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ばぁちゃんロデオ

 「何だ!?あの老人は!」

 「馬鹿な!駝鳥人(オストリッチ)族一の俊足の俺様を追い抜いただと!?まさか奴は猟豹人(チーター)族か!」

 「馬鹿言うな!駝鳥人族一の俊足といえば俺だろう!」

 「そんな言い争いは後でしろ!俺たちも負けてられん!誰かヘイストリーを」

 「わかった!今かける!」


 さっき先頭集団を追い抜いた一瞬の間に様々な声を拾った。

 俺は当然聖徳太子じゃあるまいし、あの一瞬で聞き取る能力などない。

 

 これ、もしかしたら翻訳の奇跡の効果なんじゃないだろうか?

 音さえ耳に届いていれば、聞こえるように翻訳してくれるみたいな。

 ヒソヒソ話がしっかりと聞こえていたことが何度もあったし、そんな気がする。

 とすれば、マジで翻訳の奇跡はハイスペックだな。


 いや、そんなことを考えている場合ではないのはわかっている。

 だが、意識をどこかに逸らしておかないと、容赦なく打ち付けてくる風や、旗のように身体がたなびく度に全身を襲う痛みに耐えられないのだ。



 俺をマントのように羽織り、平原を爆走するばぁちゃん。

 ガタンガタンと大きく揺れる視界の中、黒い軍団への接敵がまもなくであることを悟る。


『キェェェェェエエエエエエエエエエーーーーーーーーーーーー!!!』

 全身で大きく感じる浮遊感。

 ばぁちゃんが敵に飛び掛かるためにジャンプしたのだろう。

 すでに感覚のない両腕がすっぽりと抜けないことを、ただ祈る。


“パァアアアアアアアアアアアアアアアン!!”


 視界の端で魔族が吹っ飛ぶのが見えた気がするが、それどころじゃない。

 殴りつけるために急ブレーキを踏んだようで、身体が大きくと前に飛んでいきそうになったのだ。

 ばぁちゃんの真上で逆立ちするように、浮かぶ身体。

 腕が首から外れかけている。


 それに冷や汗をかくや否や、今度は急発進。

 前方上方に飛んだようで、おれも宙に浮いたままそちらへ引っ張られる。


 身体を回転させながら棒状に丸めた新聞紙を振り抜くばぁちゃん。

 首飾りとなった俺も一緒にぐるんと回転する。

 一瞬だけばぁちゃんの顔が見えたが、あぁなった時の顔をしていた。

 駄目だ。この状態だとしばらく話は通じない。


 どのみちすでにここは敵陣……覚悟を決めるしかない。


 しかし、覚悟を決めている間もなく、再び身体は明後日の方向へ引っ張られる。


 そのたびに全身が悲鳴をあげる。

 それを根性だけで耐える。



 どれくらいそうしていただろうか?

 ばぁちゃんが急発進急停止を繰り返すうち、一瞬の隙が出来た。

 

 その隙を逃さず、ばぁちゃんの腰辺りに足で抱き着く。

 腕も胸元にもっていき、なけなしの力を振り絞りがっしりと掴む。

 亀の甲羅スタイルだ。


 ばぁちゃんの勢いは衰えを知らず、水を得た魚のように飛んで跳ねて駆け回っている。

 しかし、さっきまでのマントスタイルと比べたら断然楽だ。

 周りを見渡す余裕だってある。

 予想をしてはいたが、いつの間にか、俺たちは随分と敵陣深くまで切り込んだようだ。

 かなり遠くの方で剣戟が聞こえるが、この辺りには360°魔族しかいない。


 ある者は憎たらし気に、ある者は嫌悪感を隠さぬ目で、また、ある者は怯えた目でばぁちゃんを睨みつけてきており、今にも襲い掛かってきそうだ。

 いや、事実次々と襲い掛かってきているらしく、そこら中に死体が散乱していた。

 

 今もばぁちゃんは棒状に丸めた新聞紙をフルスイングで振り抜き、太い腕でバッテンガードした魔族の腕をへし折りながら、ポップコーンのように弾き飛ばしていた。

 そして、次々と魔族が襲いかかるが、時には相手の攻撃より先に打ち付け、時にはひらりと躱して隙を作って返り討ちにする。


 この世界に来たばかりの時のことを連想させる光景だが、あの時とは数が違う。

 魔族は途切れることなく襲ってくる。


 ばぁちゃんは時に大きく移動しながら、しかし、確実に魔族を屠っていく。



 だが、敵も馬鹿じゃない。

 何人かの兵士が黒円を出現させ、中から水瓶を取り出した。

 そして、呪文を唱えながら一斉に叩き割る。


 すると、周囲に濃い霧が立ち上り始めた。

 多方向から霧を裂いて飛んでくる炎や風の刃。

 それを大きく後退することによって回避する。

 しかし、それを読んでいたのか、着地地点の先の霧を裂き、突如現れる2体の魔族。

 

