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フルボッコだドン!

 あれから数日が経過した。


 その間、様々な試行錯誤を行い、新たに判明した数々の奇跡の仕様。


 それらを戦闘に組み込むことによって、俺は独自の戦闘スタイルを確立した。


 そう……名づけるなら、餅太朗流戦闘術。


 後世に語り継がれ、その名を聞けば魔族が震え上がる究極の武術が今この瞬間、産声を上げる!!

 


 なんてね、思っていた時期が俺にもありました。


 みなさん逆さまの世界からこんにちは。

 今俺はクッキーに足を掴まれ、宙吊りにされています。

 成人男性を片手で軽々と持ち上げるとか、その丸太のような腕は伊達じゃないね。


 そして、更に高く持ち上げられ、逆さまで目があった状態での罵詈雑言の嵐。

 普段の穏やかさはどこにいったのやら。

 どうやら、頭に血が上ると性格が変わるタイプらしい。

 奇遇なことに俺も今頭に血が上ってるよ、宙吊りだからね。



 そもそも、何故こんなことになっているのか。

 それは、対魔族を想定した模擬戦をクッキーにお願いしたからだ。


 魔王はばぁちゃんに倒してもらうとしても、旅に同行する以上、普通の魔族ぐらいとは戦えるようになる必要があるからね。


 でも、奇跡を取り入れた餅太朗流戦闘術、なんて浮かれていられたのはほんの一瞬。


 もうね、ボコボコ。

 手も足もでなかった。


 まぁ、俺は武術の心得どころか、禄にケンカすらしたことがない。

 普通に考えて、永年戦争してるような世界の住人に勝てるわけないよね。


 そしてね、命がけの傭兵という職業柄かな?

 クッキーさん、すごいスパルタなんですよ。


 もうね、情けないくらいに何度も何度も転がされた上で、早く向かって来いと急かされる。

 それで立つのが遅いと、今みたいに持ち上げられて、罵詈雑言を吐かれる。

 こんなんじゃ戦場じゃ生き残れないぞってね。


 いやね、正論なのはわかってるさ。

 でもさ、こちとら初心者なんだしさ、もう少し優しくしてくれてもいいのにね。


 開始一時間ですでに心身共に満身創痍だよ。


 そして、放り投げるように地面に打ち付けられ、受け身もとれずに転がる。

 早く立ち上がらないとまた怒声が飛んでくるので、小鹿のように震える足で立ち上がる。



 「ステータス」

 その言葉に反応し、俺の目の前にいつも通り光が集まる。


 だが、落ちてきたのはいつもの石板ではなく、一振りの石の剣だった。


 そう、このステータスの奇跡。

 ある程度なら自由に形状や大きさを変えられたのだ。


 石と思って侮るなかれ。

 何しろただの石の剣ではなく、試行錯誤の末に完成した、御手洗刀【改・参式】なのだ。

 (ふち)を薄くすることによって切れ味の向上に成功したこの業物は、鉄の剣と遜色ない切れ味を誇る(当社比)!!



 まぁ、弾かれたんだけどね。生身の腕に。



 剣を打ち付けて甲高い金属音が響いた時には耳を疑ったよ。


 だが、この剣は石製ゆえに鈍器にもなる!

 我武者羅に打ち付け……たが、傷一つつかなかった。


 「フザケているのカ?」

 挙句の果てには、そんなことを聞いてくる。


 それはこっちの台詞だ!

 何なんだ、その腕!鉄板でも仕込んでんのか!

 外骨格、外骨格なのか!虫要素なのか!



 だが、ステータスの奇跡の使い方は何も武器を出すだけではない。

 相手が突っ込んで来た時、自分が後退しながら発動することによって、空中に障害物を出現させることもできるのだ。


 まぁ、腕の一振りで吹き飛ばされたんだけどね。

 おかしいな……ビート板サイズの石板を3つ出したはずなんだけどな。

 普通さ、避けたり減速するもんじゃないですかね?


