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これはヘンですか? はい、変です

 羊羹バレット。

 効果は単純明快。

 羊羹の塊を出現させ、射出する。以上。


 その単純さから羊羹魔法の入門編と位置づけられており、四大属性の中では羊羹魔法の使い手が一番多いことを考慮すれば、最もメジャーでスタンダードな魔法だともいえる。

 

 元の名称はアースバレットなりストーンバレットだったのだろうか。

 最もメジャーな魔法ってことは、戦場では黒い塊をお互いの陣営に向けて投げ合っているということか?

 羊羹になってしまったせいで、何とも滑稽な絵面になっていそうだな。



 将軍から羊羹魔法のことを教えてもらいながらそんなことを考える。

 結局、断るためのいい口実が見つからなかったので、教えてもらうことになったのだ。

 まぁ、もしかしたらステータスの奇跡に活かせるかもしれないしな。同じ石だし。


 「しかし、そんな基本の技だからこそ、その者の実力がはっきりと出ます」

 そう告げながら、掌から羊羹の塊を出現させる。


 「フォールロックのカキゴリウスといえば、ここらじゃ知らぬ者はいない羊羹バレットの名手だ。手ほどきを受けられるのはとても貴重なことだからな」

 横にいるシフォンが補足をいれてくる。


 「これしか能がないだけですよ」

 「ご謙遜を。羊羹バレットを極めし者、魔法を制するといった格言もあるほどだ。初級魔法の羊羹バレット一つで、数々の武勇伝を築き将軍となったアナタに能がないというならば、恥ずかしくて誰も魔法使いを名乗れなくなりますよ」


 「はは、照れますね……餅太朗殿、覚えておいてください。この世界では人や魔獣であれば、誰しもが魔法を使います。そして、魔法は多種多様であるものの、戦闘の最中(さなか)に咄嗟に使えるものとなると、限られてきます」


 「スト……羊羹バレットのような初級魔法ってことでしょうか?」


 「はい。相手が同じような魔法を使う以上、どこでどの魔法をどのように使うか、そして、いかにうまく当てるかが重要となります。あとは、いかに応用を効かせるか……ですね」


 「応用ですか」


 「えぇ、たとえば、普通の羊羹バレットがこうです」

 掌を前に向けると、手中に羊羹の塊が生じ、山なりの軌道で飛んでいった。


 「そして、次はこう!」

 先ほどと同じように羊羹の塊を出した後、それを鷲掴みにし、大ぶりな全力スイングで投球する将軍。

 次の瞬間には羊羹の塊は壁へ衝突し、景気の良い音を立てて爆ぜる。

 

 「たったこれだけで、威力を跳ね上げることができます」

 

 ……いや、それできるのあんただけじゃないですかね。


 こちらの感想を他所に周囲では感嘆の声が上がっている。


 「ほかにも相手や状況により、タイプを使い分けることも有効です」

 「タイプですか?」


 「えぇ、よく見ていてください……」

 そう言うと将軍は徐に掌をお尻に回す。


 「例えば攻撃力重視の鉄球タイプ!」

“パッアァーーン!”

 お尻から取り出され投げられた黒い塊は、壁に叩きつけられ爆ぜる。


 「手数重視の散弾タイプ!」

“パッアァーーン!”


 「制球重視の球体タイプ!」

“パッアァーーン!“


 「そして、貫通力重視の円錐タイプ!」

“パッアァーーン!”


 「と、このように形を切り替えることによって、多彩な攻撃が可能となります」


……。


 全部同じじゃねぇか!


 ただただ羊羹を壁に叩きつけているだけじゃん。

 だが、こちらの冷めた感想を他所に、周囲では将軍が投げるたび、どよめきや感嘆の声が上がっていた。

 彼らには何が見えているのだろうか?

 まぁ、おそらく、もとの石の状態だったら色々違ったんだろうなと一人納得する。


 「そういえば、何で発動のたびに、その、お尻に手をやるんです?」

 「ふん、どの形状で来るかを敵に読まれないようにするためだろう」

 シフォンが口をはさむ。

 あー、なるほど、そういうことか。

 理には適っているが、羊羹となった今では、なんと紛らわしい。


 「あとは、魔臓に近い分、魔力を捻り出しやすいという理由もありますね」

 「魔法の基本ですね。懐かしい……俺もガキの頃はよくそうしていました」

 「学び始めは皆そうやって教えられますからね。しかし、魔力を練ろうと力みすぎて、危うく違う物が尻から出そうになる、とうのは幼少期あるあるですね」

 「ははは、笑えるだろう、餅太朗」


 いや、笑えないよ?

 ニアピンなんだが。出現場所のせいで限りなく近いナニかなんだが。



 「笑えるといえば、何でも餅太朗の故郷では、羊羹を食べるそうですよ」

 挙句の果てにシフォンが余計な事をぶっこんでくる。


 「羊羹を……ですか?」

 「えぇ、何でも日常的に食べているとか」


 「これを……食べるのですか……?」


 尻からひねり出し掌の上に載せた羊羹を、青い顔で見つめる将軍。


 おい、止めろ。

 あんたは食べちゃいけない。


 「お止めください!そんなものを食べたらおなかをこわしてしまいます!」

 兵士たちも制止に入る。


 「餅太朗殿、あなた方の故郷では羊羹を食べるというのは本当なのでしょうか?」

 「確かに食べますが……無理して試す必要もないんじゃないですかね?全員が全員食べるものじゃないですし、好き嫌いもありますので」

 兵士やシフォンからの無言の圧力が凄い。

 いや、シフォンよ。お前があんなこと言ったから、こうなったんだぞ。


 「いえ、羊羹が食べられるとなれば、食料事情の改善が見込まれる。そうなれば、昨年の秋のような状況でも活路が見いだせるやもしれない。民や兵にひもじい思いをさせる必要がなくなるかもしれない。その可能性があるならば、私はどんな些細なことでも試さねばなりません」

