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蟻の面に羊羹、泣きっ面に水

 ゴブリンといえば、ファンタジーの定番モンスターだろう。

 しかし、目の前のゴブリンは俺の知ってるゴブリンとなんか違う。

 

 イボだらけの緑色の身体に出っ張った両目。

 そして、膨らんでは縮む喉。

 

 うん、これはカエルだよな?

 

 「これ、ゴブリンなのか?カエルじゃなくて?」

 「ゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコ」

 「あー!?何だってー?」

 「ゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコ」

 「だから、これゴブリンなのかー!」

 「ゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコ」

 「あー、そうだぜ、ゴブリン。間違っても蛙人(トード)族にゴブリンとか言うなよ」

 「ゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコ」

 

 あー、もう、 ゲコゲコゲコゲコうるせぇ!!

 やっぱゴブリンじゃなくてカエルじゃねぇか!

 

 ゴブリンたちは合唱を続けるが、こちらを遠目に眺めるだけで近づいてこない。

 

 「ゴブリンは敵対的な種族じゃないのか?」

 「まぁ、こちらから手を出さなきゃ何もしてこないと思うぜ」

 「じゃあ、何で馬車を止めたんだ?」

 

 「ゴブリンを見つけた千代子ちゃんが馬車から降りちゃったんだもの」

 ばぁちゃんと一緒に馬車の御者台で前方の見張りをしていた、ミントさんがこちらにやってくる。

 言われて見てみれば、ばぁちゃんがヒポの横で、ゴブリンたちを眺めていた。


 『かわいいねぇ』

 ばぁちゃんはそう呟くが……かわいいか、あれ?


 不恰好に腕が長い醜悪なカエルにしか見えないんだが。

 まぁ、ばぁちゃん動物とか好きだもんな。


 「だが、ちょうどいい機会だ」

 「あら、シフォンちゃん。どうしたの?」


 「餅太朗が魔法を習いたいらしい。それで実際に見せようかと思ってな」

 「駄目よ。シフォンちゃんの火力で放ったら、大火事になるわよ」


 「……加減はする」

 「ゴブリンに火属性をぶつけるつもり?教える立場なのに?」


 「ふん、なら火属性以外を使うまでだ」

 「だったらなおさらよ。他の属性じゃ加減なんて器用なことできないでしょう?ほら、ここは私に任せて。爆ぜ散りなさい、青花の散弾(ブルフルールショット)

 ミントさんが優雅に手を振り抜くと、ゴブリンたちの足元で何かが連続で爆ぜる。


 すると、こちらが何かしたのを理解したのか、ゴブリンたちの目に怒気が宿る。

 そして、手を繋いで円となり、マイムマイムのリズムで歌いながら回り始めた。



 「さっ、向こうも準備を始めたみたいだし、こちらも準備するわよ。クッキー」

 「アァ、わかった」


 クッキーが俺たちの前に進み出る。


 「おい、何を勝手に」

 「ほら、シフォンちゃん。餅太朗ちゃんに魔法を教えるのでしょう」


 「ぐ……いいか、餅太朗。魔法には属性があるのは知っているな?」

 「火水風つ……羊羹だろ?」


 「あぁ、そうだ。種族や個人の資質によって、得意な属性は異なり、俺は火属性、クッキーは羊羹属性の魔法が得意だ。そして、ゴブリンは水属性魔法を好んで使う」


 ゴブリンも魔法を使うのか。いや、人の貌をしてるし、祖先が真実を食べたのだろう。

 ゴブリンたちの真上には、いつの間にか、直径3mほどの水球が出来上がっていた。


 「属性には相性があり、火は風に強く、水は火に強く、風は羊羹に強い」

 そうこう言っている内に、ゴブリンたちは手を上に掲げ、今にも投げてきそうだ。


 「そして、羊羹は……水に強い」


 強くないと思うよ。

 

 「だから、水魔法に対してはこうだ!クッキー!」

 「頑強なる守護の盾よ、そそり立て!羊羹ウォール!」

 クッキーがそう唱えれば、クッキーの前の地面から羊羹の壁がせせり上がってくる。


 えっ……これで防ぐつもり?いや無理だろ?羊羹だよ!