 他にも車サイズの大岩を出して相手を潰……せずに、普通に砕かれたり。


 いや、俺的にさっきのは必殺技だったんだけどな。


 石板を大きくするには自身の情報を相応量追記する必要があり、追記内容は発動の度に頭の中で考えなくてはいけないから、時間もかかるし大変なんだよ。

 あの大きさにするために、どうでもいい情報から恥ずかしい情報まで搭載した珠玉の一撃だったんだよ。

 それを一撃で粉砕とかさ、ちょっとは空気を読んで欲しいよね。

 

 もっと高い位置に出せればよいのだが、石板は俺の目の高さにしか出現しないのだ。

 それだと、クッキー相手だと胸元くらいの高さなので、あまり効果的じゃないんだよね。

 せめて、自然落下ではなく、射出とかできたら強かったのだが。


 まぁ、攻撃はこんな感じだ。

 正直なところ、まるで歯が立っていない。


 理由は明確。

 圧倒的な経験不足と筋力不足だ。


 そもそも、武器が重すぎる。

 構えるだけで腕がプルプル震える体たらくだからな。

 あんなんを振り回していた昔の人って凄いね。


 てか、実際に使ってみて思った。

 石の剣はないわ。普通に鉄の剣でいい。

 ただ、いくらでも出せる点は優れているのだから、剣の形にこだわらず、投げ槍状にすればどうだろうか。次回までの改善点だ。


 クッキーに顔を鷲掴みにされて持ち上げられながら、そんなことを思う。



 さて、攻撃面はさっぱりだった一方、防御は結構いい感じだった。

 使ったのはアイテムボックスの奇跡。


 掌の先に出現する直径25cmの黒円は、矢だろうと岩だろうとパンチだろうとすべて飲み込んでしまうのだ。

 しかも、飛来物の一部でも円に触れそうならば、収納可能な大きさまで自動で円は広がってくれる。

 アイテムボックスなんて収納魔法の下位互換の大外れだと思っていたが、大当たりだったようだ。


 ただ一見無敵の盾に思えるこの奇跡も、弱点が結構ある。


 まず、出した方の掌を閉じるのが終了のトリガーらしく、黒円を出している間は剣を両手で扱えない。

 片手では剣を振れないので、要筋トレだ。


 また、飛来物を収納する際、黒円は相応のサイズに真円状に広がるため、視界が遮られる。

 そのため、さっきも大岩を投げられ、円が広がった隙に背後をとられてしまった……いや、岩を投げられるのもそうだし、なんであの一瞬で回りこめるんだろうな。


 あとは、黒円は手に追従するため、俺が飛来物の速度に対応できないといけない。

 まぁ、よしんば反応出来たとしても、さっきなんかは顔に向けて石を投げられ、反射的に掌を顔の方へ持っていった瞬間、ボディブローを入れられたんだけどね。

 他にもフェイントをかけられ、腕を戻そうとした瞬間に腕をかち上げられ、円が上を向いた隙に殴りつけられたりね。


 一応、意識すれば円をその場に固定することもできるのだが……その場合は俺があまり離れると消えてしまうようだ。

 思い切り蹴り飛ばされたことによって、数秒前に判明した新事実だ。

 いやはや、これはまだまだ検証の余地があるね。


 というか、あれだ。

 アイテムボックスに弱点が多いのではなく、クッキーがおかしいのだと思う。


 膂力が凄まじいのは見た目通りなのだが、移動速度や攻撃速度も滅茶苦茶速いのだ。

 いかにもパワー系なその見た目なら、スピードは弱点であるべきだろ。

 なに、素でチート性能してるんだよ。



 アイテムボックスの話に戻そう。

 盾として優秀なこの奇跡だが、残念ながら攻撃にはまるで使えない。


 まず、生物が入れられない。

 いや、入るのだが、じきにニュルリと押し出されるのだ。

 とはいえ、頭から丸々収納されれば、尻からゆっくり排出されるため、押し出されている間は無防備。

 一方的に攻撃が可能だ。

 そして、黒円には実体がないため触れられず、近づいた物が収納可能な大きさまで広がる。


 ならば、突っ込んでくる敵の前で出せば、罠として使えるのではないか……と思った時期もあったが、見てから反応余裕でしたと言わんばかりに、普通にサイドステップで避けられた。


 また、あくまで受動的な奇跡らしく、円の大きさを能動的には変えられず、近くの物を吸い込む力などもない。

 そのため、掌に追従する性質を利用してこちらから収納しようとしても、対象の表面ギリギリで円が止まり、円も広がらずに収納もされない。

 そして、空気中にしか円は出現できない。なので、相手の体内に円を出現させる疑似切断魔法や、湖の水を抜いたり、城を丸ごと飲み込む……みたいな大技はできないわけだ。


 まぁ、盾としては破格の性能をしているのは確かなので、そちらの方向で上手く活用していきたいところだ。

 クッキーにまるで通用しないのも、俺の経験不足といった面が大きいしな。

 鍛錬だ、鍛錬。

 

 足首を掴まれブンブンと振り回されながら、そんなことを思う。

 


 てか、一旦止めようか、クッキーさん。

 これ、シャレにならないって。

 遠心力ブンブンのこの状態で叩き付けられたら普通に死ぬよ?

