異議ありでフリーズしバグが上書きされる仕様
世界の修正をうけ、ガクガクと痙攣する一同。
しばらくの後に一斉に動き出す。
「ワシの!ワシの作品がぁ!!」
親方は両手で頭を抱えながら膝から崩れ落ち、しまいには泡を吹いて気を失った。
慌てふためく弟子たちに将軍は指示を出し、共に親方を運び城壁から去っていった。
「なんということか……発射すらできぬとは前代未聞」
「いやはや、暴発しなくてよかったですな」
「整備の遅さといい、どうも不信に思ってたんですよ、私は。あの醜態では名匠の称号も返上した方がいいと思いますけどねぇ、私は」
「うぉっほん……まったくもってその通り。しかし、よもや砲弾まで崩れるとは。あれを用意したのは煉羊羹隊のはずでは?」
「いんやぁ、最近の煉羊羹隊なら不思議じゃないだろ。何せ今のトップは、なぁ?」
「あの小娘を隊長に据えてからというもの、煉羊羹隊のレベルは下がる一方。いつかこうなるだろうと常々思っていましたよ、私は」
「同感ですな。しかし、中央は歴史ある煉羊羹隊をなんだと思っているのか」
「正直、誘拐されたと聞いたときはいい気味でしたよ、私は」
「うぉっほん……いっそこのまま帰ってこなくても結構」
「いんやぁ、それはまずい。繊寿公は娘を溺愛していると聞く。何としても取り返さんと」
「はぁ……まったく迷惑な限りですな」
「まぁ、初陣で部隊を全滅させた挙句、人質にとられたわけですからねぇ。帰ってこられても、恥ずかしくてもうここにはいられませんよ、私ならね」
軍服たちは好き放題言いながら、階段を下りて行った。
どうやら、大砲や砲弾が割れたせいで、発射できなかったという認識のようだ。
先ほどまでは発射できていると誤認していたことから、すでに一度世界の修正が入っていたはずだ。それなのに今は発射が失敗したと認識している。
これはつまり、世界の修正を上書きしたということか?
しかし、これで俺がこの世界に来てから、かれこれ3回目の世界の修正だ。
世界の修正とはこんな頻繁にあるものなのか?
いや、そんなことはないのだろう。
おそらくだが……俺が原因なんじゃないだろうか?
今までの世界の修正の場面を思い返す。
例えば、ゴブリンの水魔法がクッキーの羊羹ウォールを破った時。
俺はてっきり羊羹ウォールが崩壊したために、世界の修正が入ったのだと思っていた。
しかし、よくよく考えればそれはおかしい。
何しろ、羊羹ウォールという魔法は、材質と用途の都合上、どう頑張っても今までのような使い方はできない。
しかし、世界の修正によって認識が歪められた人々は、今までと同じように羊羹ウォールを使っているはずだ。
建設現場では毎日倒壊事故が発生しているだろうし、これからもクッキーはゴブリンに自慢の羊羹ウォールをぶち抜かれ続けるだろう。
つまり、使うたびに反故や矛盾が発生しているはずだ。
では、その度に世界の修正が発動しているのか?
いや、そんなことはないだろう。
そうならないために、人々がおかしいと思わないように認識の修正をしているのだから。
そうでなければ、建設現場では職人が終始白目を剥いて痙攣していて仕事にならないだろうしな……いや、羊羹を建材として使い続ける以上仕事にならないか。
ともかく、普通に暮らしている限りでは、そう滅多に世界の修正は入らないはずなのだ。
では、なぜこうも世界の修正が頻発するのか?
まぁ、俺のせいなのだろう。
異世界人である俺は世界の修正の影響を受けない。
そんな俺が周囲の反応とは異なる行動や言動、リアクションをとることが、世界の修正発動のトリガーとなっているのではないだろうか?
