〇リラ〇〇ウ
さて、今回の作戦はこうだ。
まずは城壁の上からロックキャノンを撃ちこみ続け、相手の後陣を荒らす。
次に、城壁に張り付いた相手を魔法や落石などで対処し時間を稼ぐ。
“シャンシャンシャン”
その間に、南西と南東の望楼に待機していた部隊が、敵の後ろから攻め立て、挟撃する。
俺たちは作戦の第一段階だと偵察部隊だったが、第二段階だと挟撃部隊というわけだ。
“シャンシャンシャン”
しかし、果たしてそんなうまくいくのだろうか。
“ドンドコドコドン”
魔族を逃がせば周囲の村に被害が出る。
“ドンドコドコドン”
そのために囲い込むわけだが、いくら防衛戦とはいえ、少ない戦力を分散しているわけだ。
何より敵にはあの極大魔法がある。
“ティラリラティラリラ”
もう一度あれを撃たれたら、今度こそ城壁を破壊され、時間稼ぎど“ほふぉふぉ~おぉ~”
……時間稼ぎどころじゃ“シャンシャンシャン” “ほへゃりぃ~ひゃらりぃ~”
あぁ!もう!うるさい!思考がまとまらん!
決戦へ向かう馬車の中。
そこではどういうわけか、つい踊りだしたくなるような陽気なリズムが流れていた。
「ふぅ……いい感じだ。本番もそんな感じで頼むぞ」
満足げな顔で頷くシフォン。
いや、なんで音楽奏でてんだよ!なんだよ本番って!
あれか?士気の向上を担う軍楽隊みたいなやつか?
万が一世界の修正でも発動して、チトセさんに気絶されると危ないから聞かなかったが、ここは聞いてみるか。
「なぁ、これから戦いだろ?何で音楽の練習してるんだ?」
その言葉を聞き、しまったという顔をするメープルと、メープルをジロリと睨むシフォン。
「へへ……わりぃ、伝え忘れてたぜ。こいつの極大魔法はちょっと変わっててよ。気もちの昂ぶりで威力があがるんだよ」
バツの悪そうな顔で説明するメープル。
「つまり、そのための音楽ってことか」
「そういうこと」
「てか、使えるのか……極大魔法」
脳裏に浮かぶは先日の太陽。
「あぁ、フォールロックで極大魔法が使えるのはたった二人だけなんだぜ!」
「そりゃすごいな!」
「ふん……使えると言っても、おか……お袋と比べれば篝火レベルだがな」
そうぶっきら棒に吐き捨てるも、満更でもない表情のシフォン。
「いやいや、お前はまだ若いんだし、これから頑張り次第でいけっだろ!しっかし、おばさんといや驚いたなぁ。おばさんのことだから無事だろうとは思ってたけど、まさかゲリラ戦を繰り広げてたなんてな」
「ふん、せめて一報いれればいいものを……まったく」
そう不貞腐れるものの、どこか誇らしげな顔のシフォン。
シフォンの母親か。
昨日の朝、城門に突如現れた一団のことを思い出す。
全員もれなく血に塗れた怪し気な集団だったが、ひと際目を惹いたのは、先頭に立つ背の高い褐色の女性だった。
目についたのは腕が四本あったせいか……いや、それぞれの手に握られた身の丈ほどある大きな裁縫針、そこから伸びる赤黒い糸に、数珠のように大量の首が括りつけてられていたためだろう。
どうやら、シフォンの母親はくっころさんたちと一緒に従軍していたらしい。
極大魔法で散り散りになるも、彼女は自身の部隊を一早くまとめあげ、予定通り進軍。
こちらへ進軍する魔族に対し、数日間に渡ってゲリラ戦を仕掛けてきたそうだ。
見晴らしのいい平原でゲリラ戦ってどうやるんだろうな?
