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個人情報流出砲

 「ふぅ……ほら、これで満足だろう?でも、これだけは言わせてほしい。耐久性が劣るガラスをあえて床面に採用する施工に、万が一のリスクも考えずその上に乗る愚行、まるで解せないね。知っているかい?ガラスの耐加重と経年劣化による強度低下の関係を。過去の事例や知識からもしもを予測できてしまうから、恐怖を覚えるんだ。つまり、高所に対し恐怖を想像できるのは人間の叡智だともとれる。だからおかしいことは何もない。むしろ、怖くないというのならば、想像力の欠如とも言えるね。ほら、よく言うだろう?馬鹿と煙は高いと……嘘っ!嘘っ!冗談だから!手を離さないでおくれ!煙っ!煙の方だから!えっ!表面にヒビが見える!?流石にそれは嘘だろう!?いや、下を向くなんてでき……あぁっ!もう!すまなかった……だからその……手を貸してはくれないかい?」


 あの時、いつも以上に饒舌な友人をからかい遊んでいたが、今ならば友人の気持ちが痛いほどによくわかる。


 「餅太朗!風が冷たくて気もちいいなぁ!」

 「おい、そんなとこにいたら任務にならんだろう、こっちへ来い」

 そんなことを言いながら、死地へ誘おうとするメープルとシフォン。

 

 絶対に行くもんか!


 「何だぁ、高いとこは苦手か?大丈夫だって、柵もあるし落ちやしねぇよ」

 

 嘘つけ!柵なんてないじゃん!

 

 さっきクッキー落ちたじゃん!

 なんかピンピンしてたけどさ!


 迫りくる二人の死神。

 うずくまり嫌がる俺の腕を掴み、引き寄せる。

 

 しかし、この黒い床は滑るせいで、シフォンを伴ってすてんと転ぶ。

 床が崩れるのではないかという恐怖が心を支配し、身体が硬直しうまく動かない。

 それを見て大笑いするメープルの顔が悪魔に見えた。


 そうか、こういう気持ちだったのか。

 過去の自分を殴ってやりたい。 

 高所恐怖症なんて無縁だと思っていたが、これは鞍替えしてしまいそうだ。



 さて、俺は今、羊羹の上に立っている。

 しかも、高さ25mの羊羹の上だ。


 このくそデカい羊羹、名をマール望楼と言うらしい。

 つまるところ、魔族の進行を早期に発見・観測するための監視塔なのだが、無駄に大きいだけあって見晴らしは文句なしだ。

 しかし、問題があるとすれば……


 この春に急遽建てられたゆえに、総羊羹製だという点か。

 

 そのため、誰かが歩く度に振動で床が震え、風が吹けば土台ごと大きく傾き、さらに、黒い艶を伴った床面はツルツルと滑るという、あまりにも致命的な構造的欠陥を抱えている。


 それなりに広いからいいものの、そこら中で兵士は転んで尻もちをついているし、万が一端の方で足を滑らせば、さっきのクッキーのように真っ逆さまだ。


 出発前に将軍がこのような危険な任務を任せて申し訳ないと言っていたが、思ってた危険となんか違う。

 

「こんなことになるなら、当初の予定通り砲手をやればよかった」 

 そんな恨み言を呟きながら、遥か遠くに小さく見えるフォールロックの街を見る。

 

 そう、マール望楼はフォールロックからわりと近い位置にあり、ギリギリ目視できるのだ。

 先日の試射の際に、なんか何もない平原にポツリと黒い麩菓子みたいなものが立ってるなぁと思ったのだが、あれがマール望楼だったらしい。

 

 なお、連絡中継用なのか、マール望楼に向かう道中に小さめの物見やぐらがいくつか設置されていたのだが、それらはすべて倒壊していた。


 そして、倒壊したやぐらの先端あたりに兵士が埋まってモゴモゴしており、よく見れば双眼鏡のようなものを覗いていた。

 地上0mで一体何を見るというのか。



 そして、たどり着いたマール望楼。

 特別丈夫に造られたのだと何故かシフォンが得意げに語っていたが、倒壊してくれていればどれだけよかったことか。

 そんなことを思いながら塔に入り、ところどころ崩れ落ちて歯抜けになった階段を上り、現在に至るわけだ。



 「おい!あれじゃないか!?」

 兵士の一人がそう叫ぶ。

 

 指さす方角に見えるは、盛大に土埃をあげて駆ける黒い粒の塊。

 伝令係を除くすべての兵士が一斉にそちらの方へ駆け出した。

 

 おい!走るな!地面が揺れる!

 一か所に集まるな!重心が!羊羹が傾く!


 しかし、思ったより丈夫なのか、崩れる様子もなかったため、俺も恐る恐る皆の方へ近づきハンディタイプの望遠鏡を借りて覗く。



 円の中に映ったのは、たしかに魔族だった。

 魔族は四足走行しているようだが、遠目からでも凄まじい速度なのが分かる。

 

 しかし、レンズ越しとはいえ気持ち悪いな。

 どう見ても豪快なゴリラ走りなのに、高速のカサカサ走りと同じような印象を受ける……それがレンズ目一杯に映ってるわけだから、思わず全身鳥肌だ。

 周りを見渡せば、万人族は一様に顔をしかめており、中には口元を押さえる者もいた。



 そして、魔族たちがフォールロックにある距離に近づいた時……突如いくつもの爆発が巻き起こった。


 そこはちょうど案山子があったくらいの距離。

 そう、ロックキャノンの射程圏内に入ったのだろう。


 色々まき散らしながら吹っ飛ぶ魔族。

 しかし、怯む様子もなく、半数以上は速度をゆるめずに突っ込んでいく。

 速度をゆるめた魔族はその場に留まり、さらに前衛後衛に別れ、一様に地面に手をつく。

 すると、前衛の前には黒い壁が、後衛の前には黒い長方形が、それぞれ地面からせりあがってきた。


 だが、城壁から発射された弾丸は、壁を易々とぶち抜いて魔族の目の前に着弾し、爆発を引き起こす。

 望遠鏡の倍率をあげると、魔族の唖然とした顔をしているのがよく見えた。


 魔族たちも必死に黒い長方形を叩き、耳をふさいでしゃがみこんでいるが、何かが起きることはなく、ごくまれに心太(ところてん)のようにドゥルリと何かが押し出されるだけだった。