事実、先程も内心ではおかしいと思いつつも、事の成り行きを静観している間は、世界の修正は入らなかった。
しかし、俺が異変に言及した途端に、すかさず世界の修正が入った。
そうすると、クッキーが羊羹ウォールの下敷きになった時も、壁が倒壊したことではなく、俺が慌て叫ぶ姿を周りに見せたことが修正の原因だったのかもしれない。
案外、俺があのまま静観していたら、ゴブリンの水魔法をしっかりと羊羹ウォールで防いだように周りは誤認していたのではないだろうか?
クッキーはびしょ濡れになりながらも、羊羹の塊から何事もなかったようにボコりと起き上がり、ゴブリンは歯を食いしばって悔しがり、シフォンはクッキーの魔法を称賛しつつ魔法の相性についての蘊蓄を語りだしていたのかもしれない。
俺がゴブリンを食べる必要も、お腹を壊す必要もなかったかもしれない!
まぁ、過ぎたことだ。次から気を付けるとしよう。
ともあれ、俺が異世界人である以上、今後も俺の周りでは定期的に世界の修正が起きることが予想される。
しかし、憶測の域を出ないものの、発動の条件を理解できたため、今後はある程度発生をコントロールできるだろう。
つまり、周りの空気を読んで合わせればいいのだ。
ありもしない着弾点を見つめ、飛びましたねぇなどとホザクのは、茶番劇甚だしいが。
逆に、意図的に世界の修正を発生させることも可能だろう。
先程のように、周りの空気をぶち壊しながら、矛盾点をつつけばいいのだ。
これは考えようによっては、俺だけが発生させられる一種の特典だともいえる。
そして、世界の修正が入っている間は、ガクガク震えて無防備。
これは何かに使えないだろうか……?
まぁ、それは後々考えるとして、今の問題だ。
どうやら今回の世界の修正だと、この羊羹砲に問題があったとの認識のようだ。
これでは、別の職人に制作依頼がいくだけで意味がない。
どうしたものか……。
ふと、横に並ぶ岩石製の大砲が目に入る。
ロックキャノンは岩で出来た大砲を出現させる魔法だ。
元から装填されている弾丸を撃った後も、大砲自体は残り続ける。
そして、出来のいい大砲は残し、砲弾だけ新しく作っているとのことだ。
だが、今回のような防衛戦は別として、野戦や攻城戦では戦の度にその場で新しく作っているのではないだろうか?
なにせ、大砲は総岩石製だ。
苦労して持ち運ぶくらいなら、魔法で新しく作った方が早いだろう。
とすれば、探せばまだ使える大砲がどこかに眠っているのではないだろうか?
そんなことを考えていると、ちょうどいいタイミングで将軍が帰ってきた。
「カノンチーノさんはどうですか?」
「目は覚ましましたが、茫然としていますね。ロックキャノンは区分としては上級羊羹魔法なので、使い手だけで見ればそれなりにいます。しかし、何度も誰でも使える大砲を作るのは大変難しく、それこそその道の職人の仕事となります。なにせ、大量の魔力を非常に繊細な操作で一瞬の間に練り上げることが求められますので。当然それには相当の年月と才能が必要で、彼にとってロックキャノンは自らの誇りであり、商売の種であり、人生そのものなのでしょう」
クッキーの話では、どうも最近うまくいかないな程度の認識はあるようだし、彼もずっと苦悩していたのかもしれない。そんな中での今日の失敗。
彼の職人人生に終止符を打ってしまったかもしれない。
いや、遅かれ早かれ引退することにはなっていたはずだ。
何せ、今後どんなに頑張っても羊羹の塊しか作れないのだから。
女神は軽い気持ちで奇跡をおこしたのかもしれないが、人々の暮らしに魔法が根付いたこの世界だと、想像以上に多くの人に多大な影響を与えていることだろう。
一体、どれだけの人が被害をこうむっているのか。
なんともやり切れぬ気持ちになるが、今はやれることをやっていくしかない。
襲来する魔族を撃退し、俺たちが生き残るために。
気持ちを切り替え、将軍へ向き直った。




