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寒八「もう…解体しろ!」

 視界に映るのは、360度どこまでも続く真っ暗な空と、メラメラと燃え盛る地面。

 まさに地獄といった様相だが、これがアイテムボックスの中の異次元空間なのだろう。

 不思議なことに暑さは感じず、呼吸も問題なくできる。


 そして、どうやら俺は相当高い位置にいるらしい。

 何せ、一緒に収納された山字型の石棒が重力に従って落下しているのだが、どんどんと小さくなっていき、ついには豆粒よりも小さくなり炎に飲み込まれたのだ。

 しかし、俺は落ちることなく、むしろ、ゆっくりと上へ押し戻される。

 なんだか水の中にいる時みたいだ。


 ふと横を見れば、少し離れた場所に黒い大穴が空いており、そこから魚が上半身だけはみ出していた。

 魚はこちらに近づこうと我武者羅に翼をはためかしているが、その努力空しく、ゆっくりと大穴に飲み込まれていく。

 上を見上げれば、自分の真上にも黒い穴がぽっかりと開いており、浮上するにつれ、自然とそこに吸い込まれた。



 頭から円を通れば、元の世界に視界が戻る。

 そして、まるで心太(ところてん)のように、頭から順にゆっくりと押し出される。


 《どうですか?奇跡は応用が利くでしょう?》

 いつの間にか顕現している火消姿の女神。


 「すごかったです。流石女神さまの奇跡ですね」

 今回はお世辞でもなく本当にそう思った。

 あんな使い方ができるなんて思いもしなかった。


 《そうでしょう、そうでしょう!何たって、優秀なこの私がつくったのですからね!》


 「ところで、このあとはどうなるのですか?」


 《完全に身体が出きったら、あいてむぼっくすが自動解除されますね》


 「それ、そのまま落ちるのでは?》


 《はい。しかも、同じく黒円に下から突っ込んでいたカルカンパチも、同じタイミングで押し出されるので、改めて襲ってくるでしょうね》


 「やばいじゃないですか!!」


 《ふふん、心配には及びません。あちらをご覧なさい》


 女神の指さす方を見れば、城壁の一部が小さく爆ぜるのが見えた。


 『もっちゃー―――――――ん!!!』

 爆発音に続き、聞きなれた声が飛来する。


"パパパッァアアアアアアアアアアアアアアアアーーーンン!!"

 

 更に真下からは耳を(つんざ)くような破裂音。

 

 黒円の端から、巨大な魚が海老折りになりながら吹っ飛んでいくのが見えた。


 『ばぁちゃん!?』

 《間に合ったようですね》


 「もしかして、女神さまが何かしてくれました?」

 《えぇ、勇者千代子に神託を下しました。勇者餅太朗のピンチとね》


 「ありがとうございます!!」

 《ふふん、優秀な上に気配り上手な私に存分に感謝なさい》


 「ありがとうございます。それで、このあとは?」

 

 《……このあと?》


 「えっ……このままこの高さから落ちたら結局死ぬんですが」

 《え……うまいこと、こう……着地するとか》


 「いや、ゲームじゃあるまいし無理ですよ!」

 《人の子とは脆いのですね》

  

 「……」

 《……》


 「やばい!結局死ぬじゃん、これ!」


 《さっきの要領であいてむぼっくすの中に落ちるのはどうですか?》

 

 「着地の直前で使えればいけそうですが、失敗すると死にますね……」

 となると、途中で何度か発動して段階的に落ちていくわけだが……何だその絵面。



 さて、どうするか。

 現在膝下あたりまで押し出されているので、直にアイテムボックスは解除されるだろう。

 これ、もう一度頭から飛び込んだら、時間を稼げないだろうか?


