映画は正しかったよ
城壁の上、向きあう俺と将軍。
「将軍、大砲はここにあるもので全部なのでしょうか?」
「探せばいくつかは……あとは、古いタイプならありますね」
「古いタイプですか?」
「えぇ、魔法は日々進化しています。近年ロックキャノンにも技術革新がありましてね。あらかじめ筒の内側に螺旋状の溝をつける詠唱が発明され、瞬く間に普及したのですよ」
それって、所謂ライフリングってことか?
無駄に技術がすすんでるな。
「それにより、従来の大砲は引退を余儀なくされました。しかし、どれも名匠の作品で廃棄するのは忍びないということで、武器庫や博物館などに格納することになったのです」
「それを引っ張り出してきて使うことはできませんか?」
「ふむ……この都市にはロックキャノン職人はたくさんいます。言い方は悪いですが、骨董品を引っ張ってくるよりも、最新式の大砲を新たに作ったほうがよいでしょう」
それだとダメなんだよなぁ……どうするか。
「決戦が迫る中、使える時間も魔力も限られています。大砲はすでにある物を持ってきて、ほかの物……例えばバリケードとかを作ったほうがよいのではないでしょうか?」
「……たしかに一理ありますね。この後、煉羊羹隊には大砲を製造させようかと思っていましたが、ストックが少しばかり心許ないことですし、引き続き砲弾を製造させた方がいいやもしれませんね」
さっきからちょいちょい単語が出てきて気になってはいたが……煉羊羹隊って何だよ。
いや、名前の通りか。
つまるところ、さっきの大きな玉羊羹作ったやつらだろ?
役立たずにもほどがある。
しかし、砲弾の在庫が心許ないというのは不味い。
今新しく作ってる砲弾はもれなく全部羊羹の砲弾だろうから、ようするに、岩石製の砲弾の在庫が少ないってことだよな!?
それだと、せっかく岩石製の大砲を引っ張ってきても意味がない。
砲弾はどこかにストックしてないだろうか?
というか、貴重な時間を割いてまで用意しようとしているが、そもそもの話、岩石製の大砲ってそんなに強いのか?
見たところレバーを引いたら筒に込められた岩石が飛ぶ仕組みのようだが、これは大砲じゃなくて投石器……カタパルトなんじゃないだろうか?
いや、火薬の代わりに魔法の力で射出するのか?
だが、ばぁちゃんや将軍あたりが、直接ガレキでも投げてたほうが強い気がする。
いや、百聞は一見にしかずだ。
「将軍、当日に備え、一度あちらの大砲で試射をおこないたいのですが」
岩石製の大砲を指さしながら、そう尋ねる。
「練習は大切ですからね。用意させましょう」
「操作の練習をしたいだけなので、弾も古いやつで大丈夫です」
「では、ちょうどいいガレキがそこにあるのでそれを使いましょう」
そう言いながら、将軍が近くにいた兵士に声をかけると、兵士が走っていった。
ちょうどいいガレキ……?
すると、すぐに兵士たちが大汗をかきながらガレキを運んできた。
早いな。よくも、都合よく手ごろなガレキがあったもんだ。
てか、なんかガレキっていうより城壁に見えるんだが。
兵士たちがやってきた先を見れば、城壁の破片が小山になって積まれており、どうやらあそこから運んできたようだ。
そして、その近くの城壁があったはずの部分は羊羹で埋められていた。
どうしてこんな……あっ!
これカンパチ戦でばぁちゃんが駆けつけた時に爆ぜたやつか。
なんだか申し訳ない気持ちになる。
しかし、城壁の欠片は球体には程遠い形状をしているが、果たして飛ぶのだろうか?
こちらの心配を他所に兵士たちはヒィヒィ言いながら、大砲の口に押し込む。
とりあえず、問題なく入ったようだ。
そして、複数人がかりで砲塔を動かし、はるか遠くに乱立する案山子の方へ向けた。
うーん……発射するまでに相当労力がいるし、マジであまり効果的じゃないかもな。
ほかに労力を割いたほうがいいのでは?