 そして、しゃがんだ状態で長方形ごと爆発で吹き飛ばされる。


 一方的な攻撃は続く。



 うむ……わが軍は圧勝ではないか。

 ここまではこちらの被害はゼロで、向こうには甚大な被害を出している。


 なぜ、こちらだけ戦果をあげられているのか。

 

 それは、岩でできたロックキャノンを使っているからだ。

 

 予想通りあちらさんは持ち運ぶことなく、その場で生成する道を選んだ。

 魔族側のロックキャノンは仕組みが違う可能性もあったが、あの様子だと大丈夫そうだ。


 そして、こちらが絶えず撃ち続けられる理由だが、俺が弾丸を用意したためだ。

 大砲にジャストサイズで嵌るきれいな球体の弾丸を。

 ちなみに、弾の表面には文字がびっしりと刻まれている……日本語で。


 そう、何を隠そう、この弾丸はステータスの奇跡で生成した石板なのだ。

 いや、球体だからもはや石板ではないか。


 この数日間は実に大変だった。

 

 球体っぽくするのは結構簡単だったのだが、きれいな球体にするのが大変だったのだ。

 石板以外の形で生成する場合、表面を文字(俺自身に関する情報限定)でびっしりと埋める必要があるのだが、どこにどの情報を載せるかによって、球体の形が歪むのだ。

 さらに、それぞれの大砲にぴったりと嵌めるためには、大砲ごとに記載内容を調整する必要があり、それが非常に難しかった。

 最後のほうはヤケクソになって、とんでもない秘密まで書いてしまった気がするが、砲手が確認しないことを祈るばかりだ。


 なお、岩製の古い大砲をひっぱってくることや、俺が作った弾丸を使うことについて、軍内、特に煉羊羹隊が苦言を呈してきたそうだ。

 しかし、奇跡で作った弾丸だから、悪しき魔族に絶大な効果を発揮し、神の制裁を下すことになると将軍に伝えたところ、全面的に協力してくれたおかげで採用となった。




 とにかく、俺の涙ぐましい努力によって砲弾の大量生産は成功し、わが軍は爆発的な攻撃力を得たのだった。

 城壁に一列に並べられ、絶え間なく火を噴く大砲。

 

 その度に相手陣営に向けてバラまかれる俺の個人情報。

 俺の個人情報と共に爆散する魔族たち。

 

 結局、こちらの一方的な攻撃は、魔族たちがフォールロックの城壁に近づくまで続いた。

 


 これにて作戦の第一段階は終了、第二段階へ移行する。


 俺たちは最低限の見張りを残し、塔を下りる。


 そして、兵士たちが尻から木の棒が突き出たシマウマのようなものに乗るなか、俺たちは馬車……ヒポ車に乗りこみ、フォールロックへ向け走り出した。



 戦地に向かうだけあって、馬車の中には緊迫した空気が流れる。


 「緊張しているのか?」

 これからの展開に不安を感じていると、メープルがそんなことを聞いてきた。

 

 流石にいつものおちゃらけた雰囲気ではない。

 真剣な表情で、金属製の装飾がジャラジャラついた2m以上ある杖を布で磨いていた。


 「あぁ、正直緊張してるよ」


 「ふふ……初めてはそういうものよ。でも、緊張せず楽しんでいきましょう」

 マイペースなミントさんは、こんな時でも竪琴を調律している。


 「クレンオモイだす。イきるのがイチバンにダイジだゾ」

 そう言うクッキーは、ボンゴのようなものの布を張り替えている。


 『もっちゃん、酔ってないかい?お薬飲む?』

 こちらを心配するばぁちゃんの手には尺八が握られている。


 「ふん、しっかりしろ。お前が死んだら千代子が悲しむのだからな」

 そう言いながらシフォンは、手元のカスタネットをカチカチ鳴らす。



 ……。


 え?何してるの、君たち?

 


 「ほら、お前のぶんだ」

 そう言ってカスタネットを寄越してくるシフォン。


 「おい、どうした呆けて。まさかそれが何か分からないのか?」

 いや、それはわかるんだ、カスタネットだろ?

 

 「それはカスタードネットだ」

 なんか微妙に違ったけど、そうじゃなくてさ。


 「いいか、手で両側を挟むようにもって、掌を閉じれば、音が出る」

 いや、それは知ってるけど、なんでカスタネット?

 実は何かの武器なのか?


 「リズムに合わせて鳴らせ。以上だ」

 えっ、以上なの?異常だよ?


 「よっしゃ、一度セッションしとくか」

 こちらの混乱を他所に、メープルは杖を斜めにして振り出した。

 たくさんついた金属片がシャンシャンというキレイな音色を出し始める。

 

 えっ……それ楽器だったの?


 それに合わせ、ミントさんが竪琴を弾きながら歌いだし、クッキーもリズミカルにボンゴを叩き始め、ばぁちゃんも尺八を吹き始めた。


 えっ……何してるの、君たち?


 戦いにいくんだよね?俺たち。



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