だが、そのおかげで敵の進軍は遅れ、実はあれから三日ではなく四日経ってたりする。
そして、シフォンの母親の部隊の帰還によって、作戦は大幅に変更となった。
フォールロックの守りはシフォンの母親や精鋭に任せ、残りを挟撃隊にまわしたのだ。
「でも大丈夫かな?敵の極大魔法だってあるし」
「ふん、お袋が最も得意とするのは防御魔法。いかに暗黒四天王の極大魔法といえど、そう易々とは破れまい」
そうなのだ。一度目の極大魔法を一早く察知して魔法障壁を張ったというのも、実はこの人だったらしい。それなら大丈夫だろうか。
いや、挟撃隊に人数を割いたために守備が手薄なのは変わりない。
「あと、やつら飛ぶだろ?守備が手薄だから分散して飛ばれたら入り込まれないか?」
その言葉を聞いて、シフォンとメープルが顔を見合わせる。
「むしろ飛んでくれりゃラッキーだろ。魚共が食ってくれるしよ」
「やつらは空に浮かぶものに食いつくからな」
あぁ……そういうことか。
この世界、飛ぶと魚に襲われるのか。
秘書さんが飛ぶのを嫌がったのも、そのせいか。
実際、いつの間にか出現したカンパチもどきに食われかけたしな。
「でも、城壁スレスレを飛ばれたり登られたら駄目だよな?」
秘書さんがやった方法を思い出す。
そして、ゴキブリならば、壁も上りそうな気がするのだ。
「ふん、そんなには近づけまい。何せ、あのカキゴリウス将軍がいるのだから」
ん……?ここでカキゴリウス将軍が出てくるのか。
「ゴリラ豪雨……」
徐にミントさんが呟くが、その顔色は悪い。
「グ……アレか」
クッキーも苦々し気だ。
「ふん、そうだ。数々の戦果をあげた、代名詞とも呼ぶべき究極の超広範囲殲滅魔法」
おぉ、そんなすごい魔法があるのか。
「初級魔法である羊羹バレットの一つの終着点と言えるな」
「……え?羊羹?」
「あぁ、一度上空へ放り投げた羊羹が、細かく鋭利に分かれ、絶え間なく降り続ける。そして、その雨が上がったとき、そこにあるのは赤い水たまり」
「えっ、ちょっと待って。羊羹バレットなの?」
「あぁ、カキゴリウス将軍は羊羹バレットしか使えないことで有名だからな。だが、腐らずに極め続け、ついにはそれ一本で将軍にまで上り詰めたんだ」
「えっ、やばいじゃん」
「あぁ、そうだろう。正直なところ、その生きざまに憧れないといえば嘘になるな」
いや、そうじゃなくて!やべえよ!
羊羹が降ってきたからなんだよ!余裕で突破されるよ!
急げ!街が危ない!
「ふん、見てみろ、ちょうど繰り出されているみたいだぞ」
そう言われ、馬車から身を乗り出せば、都市の上空に浮かぶアホみたいに大きな羊羹の塊。
そして、その羊羹から細かい羊羹が絶え間なく射出されているのが見えた。
しかし、その量は尋常じゃなく、まるでゲリラ豪雨のようだ。
望遠鏡を覗き、地上部を見る。
そこには、羊羹のかまくらをつくり、必死に防御する魔族たちの姿。
しかし、羊羹のかまくらは自重に耐えられず、魔族を下敷きにして崩壊する。
かまくらから這い出た魔族は羊羹に打たれ、声にならぬ悲鳴をあげてのたうち回る。
大急ぎで他の魔族が自身のかまくらに引き入れ、黒く塗れた服を脱がし、傷一つないきれいな肌に回復魔法をかけ始める。
しかし、負傷した魔族は首を横に振ると、おぼつかない口の動きで何かを伝えると、震える手でドッグタグを差し出し、術士の手中に落ちたのを見届けると、ガクリと意識を落とす……かまくら内に反響する叫び声。
……何か、大丈夫そうだな。
むしろ、何か反応したら世界の修正が入りそうだ。
うん、ゆっくり行きましょう。
魔族のかまくらが目視できる距離、大きめな岩の裏で馬車は止まる。
「よし、ここで降りるぞ」
そう言われて下りれば、周囲にはシマウマで先行した兵士と豪華な馬車。
そして、豪華な馬車からは見覚えのある軍服が下りてきた。
「全員集まったようだな。うぉっほん……今回指揮をとる、サマー・プティング=ドゥ=ナッツ・ブラウニーである!これから我々は極大魔法にて悪しき魔族の後背を突き、それを合図に別動隊も動くこととなる。つまり、我々の働き如何……」
軍服は台の上にあがると、カイゼル髭をいじりながら、声高々に演説を始める。
「ふん、少し遠いが……まぁ、届くだろう」
演説を聞かず、空中に出現させた黒円から何かを取り出すシフォン。
同じ形の二本の黒い棒……マラカス……いや、松明か?
「あれは火燐灯だ」
杖をシャラシャラ鳴らしながらメープルが近づいてくる。
「火燐灯?」
「あぁ、何せ極大魔法だからな。魔道具で補助するんだ」
すると、シフォンが両手でもつ松明の先端に黒い火が灯る。
「生きとし生ける全ての精霊さんたちに捧ぐ……聞いて、見て、共に踊り、俺に力を!」
シフォンはそう呟くや……
「うぅぅぅぅぅぅう……わっおぉーん!!」
叫びながら飛び跳ね、松明をクルクル回したり、ブンブン振りながら踊りだした!?
