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ブラック★ヨウカンシューター

 「こういった映画は初めて見たのだけれど、うん、どうして中々悪くないね。君がおススメするのもよくわかったよ。ただ、大砲の着弾時に爆発していたのはいただけないね。なにせ、当時飛ばしていたのはただの石や鉄の塊なのだから。それに飛距離も精度も散々で、あんな風に野戦で使えるようなものじゃなかったはずだよ。まぁ、演出の都合なのだろうね。たしかにそのおかげで、ラストの怪獣へ一斉放射するシーンの迫力は中々目を見張る……」



 城壁の上にずらりと並ぶ大砲。

 いつか見た映画を思い出す光景だ。

 ただ、全体がゴツゴツした苔むした岩でできており、砲身がやたら太く短いため、なんだかアニメチックな印象を受ける。


 そんな大砲と並べるように設置された大きな黒い塊。


 ……まぁ、御察しのとおり、羊羹だ。


 そのデカい羊羹を十数人が囲み、遥か遠くの方を眺めている。


 「どうでぃ?」

 「……当たってないっす」

 「ちっ……もうちっと下っか」

 その言葉を受け、煤っぽいツナギを着こんだ若者たちが羊羹にベタベタと触り始める。

 若者たちに指示を出すのは、より年季の入ったツナギを纏う壮年の男性。

 出で立ちからして工房の親方と弟子といった感じだろうか。


 そんな男たちと少し離れて囲むように立つのは、小奇麗な軍服の男たち。

 軍服集団の中に見知った顔を見つけ、ひと際存在感を放つ大男にゆっくりと近づく。


 「えぇっと、何をしているのですか?」

 「おや、餅太朗殿、よく来てくださいました」

 こちらの問いかけに将軍が気付き、一同が振り返る。


 「うぉっほん……貴殿が噂の?」

 「どうやらお手柄だったようですな」

 一瞥して作業に戻ったツナギ集団とは対照的に、軍服集団はフランクな様子で話しかけながら近づいて来る。

 しかし、俺の後ろに立つクッキーの姿に気づくと足を止め、眉をひそめた。

 そして、クッキーはこれが護衛の仕事だといわんばかりに、俺を隠すようにして前に出る。

 なんとも形容しがたい嫌な空気が場に漂う。


 「いやはや、流石蟻人族。プロ意識が高い。餅太朗殿もよい護衛をつけましたね」

 場の空気を変えるように、明るい声と朗らかな表情で近づいてくる将軍。

 

 「えぇ、俺なんかにはもったいないくらいで、実は彼には訓練もつけてもらってるんです」

 こちらも空気を読んで、前に出ようとする……


 が、クッキーがどかない。

 

 それどころか、手で俺を遮った状態で、近づいてくる将軍を睨みつけながら距離をとる。

 

 おいおい空気読んでくれよ。


 「うぉっほん!蟻人族風情が将軍に対しなんと無礼な!所詮は魔族もどきか」

 「魔の葉由来の脳ミソではマトモな判断すらできぬようですな」

 「そもそも言葉を理解できているのかすらも怪しいものだと思いますがね、私は」

 「いんやぁ、それよか今のうちに牢にぶち込んでおいたほうがよくねぇか?あの風貌……スパイだろ?やもすりゃ隙を見て、内側から門を開けかねんぜ」

 顔を寄せ合ってヒソヒソ話をする軍服たち。


 ……聞こえてるんだが?

 いや、あえて聞こえるように言っているのか。

 まぁ、軍服たちの嫌味はおそらくクッキーには通じていないのだが。


 「ごほんっ……!」

 将軍の大きな咳払いで軍服たちは口を噤む。


 「部下が大変失礼しました。言い訳のようで心苦しいのですが、こんな事態ですので皆気が立っているのです。赦してやってもらえないでしょうか?」

 そう言ってクッキーに頭を下げる将軍。


 クッキーはそれに応えることなく、変わらず将軍を睨みつけている。

 それを見てまた喚きだす軍服たち。


 「あー……彼は万語が苦手なので、多分通じてないと思います」

 「それは困りましたね。私魔語は不得手でして」


 「クッキー、この人、味方。大丈夫」

 クッキーの方を見つつ、手振りを交えてゆっくり伝える。

 

 「ワカッタ。でも、キをツけル」

 どうやら通じたようで、警戒を解いて後ろに下がるクッキー。

 いまだ険悪な空気が漂っているが、とりあえず一件落着か。

 


 そもそも何故俺たちが城壁の上に来たかと言えば、将軍に呼ばれたからだ。

 魔族との決戦が迫る中わざわざ呼びつけるぐらいだから、きっと重要な用事なのだろう。


 そして……おそらくその用事とやらは、視線の先に鎮座する黒い塊……羊羹絡みだ。


 予想でしかないが、あの羊羹の塊は岩石製の大砲の成り損ないなのではないだろうか?

