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さすがは我らがご先祖様だぜ!

 まだ人がいなかった原初の世界。


 そこでは様々な獣が暮らしていました。


 あるとき、神は2頭の獣を呼び出し、こう言いました。


 この種を植え、樹を育て、そして、守りなさい。


 葉が茂ればそれを食べ、実が生ればそれを齧りなさい。


 葉を食べれば知恵と言語を得るでしょう。


 実を齧れば魔力と貌を得るでしょう。


 さらに神はこう続けました。


 他の獣にも葉や実を与え、仲間をふやしなさい。


 そして、王となって仲間を率い、相手の王をたおすようにと告げました。


 このときに呼ばれた2頭の獣こそ、万人族と魔族の祖先だったのです。


 祖先は自分たちの住処に種をもち帰り、樹を育てました。


 やがて葉が茂り実が生ると、近しい者たちに分け与えました。


 そして獣は人となり、万人族と魔族の陣営に分かれ、長い長い争いを始めたのです。



 「まっ……こんなとこだな」

 相変わらず顔に見合わない惚れ惚れするような美声で、メープルは語り終えた。


 今俺は幌馬車の中で、この世界の成り立ちを聞いている。


 「ちなみに、食べると言語を得ることから、(こと)の葉。実のほうは、食べると神の姿に近づくことから真実(しんじつ)現実(うつしみ)、魔法が使えるようになるから(マナ)の実なんて呼ばれ方もするな」


 「……もしかしてその真実を食べないと魔法使えないのか?」

 「あぁ、そうだぜ」

 「まじか!?俺食ってないんだけど?」

 「自分じゃなく祖先が食べてたら大丈夫。真実を食べたら人の貌になるから、餅太朗の祖先は食べてるはずだぜ」

 「なら、いいんだが。そうか、だから獣人とか人みたいな見た目してるのか」

 「そういうこと」

 「もしかして、クッキーの見た目が魔族に近いのって」

 「あぁ、先祖が魔樹の実を食べたんだろうな」

 「なるほど……どちらの樹の実を食べたかによって、形状に差が出るのか」

 考えてみれば、シフォンは申し訳程度にケモ耳が生えている程度で、肌の色といい、ほぼ人と変わらない容姿をしている。

 一方で、魔族やクッキー、ミントさんは手がやけに長いし、元となった昆虫の体色をしている。

 これはつまり、祖先が食べた実の種類によるものなのだろう。


 「まっ、遠い過去の話だからな。今では色々な種族が混ざりに混ざってるから、あてにゃならんぜ」

 「ふーん、じゃあ他種族との交配で、新しい種族が生まれたりするんだ」

 「うーん、大昔はそうだったらしいけど、今は基本親のどちらかの種族で生まれるな」

 「万人族と犬人族の間の子はそのどちらかってことか?」

 「そういうこと。体の一部が犬人族の万人族とか生まれることもあるが、大体は次の世代には受け継がれない、個人の性質で終わるな。シフォンの首まわりとかもそれだぜ」

 「おい、余計なことを言うな!」

 不貞寝しているシフォンからお叱りが入る。

 シフォンの首まわりを見れば、豊かなフサフサの毛を湛えている。 

 やはり、親はポメラニアンなのだろうか。



 と、ここまでがこの世界の話だ。

 メープルにお礼を言った後、目を瞑り、頭の中に語りかける。


 女神さま、世界の成り立ちについて、メープルから聞きましたよ。

 

 《ご苦労様でした。では、地球での話をしましょう。ちなみに、さっきの話は少し誤りがありますね》


 誤りですか?


 《えぇ。種を渡す前に、サンプルとして葉と実がセットになったものを万族と魔族の祖先に渡しています。獣に言葉は通じませんからね》


 あぁ、なるほど。でも、それって重要なことですか?


 《地球の場合だと重要でしたね。万族の祖先は真っ先にサンプルを食べ、人の貌になり、言葉と知恵を得ました。すると、知恵を得たことで、万族の祖先は考えました。今このタイミングで魔族の種やサンプルを奪ってしまえばいいではないか……と》

 

 ……ご先祖様?