 そして、高さ5mほどになった羊羹の壁はゆっくりと……


 クッキーの方へ倒壊した。


 「クッキー―――――――――――!!」

 自分で出した壁に押しつぶされるクッキー。


 そこにゴブリンたちの投げた水球が飛び込み、勢いよく水柱が上がる。

 「クッキー―――――――――――!!」



 場は静寂に包まれる。


 いやいや、こうなるだろうよ。羊羹だもの。

 てか、防ぐ防がないの域にすら達してないんだが。


 「とりあえず、クッキーを助けないと!」

 慌てて助けに行こうとするが、どうもおかしい。

 周りを見渡せば、無表情でフリーズする一同。


 あれ?前にもこんなことあったような……。


 次いで、白目を剥き、雷に打たれたかのようにガクガク震えだした。


 あ、これ世界の修正入ってる!!



 おいおい、修正されてる場合じゃないよ、戦闘中だぞ!


 焦って、ゴブリンたちの方を見れば……


 同じようにガクガク震えていた。


 ゴブリンにも有効なのかよ!

 


 やがて、震えが収まると、世界に色が戻ったように急に全員動き出した。


 「馬鹿な!!ゴブリンごときがクッキーの羊羹ウォールを破るだと!?」

 いや、破る前に自滅してましたよ。

 

 「クッキー大丈夫!?」

 風を纏い、クッキーの元へ飛ぶミントさん。

 すると、羊羹の山の中から、むくりと起き上がる大柄の男。


 「ム……ダイジョウブだ」


 「餅太朗、予定変更だ。ここは全力でいくぞ。魔獣の中には変異個体(ユニーク)と呼ばれる強力な個体が稀にいる。やつはおそらく……変異個体だ」

 

 違うと思うよ?

 険しい顔して冷汗流してるところ申し訳ないが、とりこし苦労だと思うよ。

 

 ゴブリンたちの方を見れば、お互いにハイタッチした後、中央の一体が他の個体に囲まれ、背中をバシバシ叩かれていた。

 中央の個体は指を鼻に当て、照れくさそうにこすっている。

 いや、お前の力じゃないからね?こっちの自滅よ、自滅。

 てか、やけに人間くさいな、ゴブリン。



 お互いに相手の出方を窺っているのか、しばしの硬直状態になる。


 ふいに、ズボンの裾が引っ張られる感覚があり、見ればばぁちゃんがすぐ傍にいた。

 そうだ、ばぁちゃんに倒してもらうのはどうだろう?

 相手を変に過剰評価してる現状だと、ゴブリン相手に高火力魔法をぶっ放して、大惨事になりかねない。


 『ばぁちゃん、あのゴブリンたち倒せない?』

 『もっちゃん駄目だよぉ、カエルさんをいじめちゃ』

 『いや、カエルじゃなくてゴブリンだよ』

 『ばっちゃねぇ、あのカエルさんたち、テキサスミドリヒキガエルだと思うの』

 『テキサス……何?』

 『テキサスミドリヒキガエルだよぉ。特定外来生物のテキサスヒキガエルと違ってね、未判定外来生物なの。だからね、むやみに殺しちゃダメ』 

 『だから、カエルじゃなくてゴブリンだよ。そもそも、ここ異世界だから』

 『むやみな殺生は駄目だよぉ』


 ……これ駄目かもな。

 ばぁちゃん、動物好きだし、無益な殺生に抵抗があるようだ。


 もしかして、これ、対魔族以外だと役に立たないんじゃ……。

 いや、キマイラの時みたいに俺がピンチになれば、助けてくれるのかもしれないが……無駄に危険な目にあうのもアレだし、心配かけたくないからなぁ。


 しかし、二足歩行の人型ガエルは、最早ただの化け物じゃないだろうか。

 そんなことを考えながら、ゴブリンの方を見れば、周りにヨイショされていた個体が一歩前に出て、両手を仰ぎ長い舌を出して挑発ポーズをとっていた。


 うわっ、調子乗ってんな。


 ……そうだ!

 

 「俺ばぁちゃんが焼いたカエルの串焼き食べたいなぁ」

 

“スパパパパパッァアーンッッ!!”