へとへとになりながら大砲から離れていく兵士たちを見ながら、そんなことを思う。
「安全装置はないタイプなので、レバーを引けば発射されます」
将軍が指をさしながら説明をしてくれる。
「さきほどは不発に終わりましたが、発射音がすさまじいので、レバーを引いたらすかさずしゃがみ、必ず耳に手をあててください」
そう言いながら、将軍は離れていった。
さて、どんなもんかな?
やや抵抗のあるレバーを思い切り引き倒す。
ガコンッと気持ちが良い音がしたかと思えば、小刻みな振動がこちらに伝わってきた。
何事かと見れば、大砲が真っ赤に染まり、ガタガタ震えていた。
……えっ?ナニコレ?まさか暴発?やはり球体じゃなくちゃ駄目なのか!?
「餅太朗殿!!!」
将軍の怒声で我に返り、大慌てで耳に手をあてしゃがむ。
次の瞬間、爆音とともに衝撃が床を伝って身体を襲う。
気づけば視界が真っ黒だった。
しかし、すぐに世界は色を取り戻し、さらに感じる浮遊感。
目の前には見上げるような黒色の大男。
どうやらクッキーが覆いかぶさるように庇ってくれていたらしく、そして、助け起こされたようだ。
クッキーにお礼を言うも、耳が感覚を失っており、自分の声が聞き取れない。
将軍もいつの間にか駆けつけてきており、心配そうにこちらを見ている。
ガンガンと痛む頭に手をやりながら、視界を前にむければ、遥か向こうの方に土煙が盛大に立ち込めていた。
ちょうど案山子が乱立していたあたりだ。
煙が晴れると、小さなクレーターが姿を現し、周囲では布や木片がメラメラと燃えていた。
あんなに乱立していた案山子はその数を半数近くに減らし、無事だった案山子も大半は吹き飛んだり半壊している。
「やはりガレキだとまっすぐ飛びませんね。ですが、問題なく発射できましたね」
機能を取り戻した耳が、将軍のそんな言葉をキャッチする。
「えっ……暴発じゃなくて、あれが正常なんですか?」
「はい」
「なんか爆発したみたいに見えるんですが」
「えぇ」
「もしかしてガレキに秘密が?特殊な鉱石で出来た城壁だったとか?」
「いいえ。魔法で作った城壁ですが、突き詰めればただの岩の塊です」
「えっ……じゃあ、なんで爆発するんです?」
「ロックキャノンはそういう魔法です」
……。
えげつねぇな!!
想像の千倍やばかったよ!
いや、マジでなんで爆発するの?
てか、あの案山子、一回の有効範囲示す的だったのかよ!
ずれてなきゃ一回であの範囲を攻撃できたってことだろ?
こんなんもはやマップ兵器じゃん。
この前の極大魔法といい、やべぇよ異世界。
これは何としても数を揃えなくては!
「将軍、提案なのですが、砲弾を一から作るよりも、岩を切り出し形を整えたほうが低コストではないでしょうか?」
「それはそうですが、きれいな球体でないと今のように精度に不安が残りますので」
……いや、羊羹の方が不安が残るんですが。
「あと、羊羹や岩の形を整える羊羹魔法もありますが、それなら作った方が早いですね」
くそっ、ここでも羊羹魔法なのか。こりゃ形を整える魔法も使えそうにないな。
このままだと結局羊羹を撃ちだすことになってしまう。
魔法じゃなくて物理的に削ってくれるところを探してもらうか?
いや、魔法が生活に根付いたこの世界のことだ。
純粋な加工技術は低い可能性すらある。
なら、ちょうどいい大きさの丸い石を探すか?
大きな川の近くとかなら落ちてないだろうか?
いやいや、そんな都合よく落ちて……あっ。
瞬間のひらめき。
それからは時間との勝負だった。
俺は怒涛の数日を過ごし……
そして、ついに決戦の日を迎え……
俺は高さ25mの羊羹の上で身体を震わすのだった!
……どうしてこうなった!?