 打開策を考えていると、後方で何かが羽ばたく音が聞こえた。


 「よかった、無事で……ひっ、膝が!!」

 音がする方を見れば、秘書さんが飛んで近寄ってくるところだった。


 どうやら助けに戻ってきてくれたらしい。



 秘書さんにロープを持ってもらい、地面に降り立つ。


 周りを見渡せば、いつの間にか、魔族たちはいなくなっていた。

 

 まぁ、あれだけの魔法だ。

 

 巻き込まれないように、発動後は早々に避難したのだろう。

 何とか収納できたから被害がなかったが、本来なら甚大な被害が発生したはずだしな。


 思いがけず死にかけてしまったが、街が無事で本当によかった。

 


 しかし、本格的にこれからのことを考えねばならないな。

 今日は退けられたものの、3日後に本隊が到着すると言っていた。

 あれだけの魔法が放てる四天王に、チート級の身体能力の魔族兵が数千。

 反対に、こちらは兵士のほとんどが壊滅状態。

 

 果たして勝算はあるのだろうか?

 ここは逃げるか?

 いや、そんなことをしたらこの街の人々が……。

 ここで見捨てるなら、何のために、死にかけてまで守ったんだって話だ。

 それに、四天王ごときに手間取っていては、魔王は倒せない。

 だが、それはもっと強くなってから挑むべきで、今は雌伏の時なのでは?

 

 

 『もっちゃん~』

 呑気な声で思考は中断される。

 

 声のする方を見れば、ばぁちゃんが巨大な魚のしっぽを掴み、ズルズルと引き摺りながらこちらへ歩いてくるところだった。


『そこにね、新鮮な(かん)(ぱち)が落ちてたの。今日のお夕飯はお刺身にしよぉねぇー』


 ……いや、そこに落ちてたっていうか、堕とされたんだけどね、ばぁちゃんに。

 

 というか、それ食べるの?

 トラックサイズだし、翼生えてるし、身体紫色だし、本当にカンパチかどうか怪しいよ?


 当のカンパチモドキはまだ死んでいないらしく、弱弱しくビチビチと跳ねている。

 時折逃げようと翼をはためかせるものの、その都度、ばぁちゃんのフルスイングで地面に叩きつけられ、飛び散った鱗は太陽光を浴び、ダイヤモンドダストのように輝いていた。


 その光景に思わず笑みがこぼれてしまう。

 まったく、ばぁちゃんには敵わないな。


 まぁ、今日も何だかんだ何とかなったんだ。

 きっと3日後も何とかなるだろう……いや、何とかするのだ。

 両手で頬を叩き、気持ちを切り替える。


 『うーん、生だと寄生虫とか怖いし、ばぁちゃんの好きな煮つけにしよっか』

 駆け寄ってきた将軍や街の人々に迎えられながら、俺たちは街へ帰るのだった。



 なお、日が暮れる頃には、兵士たちがポツポツと帰ってきた。

 満身創痍で重傷者も多かったが、全滅したとばかり思っていたので、正直驚きだ。

 何でも、極大魔法を一早く察知した魔法使いが障壁を張ったおかげで、かなり被害を抑えられたのだとか。

 だが、爆風で吹き飛ばされたうえ、一面が火の海になったために散り散りとなったそうだ。


 それで消火活動や応急手当を行ったうえで、周囲の兵士を集めながら帰還したとのこと。


 とはいえ、流石に全員生存というわけにはいかず、帰還したのは半数にも満たず、少なくない犠牲者が出てしまった。

 だが、あの太陽を食らって生きているのだから、異世界人、もとい魔法やべぇなと思う。



 そんな彼らは現在、重傷者を優先的に神官たちに治癒魔法をかけてもらっている。

 そして、比較的軽傷だった兵士たちは、皆一様に大騒ぎしながら魚の串焼きに群がっており、それはそれは美味しそうにほおばっている。


 そう、彼らが食べているのはカンパチもどきだ。

 とてもじゃないが、俺たちで消費できる量ではなかったから、街の人々にも振舞ったのだ。

 どうやら、ヌレなんとかに引けをとらないほどのご馳走だったらしく、提供すると言った瞬間の興奮具合は軽く引くレベルだった。


 ちなみに、結局醤油がなかったために煮つけは作れず、折衷案で塩焼きとなり、広場で魚を焼き始めたのだが、香ばしいにおいに釣られてか噂を聞きつけてか、あれよあれよという間に、兵士や住人が集まりだし、ちょっとしたお祭り騒ぎになってしまった。

 

 まぁ、あんなことがあった後だ。

 街に活気が戻ったのはいいことだろう。

 いや、活気が戻ったどころか、魚の串焼きを巡って殴り合いの喧嘩(けんか)がそこら中で勃発(ぼっぱつ)しており、治安維持が仕事の衛兵までもが(はや)し立てているのだから、始末に負えない。


 そうまでして欲しいものなのだろうか?

