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だから3人組は嫌いなんだ

 ファンタジーの異種族といえば何が思い浮かぶだろうか。

 おそらく、まず最初に思いつくのがエルフだろう。


 俺の目の前には金色に輝く髪を後ろで纏め、民族衣装を着たエルフが一人。

 このエルフはグルグルメガネを拾ったら樹の上から降ってきたのだ。


 いやぁ、エルフに会えただけでも異世界に来た甲斐があるってもんだ。

 しかし、お約束というか期待を裏切らないというか、当たり前のように容姿端麗だ。

 先ほどメープルを隊長と呼び、隊長と呼ばれていたので同格なのだろうか。

 あんなキレイな隊長さんと一緒に仕事できるなんて、何てうらやましい。

 人形のように整った顔をまじまじと見つめる。


 「へへ、驚いたろ?見惚れちまったか?」

 メープルがニヤリとしながら聞いてくる。少しは声量を抑えて欲しいものだ。

 

 「確かにキレイな人だな。やっぱ森人族って皆こんなに綺麗なのか?」

 ちょっとこっ恥ずかしいが、ここは素直に肯定しておく。

 

 「あぁ、森人族が美男美女揃いってのは有名な話だからな。でも、その中でも別格だと俺は思うぜ!まっ、他の森人族に会ったことないんだけどよ」

 この世界でもエルフというのは珍しい種族っぽいな。

 早々に出会えたのは幸先が良いのではなかろうか。


 「コホン……そのメガネをもらえるだろうか?」

 「はっ、はい。どうぞ」

 咳払いをした隊長さんが近づいてきて、俺の手にあるメガネをつまみ上げる。

 近くで見ると、肌白っ!まつげ長っ!

 それに何だか甘い香りがする……いや、違うこれ俺の服についた羊羹のにおいだ。


 そして、隊長さんはメガネをスチャリと装着する。


 端正な小顔を覆い隠すグルグルメガネ。


 ……うん、台無しだよ。


 しかも、メガネはカタリと斜めにずり落ちる。

 ……まぁ、これは俺のせいだが。


 「すみません、俺が踏んでしまったばかりに」

 「……何、気にするな。問題なく見えている」

 隊長さんは片手でメガネを整えるが、またすぐにメガネは傾く。


 「本当に大丈夫ですか?もしあれでしたら弁償しますので」

 「いや、大丈夫だ。……ところで貴殿は?兵士ではないようだが」

 

 「隊長、実は今朝の巡回中に魔族と会敵しまして。戦闘になったのですが、その際に助太刀してもらったんです」

 「何っ!?場所は?」

 「第二伐採所です。規模は3分隊程度でした」

 「3分隊……了解した。よく無事に帰ってきてくれた。急ぎ兵を派遣しよう」

 「敵は殲滅したのでその必要ありません」

 「ほう、3分隊を殲滅……シュギノー隊員の調子が良かったのか?」

 「いえ、半分以上はあちらの千代子殿が」

 「あの老婦人が?」

 「えぇ、それはそれは目覚ましい活躍でしたよ。」

 「ふむ、それは凄いな」

 「それで助けられた礼も兼ねて、砦にお招きした次第です」

 「……はぁ、莫迦者が。こっちへ来い」

 隊長さんに耳を引っ張られ、メープルが連れていかれた。その顔はどことなく嬉しそうだ。


 「いくら恩人とはいえ、ここに連れてくる前に一報入れぬか」

 「この時間だと、いつも隊長はまだ日光浴中じゃないっすか。探したけど見つからなかったんすよ。いやぁ、今日はここに居たんすね。あっ、門番には話を通しときましたよ。」

 「分隊を同時に相手どれるような傑物なのだろう?敵だったらどうするつもりだ」

 「魔族と敵対してましたし、それはないでしょう。見るからに万人族ですし」

 「むっ、確かにそれもそうか。だが、スパイという可能性も」

 「魔族に万人族が協力する?ありえないでしょう」

 「しかし、例えば家族を人質にとられたとか」

 「奴らがそんな真似しますかねぇ。それに人質をとられたとしても、あの強さがあれば自力で何とかするでしょう」

 「むっ、むぅ」

 「ここは変に疑わず、素直に招き入れた方がいいと思いますけどね」

 「……そうだな。だが念のため、砦に滞在中は目を離さないように」

 「へい、隊長殿のご命令とあらば」

 「それと、何度も言うが、今や私は貴様の隊の隊長ではない。ノエル砦長と呼ぶように」

 「俺にとっちゃいつまでもあなたが隊長ですよ」

 

 ……。

 コソコソ話をしているつもりなのだろうが、丸聞こえだ。

 メープルはともかく、隊長さんも感情が昂ると声が大きくなるタイプなのだろうか。

 そんなことを考えていると、二人が並んでやってきた。

 

 「コホン……お待たせして申し訳ない。申し遅れましたが、私はノエルと申します。何でも部下の危機を助けて頂いたとか。砦を預かる身としてお礼申し上げます。見てのとおり無骨な軍事施設故、大した御持て成しもできませんが、是非招聘させていただきたい」

 「お心遣い感謝致します。俺は御手洗餅太朗です。こっちは祖母の千代子。こちらこそ道に迷っていたところを、そちらのメープルさんたちに道案内してもらい助かりました」

 「……それはそれは。では、案内いたします」

 

