。口元のそれだよ、それ」

 「うむっ、それは失敬」

 「へへ、秘密兵器を出すにゃまだ早ぇだろ?」

 「今しゃべってしまったから、もう秘密じゃなくなったのじゃ」

 お互いに指さしたあと、顔に手を当て大笑いしたあと、椅子とマイクを交換する。


 「またせたなぁ!よくぞ来た、勇者よ。オレ様は魔王軍が誇る暗……」

 マイクを手にしゃがれた声で話す四天王……が、なぜか途中で止まる。

 

 「がはははは……オレ様としたことが何ちゅう凡ミス!これは冴えてねぇぜ。やっぱ盛り上がりは必要だよなぁ……シルコォッ!」

 すっと、腰を浮かせパイプ椅子に手をかける幼女。

 「いやいや、だからそれじゃねぇよ、アレだよアレ」

 はっと気づいた幼女が指をパチンと鳴らす。

 

 すると、指先に発生した風の輪っかが一瞬で拡散し、霧を押しのけていく。



 突如全方位から浴びせられる大歓声。

 慌てて周りを見渡せば、リングは大量の魔族たちに囲まれていた。


 ……いつの間にこんなに!?

 広がった風の輪っかはドーム状に霧を晴らしたようで、見える範囲では360°ひしめくように魔族たちが詰めかけており、罵声やヤジを飛ばしてくる。

 しかし、どうも違和感を感じる。

 魔族以外の種族も大分混じっていることか?

 まだ幼い子供や女性も混じっていることか?

 いや……


 「またせたなぁ!よくぞ来た、勇者よ。オレ様は魔王軍が誇る暗黒四天王が一人、暑慧鬼ゼンザイだ!」

 四天王の大声で、こちらの思考は断ち切られる。

 勇者のワードが出るや否や、観客たちからは悲鳴や大ブーイングが巻き起こる。

 嫌われてんなぁ、勇者。


 しかし、四天王が肉体美を見せつけるパフォーマンスをおこなうと、途端に会場は沸き上がった。


 その様子を満足そうに見つめ頷くと、四天王はこちらへ向き直る。


 「ルールを説明するぜぇ。いいか、一度しか言わねぇからよぉく聞けよ。ひっとぉおっつ。始まったらリングから出られねぇ。もちろん、外部からも手出し無用だ……シルコォ!!」

 四天王が指を一本立てるのを見て、幼女が指をはじく。

 すると、指先に灯った風の輪っかは拡散し、今度はリングを覆うようにドームを形成する。

 推測だが、これは前回こちらの攻撃を散々弾いてくれた風の膜なのだろう。

 だが、これは助かる。

 大勢の魔族が押し寄せてきたら、どうしようもないからな。


 四天王は二つ目の指を立てる。


 「ふたぁっあっつ。勝者は姫を総取りだ。万が一お前がオレ様に勝ったら、チュロスキー家の令嬢だけじゃなく、シルコも連れていきな!」

 ……それは別にいらないかな。


 四天王は三つ目の指を立てる。

 

 「みぃっぃいっつ。どちらかの死をもって終了とする。以上だぜぇ!」


 ……え?それ普通の殺し合いじゃない?


 え?ここまでプロレス要素だしといて、結局ただの殺し合いなの?

 何とかして3カウントとれば、円満に終了できるとかじゃないの?

 あっ……デスマッチってやつか。


 やばい!やばい!やばい!

 それだと俺に勝ち目ないぞ!?