 雑に切り分けられた拳大の切り身が、これまた雑に5つも刺さった串を見やる。

 一口かじるものの、劣化したゴムみたいな食感だし、大味すぎて美味しくない。

 

 薄々感じてはいたが、この世界の味覚感覚は俺には合わないらしい。

 まぁ、国や文化が変われば、好まれる味が変わるのも当然か。

 でも、メープルの淹れてくれたお茶や干し肉は美味かったよな。

 貧しくて舌が肥えてない人が多いだけか?

 

 「食べないの……?」

 

 抑揚のない声で思考の海から引き揚げられる。

 いつの間にかすぐそばにティピーが建っており、切れ目からはみ出た薄緑色の半透明の手が、まるで催促するかのようにウネウネしていた。

 

 「あー……よかったらど」

 こちらが言い終える前に俺の手から消える串焼き。

 

 そして、更に無言で俺の後ろを見ている……気がするチトセさん。

 俺の後ろには、デカい板の上に鎮座する巨大魚の頭。

 ばぁちゃんが、俺のために切り分けてくれたやつだ。

 なぜ、毎度頭をくれるのだろう?普通にいらないんだが。

 

 「あれもよかったらどうぞ」

 「……アリガと」

 そう小さく呟くなり、スルスルと頭の方へ移動するチトセさん。

 そして、質量保存の法則なんて知らぬかのように、ティピーの中へモリモリ収納していく。

 中は一体どうなっているんだろうな?

 てか、メシ時になるといつの間にかいるな、この人。


 チトセさんの食いっぷりは、この世界の人々から見ても異様なようで、囃し立て大いに盛り上がる住人たち。

 巨大魚の頭を完食した瞬間には、盛大な拍手が巻き起こっていた。

 当の本人は特に気にした様子もなく、スルスルと衣擦れの音を響かせながら、いつの間にか広場のあちこちに乱雑に積まれた料理やお酒へ向かっていった。

 その様子を見てか、逞しい体つきの男たちも加わって始まる大食い大会。


 またほかの場所では、魚を巡っての喧嘩が闘技大会みたいなものに発展しており、多くの野次馬に囲まれ盛況なようだった。

 今も二人がかりで突っ込んでいった兵士たちが、黒い大男に投げられ、宙を舞っていた。

 その様子に大はしゃぎする野次馬たち。

 コインのようなモノが飛び交っているので、賭け事にでもなっているのかもしれない。

 兵士たちの代わりに登場したのは、全身が灰色の毛に覆われた大男。

 黒い大男とがっぷり四つに組み始める。中々に暑苦しい光景だ。

 というか、よく見れば黒い大男はクッキーだった。


 さきほど投げられた兵士たちが、仲間を集めてリベンジしようとしているようだが、適当なところで切り上げたほうがいいよと、切に思う。


 また他方では、ミントさんが陽気な音楽を奏でながら、美しい歌声を披露していた。

 吟遊詩人たちも演奏に加わり、子供たちが好き勝手に歌を合わせ、若い男女は手をとりあって踊っている。


 いやはや、これは本格的に祭の様相になってきたな。

  


 だが、今だけはいいだろう。

 3日後にはこうしていられるかもわからないのだから。


 いや、この光景をまた見るためにも、なんとしても魔王軍を追い払わなくてはな。



 人々の笑顔を目に焼き付け、決意を新たにする。



 ちなみに、闘技大会が白熱しすぎた結果、大勢の怪我人が水の神殿へ運び込まれた。

 中には治療したはずの者も含まれていたようで、メープル含む神官たちが怒鳴り込んできたために、お祭り騒ぎはお開きとなった。



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