 《万族の祖先は魔族の祖先に拳を振り下ろして殺害し、神に問いました。魔族側のサンプルも食べるとどうなるかと。神は言いました。脆弱な人の子では二種の力に耐えられずに死んでしまうと。それを聞いた万族の祖先は魔族側のサンプルと種を燃やしてしまいました》


 ……ご先祖さま!?


 《そして、万樹の種を植え、己に近しい極々一部の者にだけ葉と実を分け与え、自身は万族の王となりました。さらに、他の動物が力をもつことを恐れてか、万樹も自らの手で燃やしてしまったのです》


 ご先祖様!!


 《しかし、万族の王にも誤算がありました。樹が死ぬとき王も死ぬ。万樹が燃え尽きた時、万族の王もまた死を迎えたのです》


 ご先祖様……。


 《そして、もう一つ誤算がありました。なんと魔樹はまだ死んでいなかったのです。そう、種の状態では燃やされてもまだ生きていたのです。こうして、地球のシナリオは魔樹、魔族陣営の勝利で終わりました……こんなところですね》



 えぇっと、それってつまり……自滅ですか?


 《そういうことですね。まったく始まる前に負けるとは前代未聞ですよ》


 いや、何と言うか、さすが地球人のご先祖様って感じですね。

 

 《なお、まだ生きていた魔樹の種は風に吹かれ、海を渡り、長い年月をかけて、とある島国に辿り着きました。そこで芽吹いた魔樹は葉をつけ、実も生らせました。そして、それを食べた者たちは魔樹を守護したのです》

 

 何の話です?

 ……あっ!島国ってもしかして。

 

 《えぇ、その島国こそ勇者餅太朗たちが暮らす日本ですね》

 

 でも、そんな話聞いたことは……

 あっ!

 魔樹の実を食べると肌の色とかは元の動物に準拠するってことは!

 ふいに思い出したのは、実家の蔵の例の壺の近くに掛けられていた掛け軸。


 《そうです、地球では妖怪と呼ばれる者たちですね》


 初代がモノノケの村で河童に会ったって本当の話だったのかよ!

 あれ、もしかして友好の証としてもらったのって。


 《あの壺の中には魔樹の葉と実が入っていました》


 そんなとんでもないものだったのかよ!!

 あれ? 

 じゃあ、あのでかいゴキブリ、魔王が飛びかかってきたのって。


 《万族から魔樹の実や葉を守ろうとしたのでしょう》


 まじか!でも何で今になって?


 《隠遁の術が解けかけていたのでは?》


 あー、あのボロボロのお札か!それでやたらゴキブリが多かったし、壺から甘い匂いがしたのか!


 《あと、私があなたを発見できたのも、魔王が魔樹の葉や実に接近していたからですよ》

 

 なんという怒涛の展開。

 まさか、実家の蔵にそんな大層なものが眠っていたとは。

 あと、河童は実在するのか。

 この分だと天狗とかも実在してそうだな。

 そして、女神さまが見てなかったら、あのまま死んでたのか。


 ……あれ!?ちょっと待てよ。

 こっちに転移する際、俺は落ちてきた壺が頭に当たって死亡した。

 あまり記憶がないが、もし壺が落下の衝撃で割れていたら……?

 漏れ出た葉と実を蔵の中のゴキブリが食べたら……?

 

 やばいんじゃないか、これ!?

 実家の蔵が大変なことになってないか!?

 

 《安心なさい。あの壺はあれしきでは割れませんし、隠遁の術を強めておきました》

 

 そうなのですか!ありがとうございます、女神さま!


 《ふふん、存分に感謝なさい》


 女神さまのおかげで何とか最悪の事態は避けられたようだ。

 でも、魔王を倒して無事に還れたら、あの壺は厳重に保管せねばいかんな。

 あの葉と実を万が一ゴキブリが口にしてしまったら、大変なことになる。


 女神さま、少し気になるんですが、地球のゴキブリが真実を口にしたら、魔法を使えるようになるんですか?


 《いえ、魔法の行使に必要な魔素が発生するためには、魔樹と万樹の双方の存在が必要なので無理ですね》


 よかった、それは一安心だ。

 あれ?つまり、この世界でも魔樹を倒してしまうと魔法が使えなくなるのですか?