 即座に地面を蹴り上げ、まるで独楽(こま)のように空中で回転するばぁちゃん。

 そして、魔族を巻き込みながら新聞紙を振り抜く。

 さらに、敵の大きな腕に着地してそのまま攻撃へ移る。


 魔族が地面に倒れると同時に、自身も華麗に着地。

 次の瞬間にはしゃがみこみ、ぐっと足に力をこめる。


 しかし、いくらなんでも敵の数が多すぎた。

 死角から霧を裂いて、背中に振り下ろされる大木のような黒い腕。


 「アイテムボックス!」

 咄嗟に片手を離し、魔族の前に掌を突き出す。

 黒円の出現を確認する間もなく、とてつもなく大きな力で身体が引っ張られる感覚が襲い、さらには一瞬の浮遊感。


 しまったと思うよりも早く、自由になった手で宙をもがけば、何かを掴んだ……ような気がした。

 実際、何かは掴めたようで、身体は無事に引っ張られる。

 しかし、さきほどまでと違って引き摺られるような形だ。


 そして、ばぁちゃんが大きく飛んだ際に、ブチリと嫌な音と共に明確な浮遊感を感じる。

 濃霧のため前後不覚のまま、まるで雲の中をもがくように飛ばされる。


 数瞬の後、地面に打ち付けられ、肺の中の空気が押し出される。

 そして、受け身もとれずに無惨にゴロゴロと転がる。

 だが、床は思ったより硬くなく、弾力があったせいで思ったより痛くない。



 「あなた!大丈夫ですの!?」

 どこかで聞いたことのある声が駆け寄ってくるのを感じる。


 チカチカする目線をあげれば……


 そこには四天王に攫われたはずのクッコロさんの姿が。

 何故かラウンドガールの格好をしている。


 ……は?頭を打ちすぎたか?


 「よりにもよって助けに来たのがあなたなんて……兵士たちは一体何をしているのか。いえ、あなたも腐っても勇者ということですわね。先日の発言は撤回させていただきますわ。しかし、もっと早く助けに来られなかったのです?いくら何でもあまりに遅すぎると思いますの……まっ、まぁ……たっ、助けに来てくれたことは感謝しますわ」

 明後日の方向へ顔を向け、後半ごにょごにょ何か言っていたが、今はそれどころじゃない。

 

 少しばかり冷えた頭で辺りを見渡す。

 俺はどうやら少し小高い正方形の舞台の上にいるらしい。

 床は中央に謎のロゴが入った白いマットになっており、四隅から生えた赤青白の派手なポールの間には3本の黒いロープが張られている。


 これはどう考えてもあれだよな。



“カンカンカンカンカンカンカンカン!!”


 その場に響くのは、耳障りな金属音。


 「赤コーナァ~!全勝無敗の絶対王者ぁ!太陽をくらぁぁぁいぃぃしぃぃぃ熱き男~!魔王軍が誇る暗黒四天王がひとりぃぃぃ……暑慧鬼~ゼェエンザァィイ~なのじゃあ!!」

 へたくそな巻き舌のする方を見れば、ゴングを出鱈目に打ち鳴らす、いつぞやの幼女の姿。

 こちらも何故かラウンドガールの格好をしている。


 その合図で、勢いよくロープを跨いで入場してきたのは、いつぞやの魔族。

 口元が露出したプロレスラーマスクにサラシとブーメランパンツというスタイルは変わらずだが、今回は木製の(かんざし)が刺さったゴツいチャンピオンベルトを着け、肩には真っ赤なタオルをかけている。


“カンカンカンカンカンカンカンカン!!”


 「青コーナァ~!若き挑戦者ぁ~!異界より来訪せしぃぃぃ~ダァークホォース~!勇者ぁ~……勇者ぁ~……」

 ゴングを叩きながら、こちらをチラチラ見てくる幼女。


 「御手洗餅太朗」


 「異界より来訪せしぃぃぃ~ダァークホォース~!勇者ぁ~タァアルォオオオオーン~なのじゃ!!」


 幼女は満足そうに言い終わると、ゴングからそっとハンマーを離す。


 ……いや、区切るとこ間違ってますよ?誰よタローンって。

 あとさっきから思ってたけど、ゴングの使い方ちげぇよ!


 「がはははは!!ようやく最初の挑戦者か!!まちくたびれちまったぜ!」

 腕を組み、こちらへ不敵な笑みを浮かべる魔族。



 えっ……ちょっと待って!?

 まさか、この流れは四天王戦なの!?

 しかも、俺一人で!!??



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