 こちらの内心とは裏腹に、観客たちは大盛り上がりだ。

 

 よしっ、どうにかして、どうにかして時間を稼ごう。

 それで、何とかして打開策を考えるんだ。


 

 まず、この狭いリングなら相手の極大魔法は封じられるはずだ。

 でも、見た目からして肉弾戦もめちゃくちゃ強そうなんだよな。

 こっちの最大火力である大岩をステータスの奇跡で出しても、潰れなさそうだ。

 

 そうなると、もう手の打ちようがないじゃないか。


 ほかに何か……ふと、右手で何かを握りしめているのを思い出す。

 見ればばぁちゃんの巾着袋だった。

 ばぁちゃんから離れた時に掴んだのはこれだったらしい。

 

 藁にもすがる思いで、しゃがみこみ中を覗き込む。


 飴ちゃん一袋に、ソーイングセットに救急セット。

 ハンカチにポケットティッシュ。

 小さめの手鏡に櫛、小さめの巾着袋がいくつか。

 ……当たり前だが使えそうなものは入っていない。

 

 あと目につくのは、渋い柄の布で巻かれた何か。

 その布を外せば……


 思わず息をのむ。


 ……これはもしや光明が見えたんじゃないか!?

 いや、でも厳しいことには変わらない。

 問題はこれをどう生かすか……。


 「さっきからしゃがみこんで、あなた大丈夫ですの?」

 膝に手をあて前かがみになったくっころさんが心配そうに尋ねてくる。


 正直なとこ分が悪いですね」

 なるべくクロワッサン部分を見るようにして、答える。


 「あなたが勝ってくれないと、ワタクシも帰れないのですから頑張ってくださいまし」

 そうは言うが中々に難……ていうか、何でこの人まだここにいるんだ?


 「あの……なぜまだここに?」

 「あなた、汚らわしい魔族たちの中でワタクシにまっていろとおっしゃいますの?」

 少し怯えを見せた表情でそう答えるくっころさん。


 「でも、ここにいたら戦いに巻き込まれる、というか、さっき風の膜張られたから、もう出られませんよね?」

 「へっ……?」

 途端に青ざめ、きょろきょろ辺りを見渡すくっころさん。


 でも、そうかくっころさんに手伝ってもらえばいいのか!


 「こうなったのも何かの縁。一緒に戦いましょう」

 「……えぇっ!?」

 物凄いうろたえ方を見せるくっころさん。


 申し訳ないが、少しでも勝率をあげるために、使えるものは何でも使う。 

 外部からは手出し無用と言っていたが、今ここにいるなら内部だもんな。

 それに、この人もこの世界の住人なわけだし、少なくとも俺よりは強いはずだ。

 ただ、煉羊羹隊とかいう、わけのわからない組織の隊長というのが不安要素ではあるが。


 

 「おぉおおい、そろそろ始めたいんだが?」

 魔族のガラガラ声が響き渡る。


 「てっ、提案なのですが、勇者と姫が協力して強大な四天王へ挑むというシナリオはどうでしょう?」

 そう魔族に語りかけると、周りが騒然としだす。


 「あ……あなた、どうして魔語を話しているんですの?」

 震えた声でくっころさんが聞いてくる。


 「えぇっと……勇者の能力のひとつで、勝手に翻訳されるんです」


 「がはははは、おもしれぇ!言葉をしゃべる蛮族とか、それだけで興行になりそうだな。あぁ、いいぜぇ、二人でかかってきな!なんたってオレ様はパワフルでスーパーだからな」

 よかった、これで勝率が多少あがる。


 「では、作戦会議をしたいので、少しだけ時間をもらえませんか!?ほらっ、それぞれの手札を知って、より会場を盛り上げるために、ね?」

 

 「オイオイそりゃねぇだろ。そんな白けた真似しちゃ、せっかく温めた舞台が冷えちまう」

 くそっ、駄目か。


 「ふむ……ならば、ここで挑戦者である勇者タローンの紹介コーナーと洒落こむのじゃ」

 まさかの幼女からの助け舟。相変わらず名前は間違っているが。


 「勇者タローンは地球出身の身長170cm体重63kgのジュニアヘビー級の選手。今まで大きな大会の入賞歴などはなく、なんなら殴り合いのケンカすらしたことがなしと。それどころか、14歳の時には伯父が連れてきた7歳の子供に負けたことがあるそうじゃ」

 いや違うんだ、あれはどっかの国のムエタイの英才教育を受けた子で、俺が弱いんじゃなくてあの子が強いだけで……って、何でそんなこと知って!?