 

 ものすごい風圧を感じたと思ったら、次の瞬間には宙を舞うゴブリンたち。

 少し遅れて、櫓がミシミシと音を立てて崩れ去る。

 モウモウと立ち込める砂埃。

 

 砂埃が晴れたとき、そこには笑顔のばぁちゃんがいた。


 『お夕飯はバーベキューにしようかねぇ』



 「あはははは、騙されたって?言ったはずだよ今日はフレンチだって。フランスじゃ食材として結構メジャーなのさ。ほら、このレシピ通りに調理しておくれ。何、よく言うだろう、鶏ササミみたいな味だって。きっと悪くないさ。でも、本当は冷凍物じゃなくて、新鮮な物の方がいいんだけどね。ちなみに、これはウシガエルの肉だけど……」

 

 嘘つきめ……とれたて新鮮なのに、全然美味しくないじゃないか。

 噛めば噛むほど口に広がる刺激臭に思わず涙目になりながら、カエル肉、いや、ゴブリン肉を頬張り、無理やり飲み込む。

 こんなもんかと思ったあの時のカエル肉は、今思えばご馳走だったな。

 

 ゴブリンたちの櫓を薪としてメラメラと燃える焚き火。

 その光が周りにいる人間の顔を照らすが、表情は皆暗い。

 

 皆が囲む焚き火の中では、串刺しにされたゴブリンが4体火あぶりにされており、中々に猟奇的な光景になっている。


 『まだまだおかわりあるよぉ。皆若いんだからたぁんとお食べ』

 ばぁちゃんはそう言うと、手頃な距離のゴブリンを引き寄せ、キマイラの爪で肉を削ぎ、シフォンのお皿に載せる。

 シフォンは恨めしそうにこちらを睨むが、俺も自分の皿の上の異物を平らげるのに必死なので知らない振りをする。


 そう、ばぁちゃんの宣言通り、今夜はバーベキューをする運びとなった。

 具材はゴブリンオンリー!


 勿論ばぁちゃん十八番の丸焼きだ。しかも、シュラスコ方式。

 絵面が絵面だけに、これをバーベキューと言い張るのは(いささ)躊躇(ためら)いがあるものの、ばぁちゃんがバーベキューと言うのだからバーベキューなのだ。


 しかし、こんなに箸が進まないバーベキューというのも初めてだ。


 神官のメープルが何も言わないので、人型だから口にするのは禁忌とかいうわけでもないだろうが……この味もそうだし、周りの反応からして好き好んで食べるものではないみたいだな。


 まぁ、皆には悪いが、頑張って食べてもらおう。

 無駄に殺したとなるとばぁちゃんが気に病むからね、命に感謝していただきましょう。



 ちなみに、今のところ、一番食べているのは御者さんだ。

 

 そう、御者さんだ。

 

 実はヒポの背中についてたティピーみたいなのが、御者さんだったのだ。

 バーベキューが始まったら、ティピーが独りでに降りてこちらに近寄って来た時は心底驚いたものだ。


 御者さんは食事中でもティピーを纏ったままのようで、今もゴブリンが丸々一匹ズルズルとティピーの切れ目から引き摺りこまれていた。

 そのまま、ゴブリンはすっぽりと吸い込まれたが、咀嚼音などがまるでしない。

 ……まさか丸のみか?これは本当に人間なのだろうか。


 訝しみながら御者さんを見ていると、何だかこちらに訴えかけている気がした。


 「えぇっと、御者さん、もっと食べます?」

 返事はないが、なんとなく頷いた気がした……いや、これは言ったろ!


 『ばぁちゃん、御者さんがおかわりだって!』

 『たぁんとお食べ』

 いつの間にか串刺しゴブリンを引き抜いていたばぁちゃんは、ティピーの切れ目から思い切りゴブリンをブッ刺した。


 勢いよくブッ刺したせいか、広がる切れ目。

 ティピーは少しめくれ、そこから露わになる中性的な顔。

 ハイライトのない薄い緑色の目と、濃い緑色の床まで届きそうな長い髪。


 しかし、何より目を引くのは、半透明の顔!


 そして、串刺しのゴブリンをスルスルと飲み込んでいく。


 途中でティピーがめくれているのに気づいたようで、同じく半透明の手がティピーの中から伸びてきて、そっと切れ目を閉じる。


 「……えぇっと、御者さんの種族って」

 「チトセ。鞭毛虫人(ケルコゾア)族」

 抑揚のない、細い声で御者さんが答える。


 出たよ!鞭毛虫人族!!


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