 俺は外骨格もってないからね?


 そもそも、訓練になってるこれ?

 かれこれ1分くらい空中で振り回されてるだけなんだけど、俺。

 最早罵声もなく、唯々雄たけびをあげながら俺をブン回すクッキー。


 結局メープルが夕飯に呼びに来るまで、ブン回された。

 もう少し遅かったら、バターになってたね、うん。


 とりあえず、明日からはクッキー以外に頼もうと心に誓った



 くたくたになった身体を馬車に横たえる。

 あの後、クッキーには謝られ、俺の分の夜番も代わってもらうことになった。

 訓練はこっちからお願いしたことなのに何だか申し訳ないが、正直身体が悲鳴をあげていたので、甘えることにした。

 心身共に疲れ果てているし、普通ならもう寝るところなのだが、まだやることがある。


 「鑑定」

 そう呟くと、頭の中にパソコンモニターのようなものが浮かび上がる。

 そして、聞きなれた呼び出し音が頭の中に響き、画面中央には「God’s calling」の文字。

 

 しばらくの後、音が鳴りやむと同時に文字が「God’s calling」から「光臨g now」に変化し、画面下部にいくつかのウィンドウが表示される。


 左下のウィンドウにはこの世の物とは思えない絶世の美少女……ミルク姫が映っている。ドット絵で。ドット絵でも可愛い。


 《どうかしましたか、勇者餅太朗》

 そして、可愛らしい声に合わせ、ポポポポと往年のRPGを彷彿させる懐かしい音を奏で、右横の広めのウィンドウに文字も表示される。


 《ごきげんよう、美しく偉大な女神さま。今日もそのお知恵を敬虔なる信者に授けてはいただけないでしょうか?》


 《連日連夜とは熱心なことで。でも、私もヒマではないのですよ。まぁ、しかし、敬虔なる信徒の願いに応えるのも神の務め。ふふん、仕方ないですね!何を知りたいのですか?》


 《寛大なお心に感謝いたします!それでですね、今日は……》


 脳内でキーボードを叩くというと変な感じだが、そうとしか言えない感覚で文字を送信。

 すると、右下のウィンドウの文字に反映される。


 ここ数日で一番変化したのは、間違いなく鑑定の奇跡だろう。

 精神を直結する形式から、モニターを介する形式に変わったのだ。

 

 これは大きい。

 

 打ち込んだ文字だけ相手に伝わるようになったので、相手に伝わらないように、思わないようにするとかいう、謎の努力をしなくてよくなったのだ。

 今思えば、本当に無駄な努力だったよ。


 何故この奇跡だけこうも変わったのかというと、改変コストが安かったからだ。

 鑑定の奇跡は女神側からも繋がる仕様の都合、他の奇跡と違って女神側で改変可能で、遠隔操作でいじる必要がない分コストを抑えられた……らしい。

 正直思考を読まれるのは大変やり辛かったので、改変をお願いしたのだ。


 それで出来上がったのがこの新しい鑑定の奇跡なのだが、画面やUIが往年のRPGを彷彿させるつくりになっている。

 勇者特典の時といい、女神の趣味なのだろうか。

 しかし、使いやすくなった代償でMPは60万くらいまで減ってしまった。

 魔族をガンガン倒さなくては。


 さて、この奇跡を使って何をするかといえば、この世界の情報収集だ。

 こちらが聞きたいことを聞き、それに女神が答える。

 その形式は変わらない。

 本当は俺が自由に調べられたらよかったのだが、それは管理者キーがどうたらで難しいらしい……あの女神が言うことなので本当かどうか怪しいものだが。


 しかし、それを差し引いても、身体を休めつつ脳内で情報収集ができるのはかなりデカい。

 この世界は魔法があるだけでなく、獣人や魔獣がいたり、文化様式一つとっても、俺がいた世界とまるで違う。

 知るべきこと、知らなくてはいけないことがそれこそ山ほどあるのだ。


 一つ問題があるとすれば、女神がすぐ脱線することだろうか。


 今もフォールロックの政治形態について調べてもらっていたはずなのだが、いつの間にか観光スポットの話になっている。

 中央の湖が壮観らしいのでぜひ行きましょう、隕石くぐりのツアーもあるらしいですよ、じゃないんだよ。

 何で観光気分なんだよ!

 てか、行ったとしてもあんたは見られないだろ。

 

 そんなこんなで夜は更けていき、女神と半ば雑談をしている内に、いつの間にか意識を手放していた。



 そして、更に数日がすぎ。

 

 ついに俺たちは目的地、フォールロックに辿り着いた。



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