 大砲とは似ても似つかない形をしているが、自重やら何やらで崩れたのだろう。

 そして、岩から羊羹になってしまったせいで、何かしらの問題が生じていると。

 この世界の住人もすぐにおかしいことに気づいたのだろうが、世界の修正で認識だけ修正され、問題だけが残った……といったところか。


 「こんな簡単な作業にいつまでかけるつもりだ!亀人族かテメェラは!?」

 それを裏付けるかのように、顔を真っ赤にした親方が弟子たちを怒鳴りつけている。


 親方の怒声にビクッと身体を震わせながらも、懸命に汗だくになりながら羊羹を撫で回したりつねったりするツナギの若者たち。

 しかし、残念ながら、羊羹をいくらこねくり回したところで問題が解決することはない。

 女神のしょうもない奇跡の被害者たちに、思わず憐憫(れんびん)の視線を送ってしまう。



 「ところで将軍、今日はどういった要件で?」

 「あぁ、そうでした。本日お越しいただいたのはフォールロックが誇る、あちらの長距離攻撃羊羹魔法、ロックキャノンをお見せしようと思ったのです」

 予想通り、用事とやらはあれでしたよ。


 「ロックキャノンですか?」

 「はい、その名の通り、ロックキャノンとは砲身から砲丸まで全てが羊羹でできた大砲を出現させる羊羹魔法でして」

 

 うん、その名の通りじゃないね。


 「有効射程が非常に長く爆発的な威力を誇るため、砦など拠点の守りを崩すときに効果的なのです。さらに着弾した瞬間に炸裂する性質から、密集した軍勢にも有用で、野戦では互いの兵士が接近するまでの間、後方から撃ち込み続けるのが定石となっていますね」

 どうやら、材料不要で持ち運び可能な野戦砲&攻城兵器といった感じらしい。


 「そして、この魔法の優れた点は撃ち終わった大砲を残すことができる点です。砲弾さえ再生成すれば少ない魔力消費で再度撃てますからね。さらに今回のような防衛戦ならば、予め砲弾を大量に用意しておくことも可能です」

 

 「ということは、あれも砲弾を作っているのですか?」

 いまだ苦戦しているツナギの男たちに目を遣る。

 

 「いえ、あれは追加で作ってもらった大砲ですね。今までもとりわけ出来がよかった大砲は残してあったのですが、此度は3千もの魔族が相手の防衛戦。大砲はいくらあっても困りませんからね」


 ……いや、困るんじゃないかなぁ?

 

 ようするに羊羹を撃ち出すだけでしょ?

 羊羹砲を増やして、そこに人員を割けば割くほど不利になるだけだと思うよ。

 決戦当日、無駄に羊羹を撃ち続ける羽目になるだろう兵士たちのことを思い浮かべ、いたたまれない気持ちになる。


 「実は決戦当日は餅太朗殿にはこちらで砲手を務めていただければと考えていまして。今あちらで作業しているのも、当都市一番のロックキャノンの作り手であるカノンチーノ殿の工房に、餅太朗殿用にと急遽依頼したものなのです」

 

 他人事じゃなかったよ!俺の分だったよ!


 えっ……いらないよ?

 こんなところで羊羹撃ち続けていても何にもできないじゃん。

 いや、前線に出ても何もできないんだけどさ!

 もしや、修行前の俺が前線に出なくていいよう、気を使ってくれているのだろうか?

 


 そんなことを考えていると、軍服の一人が駆け寄ってきて、将軍の耳元で何かをささやく。

 「餅太朗殿。今から再度試射を行うのですが、折角なので近くで見ましょうか」

 断る理由もないので、言われるがままにクッキーを連れ立って近づく。

 

 そこには散々いじくり回されたせいか、より形が崩れた羊羹の泥山が鎮座していた。

 


 「しかし、惚れ惚れするような出来ですね……流石名匠と言ったところでしょうか」

 「へっ、大したことねぇです」

 親方がそうぶっきらぼうに答えるが、何となく誇らしげだ。


 「大したことないなんてとんでもない。歪みのない砲身とずっしりと安定した砲台。強度と性能を追求したがゆえの飾り気のない無骨な見た目でありながら、上品さを感じられるフォルムの曲線美。主張せずにさりげなく刻まれた銘がまたいい味を出していますね」

 羊羹の塊を見つめながら、感嘆するような声色で絶賛する将軍。

 軍服たちも囃し立てるかのように賛同する。

 親方や弟子は照れ臭そうに鼻をこすっている。


 いや、砲身と砲台どこよ?一塊の羊羹の泥山なんだが?

 強度?ツナギの若者に触れられる度に、ボロボロ崩れ落ちてたけど?


 「へへ、よしてくだせぇ。それでもう弾を込めすか?」

 「はい、お願いします」

 「おぅ!テメェラ!」

 その言葉を受けるや否や、ツナギの若者たちが一斉に駆け出した。


 走り出した先に鎮座するのは、黒光りする小振りなバランスボール大の球体。


 そして、それを数人がかりで恭しく持ち上げた。


 ツナギの若者たちは、額に大粒の汗をかきながら重そうな表情で泥山へ運ぶ。


 そして、それはそれは慎重に泥山の上へそっと下す。

 黒光りする球体は自重で泥山に少し埋まった……


 かと思ったら、バランスが崩れたのか、


 羊羹の泥山からごろりと転がりだし……


 城壁の床に転がり落ちると、べちゃっと形を崩した。


 ……。

 静まりかえる城壁の上。


 「へっ、弾込め完了、いつでも発射できますぜ」

 そう告げる親方。


 えっ!?これで完了なの?こぼれ落ちましたよ?