 《えぇ、その通りです》


 あー、それは確かに気軽な気持ちで、魔樹を倒したら不味いですね。

 農業だったり建築だったり、この世界の人々の魔法への依存度は高そうですもんね。


 《まぁ、あくまで魔素が新たに発生しなくなるだけなので、すぐさま使えなくなるわけではありませんが。ともかく、魔樹も万樹も決して倒さないように》


 まぁ、この世界に永住するつもりなど更々ない。

 魔樹なんかには係わらず、さっさと魔王を一体倒して、元の世界に戻るべきだな。


 そのためにも、一刻も早く魔法を習得し、膨大なMPに飽かせた異世界魔法無双を始めなくては!


 女神さま、魔法ってどうやったら使えますか!?


 《おや、魔法の使い方を教わりたいというのですか?魔法少女神と名高い、この私に?》


 はい、敬虔なる信徒にその叡智をお授けください!

 

 《ふふん、仕方ないですね。特別ですよ。では、まず初めにそもそも魔法とは何なのかというところからですね。魔法とは体内の魔力を放出して触媒とし、体外の活性魔素を……》


 おぉっと、これはデジャブだぞ。

 女神さま!具体的な使い方だけをお願いします!


 《しかしですね、原理を理解しているかどうかで今後の理解度に大きく差が出ますよ?》


 えぇっと、そうだ!原理は今朝教えてもらったじゃないですか!なので、ほら、実践編でお願いします。


 《そういえば、そうですね。しかし、一日に何度も呼び出すとは、ふふん、よほど私とお話したいのですね。えぇ、痛いほどわかりますよ、その気持ち。しかし、神話のしすぎは人の子には負担が大きいので我慢ですよ、我慢》

 

 イラッとした気持ちをぐっと静める。

 

 ははは、それでどうやったら使えます?


 《もう、そんな焦ってはいけませんよ。本当に人の子はせわしない》

 

 ははは、人は寿命も気も短いもので。

 頑張れ、俺の自制心と理性。


 《仕方ありませんね。お教えしましょう》


 お願いします!



 《おなかにグッと力をこめて、バッと外へ放出するのです。わかりやすいでしょう?》


 ……。

 わー、わかりやすいなー(棒)

 でっ、でももう少し詳しくお願いできませんか?ほら、魔法がない世界の出ですので。


 《そうですね……グッと力を入れる時は、こう、グインと捻りを加えるといいですよ》


 ……。

 あー、なるほど、グインとね……参考になるなぁ。

 ただ、申し訳ありません。

 浅学な私では、女神さまの高位な教えをまだ十分に理解できないようです。

 なので、ここは、同じ低位である現地人の教えを受けてみようと思います。


 《確かに少し高度すぎたかもしれませんね。よろしいでしょう。現地人の教えを理解したならば、そのあともう一度教えて差し上げましょう》

 寛大なご配慮、心から感謝いたします。

 

 さて、そうと決まれば善は急げだ。

 

 「メープル、移動中ヒマだし魔法の使い方を教えてくれないか?」

 「魔法?いいぜ……あぁ、でも」

 メープルは馬車の奥を一瞥する。

 釣られて目をやれば、目は瞑りつつもケモ耳をピクピクさせているシフォン。


 「あー、シフォンも教えてくれないか?」

 「ふん……なぜ俺に頼む?」

 メープルはアイコンタクトで何かを伝えようとしてくる。


 「えぇっと、魔法を習うならシフォンかなって」

 「俺も魔法のことならシフォンが適任だと思うぜ」


 「……ふん、仕方ないな。だが、俺は厳しいぞ?」

 「あぁ、よろしく頼むよ!」

 すくりと立ち上がるシフォン。そのお尻はモゴモゴ動いていた。

 相変わらず、この犬は素直じゃないな。


 「いいか、魔法というのはだな、感覚を覚えるのが何より大切だ」

 「おう、具体的には?」


 「おなかにグッと力をこめて、バッと外へ放出するんだ」



 ……お前もかい!!




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