 

 慌てて幼女の方を見れば、見覚えのある球体がふわふわ浮いていた。

 そして、幼女は球体を地球儀のように回し、内容を読み上げている。


 ……ロックキャノンで射出した俺の個人情報ですね、ハイ。

 どうりで、勇者のこととかバレてるわけだよ。


 そして、さらに恐ろしいことに、球体はまだ5つも後ろに控えていた。

 その後も、俺の赤裸々な情報が読み上げられ、会場では爆笑の渦が巻き起こっている。


 だが、このチャンスを逃す手はない。作戦会議だ!

 


 「くっころさん。どういった魔法が使えるか教えてください」

 「あっ、あなたに幼名で呼ばれる筋合いはなくてよ!」

 「すみません、ラクラさん。どうにもこの世界の常識に疎くて」

 今はそれどころじゃないだろと思いつつ、穏やかに接する。

 

 「それで、魔法ですの?魔法なら……水属性を……少々」

 返答が返ってくるも、どうにも歯切れが悪い。


 「でも、羊羹属性ならほとんどの初級といくつかの中級魔法を使えますわ」

 いや、それ使えないんすわ。

 というか、仮にも煉羊羹隊の隊長なのに中級までしか使えないのか。

 やはり軍服たちが言ってた通りコネなのだろうか? 


 「あとは、その……光属性魔法が使えますわ」

 「光属性ですか?どういったことができます!?」

 ここでレアそうな属性来た!

 

 「えぇっと……今のところ、夜に手元がやんわり見える程度の明かりを出す魔法や」

  ……。

 「触れていると心の平穏を保てる光の玉を出す魔法に」

 ……。

 「色のついた光の筋を射出する魔法……」

 ……。

 「あとはまわりの注目を一斉にワタクシへ集める魔法などが使えますわ」

 ……。


 ……使えねぇ!!!

 思った以上に使えないぞ、光魔法!

 本人もそう思っているのか、どことなく気まずい表情をしている。

 てか、よくこのザマで、人の奇跡や勇者特典をボロクソに言えたな、この人。


 駄目だ、これは戦力として当てにできない。

 肉弾戦も強そうに見えないし、まさかの俺の方が強いまであるぞ、これ。


 一気に見通しが暗くなる。

 耳に入ってくる俺の恥ずかし面白エピソードも相まって、思わず頭を抱えてしまう。

 しかし、やるしかない。


 生き残るために必死に頭を働かせ、作戦をひねり出す。


 そして、くっころさんに一つの作戦と二つの合図を伝える。

 くっころさんは、こちらの正気を疑う顔をしているが、何とか説得する。



 「おおぉおおい!もういいだろう!始めるぞ!!シルコォっ!始まりの鐘っぇ!」

 いい加減に痺れを切らしたようで、四天王は背中からロープにもたれかかる。


 やばいっ、ついに四天王戦が始まってしまう。


 一応、作戦は考えたが正直なところ、あまりにも危険な綱渡りをすることとなる。何しろどれかひとつでも想定から外れた時点で失敗が確定するし、仮に全て上手くいってもチャンスはたった一度なのだ。


 果たして、上手くいくだろうか。

 

 かつてないほど心臓が早鐘を打っている。

 にじむ冷や汗。震える手足。荒くなる呼吸に飛び飛びになる思考。

 

 だが、どういう訳か、急に心音が穏やかになり始めた。


 見れば、くっころさんが光の玉を浮かべた掌を、俺の胸元に当ててくれていた。

 心音の安定と共に、思考回路はクリアになり、視界も鮮明になる。


 「ありがとうございます」

 「まっ、まったく。先が思いやられますわね」

 なんだ、案外使えるじゃないか、光魔法。

 

 大丈夫だ、きっと何とかなる。

 一世一代の大勝負やってやろうじゃねぇか!