 てか、ある意味もうすでに発射されましたよ。


 「ご苦労様でした。では発射準備を始めてください」


 えっ?これこのまま進める感じなの?

 あえて触れない方向なの?大人の対応なの?


 「ロックキャノンの評価基準は二射目以降にあるとされています」

 こちらの困惑を他所に、徐に将軍が話し出す。


 「最初から詰められた弾丸がしっかり飛ぶのは当たり前なのです。しかし、次弾以降が完璧に砲身にフィットすることはありえません。なにせ、作り手よって砲丸の形や大きさにクセが出ますし、同じ作り手でも毎回同じものは作れませんからね。多少嵌りが悪い砲丸をいかにまっすぐ狙った所へ飛ばし、精度と威力を出すのか。それがロックキャノンの価値基準なのです。まぁ、カノンチーノ殿が名匠と呼ばれる所以が見られることでしょう」

 

 いや、多少嵌りが悪いどころか、嵌ってすらなかったよ?すぐに転がり落ちたよ?

 もしかしてツッコミ待ち?ツッコミ待ちなのか?


 「発射の際は大きな音が出ますし、無いと思いますが暴発(ぼうはつ)の危険もあるので、射手以外は少し離れるように」

 いや、まぁある意味すごい暴発してたけどさ。

 こちらの考えとは他所に、将軍の指示を受け、一人を残して皆がわらわらと距離を取る。

 俺たちも空気を読んでついていく。


 「では、安全装置を外してレバーを引いてください!」

 少し離れた場所から将軍がツナギの若者に大声で指示を出す。

 安全装置?レバー?どこだよ?

 羊羹の泥山をベタベタ触り始めるツナギの若者。

 そして、すぐさましゃがみこんで耳を両手で塞いだ。


 「耳をふさいでください!!」

 その言葉を受け、耳を塞ぐ一同。


 ……


 当然、何もおこらない。


 数秒後にゆっくりと耳から手を離す一同。

 そして、城壁の端まで行くと、額に手を当ててヒサシを作り、遥か遠くの方を眺め始めた。

 釣られて俺も遥か遠くの方を見れば、案山子(かかし)のようなものがたくさん立っていた。

 おそらく、あれが的なのだろう。

 

 「うーん、外れたようですね」

 「……ケッ」

 「ドンピシャだと思ったのですが……角度を下げすぎましたかね」

 「しかし、命中こそしなかったものの、ブレずにまっすぐ飛んでいきましたし、あとは慣れればいけそうですね。それに、やはり発射音が段違いですね、身体の芯にキレイに響く感じで痺れましたよ」

 将軍の称賛に軍服たちは賛同し、親方は機嫌をよくし、弟子たちはほっと胸を撫でおろす。


 

 ……なんだこの茶番。

 まっすぐもなにも飛ぶもなにも、砲弾は相も変わらずそこに転がってるではないか。



 おそらく、あれもこれも世界の修正のせいなのだろうが、彼らの目には一体全体どう映っているのだろうか?


 これは指摘するべきなのだろうか?


 いや、指摘するべきだろう。


 このまま羊羹砲の増産を許せば、羊羹一台につき最低でも兵士を一人無駄にしてしまう。ただでさえ戦力が必要なのだから、それは絶対に阻止すべきだろう。


 「餅太朗殿はどう思われますか?疑問点や聞きたいことなどあれば、この機に聞くのがよいでしょう」

 ちょうどいいタイミングで将軍が話を振ってくる。


 意を決し、深呼吸を一つ。


 「えぇっと、そもそも発射されてないですよね?大砲壊れっちゃってますし」

 「餅太朗殿、一体何を?」

 「テメェ、ワシの作品にケチつけよぉってか!アァ!?いい根性してっじゃねぇか!」

 顔を真っ赤にして突っ込んできた親方を、すかさずクッキーが押し止める。

 ナイスクッキー!


 「何なら、そこに砲弾が転がってるじゃないですか!」

 そう言って、床に転がる球体崩れの羊羹を指さす。

 

 「一体何を言って……?」

 「これですよ、これ」

 業を煮やした俺は砲弾の方へ近づき、両手で持ち上げる。

 抱えるサイズの玉羊羹を持ち上げたことがある人なら分かると思うが、羊羹を持ち上げるのはとても難しい。

 表面が滑る上に、重さのわりに柔らかいため、保持するのがとても難しいからだ。

 案の定、今回もすぐに手からすり抜け、ボトリと床に落ちる。

 さらに形が崩れる羊羹。


 皆は崩れた羊羹をじっと見つめ、まるで糸が切れたマリオネットのように固まった。


 そして、次の瞬間、雷に打たれたかのようにガクガク震えだした。


 あっ、これ世界の修正が入った。


 いつ見ても不気味だなぁと呑気な感想を抱きつつ、その様子を眺めるのだった。




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