 将軍は真剣な顔でそう告げる。


 「ちなみに、これは……生で食べるのですか?」

 「はい」

 「……そっ、そうですか」

 明らかにうろたえる将軍と騒めく兵士たち。

 生というか、すでに加工済みなんだがな。

 まぁ、この世界の人の感覚だと土や石を食えってわけだから、この感想も当たり前か。



 《勇者餅太朗、あなたがまずは食べて見せなさい》

 探検すると言い残し、どこかへ消えた女神がいつの間にか帰ってきていた。


 《私がですか?》


 《えぇ、あなたが実際に食べているのを見れば、彼らも納得するでしょう》


 《別に無理に食べさせる必要はないんじゃないですか?》


 《それでは奇跡を起こした意味がないではないですか。それに、あまりにも普及していないようだと、私の奇跡が失敗だったように見えてしまうではないですか!》


 《……》

 いや、その通りだと思いますよ?

 大失敗でしたよ?


 《むむ……ならば天啓を授けましょう。使徒餅太朗、キンツバードに羊羹食を普及させるのです!》


 《いや、こんなこと天啓にしないでくださいよ》

 しかも、勝手に使徒にされてるし。


 ……まぁ、しかし、ここは女神の提案に乗ろうではないか。

 なに、和菓子屋の息子としての矜持のようなものだ。

 羊羹が食べられもせずに、ただ壁に投げつけられるているだけというのは、俺としても忍びないからな。



 「シフォン、羊羹を少し出してくれるか?」

 「あぁ、構わないが」

 シフォンが掌に出した羊羹をつまみ上げる。

 そして、羊羹を口に放り込んだ。


 

 「馬鹿な、本当に食べたぞ……」

 「大丈夫なのか?」

 「やつの顎はアダマンタイト製か!?」

 「おいおい、皆落ち着け。どうせすぐにはき出……嚥下した……だと!?」


 騒めく兵士たち。

 この世界に来て、初めての異世界人ヨイショ反応をされている。

 が、こんなことでされても全然うれしくない。

 

 「どうやら食べられるというのは本当のようですね」

 掌の上の羊羹を見つめ、ごくりと喉を鳴らす将軍。


 「将軍だけに食べさせる訳にはいきませぬ!私もご一緒いたします!」

 年配の兵士がそう告げ、掌に羊羹を出現させる。


 それが呼び水となり、次々と兵士たちは手中に羊羹を生成する。


 「皆さん……」


 将軍慕われてますね、本当に皆羊羹魔法使えるんだね、などと言いたいことはあるが……


 なんだこの空気。


 決死の殿(しんがり)戦の前みたいな空気醸(かも)してるけど、ただ羊羹を食べるだけだぞ。

 シフォンのやつも、やれやれ仕方ないな、といい言いたげな表情で羊羹を手にしている。

 何か傍観者面してるけど、お前が始めた物語だからな、これ。



 「では、キンツバードの未来に乾杯!!」

 そう高らかに宣言し、羊羹を口に放りこむ一同。


 「……」

 「……」


 だが、すぐに皆、何とも言えぬ微妙な顔となる。


 「……これは、そうですね。確かに食べられる……のかもしれませんが……何というか、その……とても個性的な味をしていますね」

 そう言って、どこからもなく取り出したハンカチで口を拭う将軍。

 他の兵士も皆微妙な顔をしており、中には吐き出している者もいた。


 どうやらイマイチなようだ。


 《むぅ……この美味しさが分からないなんて》


 《まぁ、餡子系の和菓子って、外国の方には受けが悪かったりしますからね》


 「あとは……強いて言えば、東方の苦茶などと合うかもしれませんね」


 《ならば、水魔法を緑茶に変えれば……》


 《女神さま!?》

 おいおい、これ以上余計なことはしてくれるなよ。



 「さて、そろそろ夕餉も出来上がった頃合いでしょうし、今日のところはここまでにしておきましょうか」

 空気を入れ替えるように、手を叩いた将軍がそう告げる。

 

 「餅太朗殿、楽しみにしておいてください。料理長が言うには、何でも、新鮮なヌレピソステウス・デーモン・テリマルが手に入ったのだとか」

 その名を聞いた途端、兵士たちが騒めき始める。


 あれ?なんかどっかで聞いた名前のような……。


 「ふふ、アラを煮込んだスープを、兵舎にも届けるよう料理長に頼んでおきました」

 瞬間、割れるような歓声が沸く。


 どうやらご馳走のようだし、楽しみだな。


 《グロテスクな見た目に反して美味なことで有名な魚ですね》


 《へー、そうなんですか!アンコウみたいな?》


 《気になりますか?どちらかというと……》


 《あっ、楽しみはとっておきたいので、頭の中に投影しなくていいですよ!》

 グロテスクな見た目らしいからな。あえて食欲を減退させる必要もあるまい。



 「将軍大変です!!」

 和気あいあいとした空気の中、大慌ての兵士が練兵所に駆け込んできた。


 「何事ですか?」


 「魔王軍が!魔王軍が進軍中!フォールロックに向かってきています!!」


 瞬間、空気が張り詰める。


 どうやら事態は急変したようだ。

 


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