 


 ゴングが鳴ると同時に、四天王は大きくロープにもたれかかる。

 そしてそのまま体重をかけ、最大までロープをのばし……


“パァアアアン”

 

 「アイテムボックス!!」

 「おっとっと!なんだこりゃ!」


 咄嗟に前へ突き出した掌の先に出現する黒円。

 俺の数歩先には、さっきまでリングの端にいたはずの四天王がつんのめりかけていた。

 思い切り振りかぶった腕は黒円の中に入るが、ぎりぎりで踏みとどまれ、すぐに腕も黒円から引き抜かれる。


 くそっ、だから何で反応できるんだよ!

 ロープの反動使って突っ込んできたはずだろ!?


 「がはははは!面白ぇ魔法だな!今度はこっちから行くぜ!!」

 そう叫びながら四天王が両手を打ち鳴らした瞬間、小さな爆発が起きる。

 瞬時に黒円は真円状に拡大して視界を塞ぐ。

 黒円が元の大きさに戻った時、そこに四天王の姿はなく……


 反射的に背後を振り向く。


 「万物を防ぎし頑強なる守護の盾よ、今こそ隆起なさい。何人たりとも通さず、剛健たるその御身にて我らを守り給え!羊羹ウォール!」

 「無駄無駄ぁ!」


 目の前でせり上がる羊羹の壁と、その向こう側で大きく腕を振りかぶる四天王の姿。


 考えて動いたわけではない。

 生存本能がそうさせたのか、咄嗟に身体をよじる。


 羊羹をまき散らしながら、壁の向こうから現れた腕は、俺の胸元をかすめる。


 だが、それで十分といわんばかりに、次の瞬間には俺は宙を舞っていた。


 床に打ち付けられ、何度もゴロゴロと転がる。

 呼吸がうまくできず、奇妙な音が口からただただ漏れる。

 次いで胸に激痛が走る。


 脂汗を額ににじませながら、霞む視界でとらえたのは、ポールの上に立ち両手を広げる四天王の姿。

 そして、順番に指を折っていく。

 それに伴い、観客の声援も大きくなる。


 カウントダウンか……。


 突然、勝手に首が回転して横を見る。

 そこには淡い光に包まれたくっころさん。

 どうやら、四天王も含め、観客たちは皆くっころさんの方を見ているようだ。

 そうか、四つ目の光魔法か。

 だが、注意を逸らせたのは一瞬で、再び始まるカウントダウン。


 光を失ったくっころさんはこちらへ駆け寄りながら、闇雲に魔法を放っているようだが、どう考えてももう間に合わないだろう。


 やはり、作戦通りにはいかない。

 俺では無理だったか。

 この世界に来てからというもの、何度も何度も死にかけ、その度に誰かに助けてもらい何とか生き延びてきた。

 しかし、さすがに今回はもう駄目っぽいな。



 死を目前としているからか。

 世界の流れがゆっくりと見える。

 

 顔面蒼白になりながら駆け寄るも、何かに躓き地面に倒れこむくっころさん。

 リング上空を飛び回り激しく実況をする幼女。

 カウントダウンを共に叫ぶ観客たち。

 早々のクライマックスにも関わらず、会場のボルテージはMAXのようだ。

 満を持して、Yの字の体勢で俺の真上に落ちてくる四天王。

 その黒光りする肉体に食い込む、棒状に丸めた新聞紙。

 吹っ飛ぶ四天王。

 着地するばぁちゃん。


 ……ばぁちゃん!?


 世界が速度を取り戻す。

 激痛など忘れ、ばっと起き上がる。

 視界に映るは、腰の曲がった小さな背中。

 小さいころからずっと見てきたその背中。


 『だいじょうぶかい、もっちゃん?ゴキブリ退治ならばっちゃに任せてねぇ』

 ばぁちゃんは首だけこちらへ向けて優しく微笑み、その手にもつ新聞紙をブンと振った。

 

 ばぁちゃん!!!!

 


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