あっ……そういう感じなの?
なんか、ファイアーダンスみたいだな。
シフォンが松明を振る度に黒い炎は飛散するも、炎は消えずにシフォンの頭上に移動し、集まってどんどんとその大きさを増している。
「おいっ!何を勝手に始めている!」
演説を取り止め声を荒げる軍服。
「吾輩が指揮をとると言ったはずだぞ!」
そう言うと、軍服は懐から指揮棒を取り出し、胸元で構えた。
……あっ、指揮をとるってそういう。
それを合図に兵士たちが一斉に黒円を出現させる。
そして、黒円から出てきたのは武器……ではなく、バリエーション豊かな楽器。
まじで軍楽隊じゃねぇか。
軍服は二度頷いて指揮棒を振り降ろし、戦場で唐突に開催される演奏会。
当然、それだけ音を出して叫べば、周りにも気づかれるわけで。
かまくらにこもる魔族たちは、すごい形相で睨んできている。
戦場で楽器を打ち鳴らす俺たちと、叫びながら飛び跳ねるシフォン。
そして、かまくらの中から顔を覗かせ、それを見ている魔族たち。
すごいシュールな光景だ。
なんか思ってた戦いと違う。
カスタードネットをカタカタさせながら、そんなことを思う。
てか、これ羊羹の雨が止んだら、魔族こっちに来るんじゃないだろうか?
しかし、シフォンの頭上には、すでにいつかと同規模の太陽が出来上がっている。
そして、シフォンの黒い太陽が完成するのと、黒い雨が止むのは同時だった。
「深淵より這い出し咎、光すら飲み込む漆黒の業火よ!我に仇なす全てを焼き尽くせ!!マジカルメラメラパンパンカッカみんなまとめて燃えてなくなぁ~れ(小声・早口)……壱檎廼覆黒濤卍蹂!!」
かまくらから一斉に這い出て障壁を張る魔族たち。
そこへ容赦なく黒い太陽が向かっていく……
てか、呑気に見ている場合じゃない!
近くにいたばぁちゃんを引き寄せ、覆いかぶさるように抱きしめる。
次の瞬間、背中越しでさえ目を開けられぬほどの発光に、とてつもない爆音、そして、熱を伴った爆風がこちらを襲った。
恐る恐る振り返れば、真っ赤に染まった空に、立ち込める真っ黒な煙。
そして、その黒煙の中から次々と飛び出してくる魔族たち。
おいおい、生きてるのかよ!
しかし、流石に無傷とはいかず、黒い甲殻は焼きただれ、欠損した手足からは血を滴らせており、満身創痍といった様子だ。
「今だ!突撃ぃぃぃっ!!」
軍服の合図で、いつの間にか楽器から武器へ持ち替えた兵士たちが声をあげ駆け出す。
ついに戦いが始まる。
ごくりと唾を飲み込み、震える身体を叱咤する。
さぁ、これからのことだ。
まずはステータスの奇跡でなるべく大きな岩塊を出す。
そして、ばぁちゃんに渡し、味方が居ない方へ投げてもらう。
万が一、敵が接近してきた場合は、クッキーやばぁちゃんに相手してもらう。
そんな感じだ。
「頑張ろうね!ばぁちゃん!」
そう言いながら、腕の中に納まるばぁちゃんを見れば、どこか虚空を見つめ固まっている。
そして、その手には棒状に丸めた新聞紙が握られている。
『キ……』
『ばっ……ばぁちゃん?』
『キェェェェェエエエエエエエエエエーーーーーーーーーーーー!!!』
グンッと物凄い勢いで腕に引っ張られ、身体が地面から浮く。
次いで、そのまま世界が急加速する。
目まぐるしく変化する視界に、容赦なく打ち付けてくる風。
先に駆け出した兵士たちをあっという間に追い抜き、ばぁちゃんは俺をマントのようにたなびかせながら先陣を切る。
『ちょっ!ばぁちゃん!ストッ!ゲホゲホッ!!』
『キェェェェェエエエエエエエエエエーーーーーーーーーーーー!!!』
ばぁちゃんが巻き起こす土煙は容赦なく俺の目や口を襲う。
しかし、何よりも辛いのは、凧揚げ状態なことだ。
ばぁちゃんの首元にかかった俺の両腕は、早々に悲鳴をあげるのをやめ、すでに感覚をなくしかけている。
一瞬でも気を緩めてしまえば、ほどけるかすっぽぬけてしまいそうだ。
こんな速度でそうなってしまえば、一貫の終わりだろう。
もってくれ!俺の両腕!
いよいよ魔族との戦いが始まる。
しかし、どういうわけか、俺だけ己との戦いが始まろうとしていた。