 ばぁちゃんを背負い、メープルを殿(しんがり)に隊長さんと並んで砦までの道をゆく。

 砦は丘の上に建っているため、段々と上り坂になってきた。

 これは巡回するだけでもいい運動になりそうだと、どうでもいいことを思う。

 

 砦に近づくにつれ、度々兵士ともすれ違うようになる。

 皆、訝し気にこちらを見るが、隣の砦長さんに気がつくと急いで会釈をする。

 中には意味深な視線を送ってくる者もいたが、概ねはよい感情を抱いているようだった。

 

 「慕われているのですね」

 「隊長は凄いんだぜ!何せ外様部隊の隊長だったのに、功績をあげて今や砦長だ」

 

 「メープル隊長、客人の前だ。あまり誇張してくれるな」

 「いやいや、ご謙遜を。半年前の追討戦は今や語り草ですよ。魔王軍が突如全軍撤退した際、上層部含め俺らは混乱したり、罠を疑っていたのに、隊長は単騎で追いかけ、遂には暗黒四天王の一人を討ち取った」

 「はぁ、そりゃあ凄い!」

 四天王とかいるのか……てかネーミングよ。

 

 「我ながら無謀だったと反省してるよ。後から将軍にもお叱りを受けてしまったしな」

 「いやぁ、あの時は心底ビックリしましたよ。隊員に何も告げずに一人で行ってしまうんだから」

 「すまなかった。一瞬の好機を逃したくなくてな」

 「無事に帰ってこられたから良かったものの、勘弁してくださいよ、全く。まっ、シフォンなんかは、乗り損ねたと悔しがってましたけどね」

 「ふふ、その光景は想像に易いな。ところでメイ隊員とペパー隊員はどうだ?上手くやれているか?」

 「それが、隊長聞いてくださいよ。クッキーはよく働いてくれていますが、ミントは全然駄目っすね。今朝の巡回が遅れたのもあいつが……」


 ……。

 いやいや、マジか君たち。

 客人を放りだして、こちらに通じない話をしだす二人。

 布陣も隊長さんが下がってメープルと並び、ばぁちゃんを背負った俺が先頭。

 

 客人に先導させるのはどうかと思うな、俺は。

 いいけどね!もう城門見えてきたし!

 いいけどね!こういうの慣れてるし!

 でも、後ろから聞こえる笑い声が胸に来る。

 

 するとこちらの心情を察したのか、ばぁちゃんが背中をポンポンと優しく叩く。

 やめて、ばぁちゃん。今それされると涙が出ちゃう。


 居たたまれぬ空気を肌でヒシヒシと感じながら、城門までたどり着く。

 門前にはシフォンとクッキーが佇んでいた。


 「おい、遅いじゃないか!何をし……泣いているのか?」

 「泣いてない!」

 「そうか……ふむ、砦長と一緒だったのか」

 「ばぁちゃんが砦長さんのリボンを見つけてさ。いやぁ、エルフなんて初めて見たよ」


 「エる……?」

 「クッキーには難しかったか。森人族の古い呼称だ。お前はよく知ってたな」

 「ああ、まぁね……」


 「しかしながら、御手洗殿は若いのに、随分と格式高い言い回しを好まれるのだな。その恰好もこの辺りでは見たことがない。失礼ながら、どちらのご出身で?」

 ふいに後ろから砦長さんに尋ねられる。

 

 「えぇっと、遠くの辺境の地です」

 「……なるほど。つかぬことをお聞きしますが、もしや東方ではないですか?」

 「……どうしてそう思われたのでしょうか?」

 「昔、同じような言い回しをされる旅人とお会いしたことがあるのですよ」

 「あー……まぁ、そんなところです」

 「やはりそうでしたか。ところで、靴紐が解けているようですよ」

 「あれ?本当だ」

 そう言われ、見てみれば確かに両方の靴の紐が解けていた。

 おかしいな、さっきまで解けてなかったのに。

 「東方と比べるとこちらは暑いでしょう?」

 「いや、まぁそうですね」

 「随分と遠くからのようですし、お婆様を連れられての旅は大変では?」

 「まぁ、慣れましたね」

 

 矢継早に質問してくる砦長さんの会話に適当に返しつつ、靴紐を結び直そうとするが、何故かツルツル滑って結びにくい。

 まるで何か見えない力で引っ張られているかのようだ。

 

 「()()()()()()()()()()()?」

 「()()()?」

 言われるがまま靴の裏を見ると、何か違和感を感じる。

 

 目を凝らせば、靴底の溝の中で空気が渦巻いているのが見えた!

 「()()()()()()()()!?」

 

 そう言った瞬間、空気が凍り付くのを感じた。

 異変に気づき、周りを見渡せば、メープルとシフォンが驚愕の表情を浮かべている。

 どうした?この渦巻きやばいやつなのか?それとも、何か変なこと言ったか?

 

 「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 そして、この場にそぐわぬ、暢気なクッキーの声。

 しかし、すぐに違和感に気づく。

 

 クッキーが片言ではないのだ。

 

 そして、次の瞬間……俺の首元には細剣が宛がわれていた。

 剣の先には美しきエルフ。ずれたメガネの隙間から凍えるほど冷たい眼が覗く。

 

 「何かしらの反応があればと思ったが、魔語を解し靴底を見たばかりか、よもや魔語で返事を寄越してくるとは……貴様、何者だ?」

 

 ……あっ、これやばいかも。

 絶体絶命のピンチってやつだ。



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