「愛してる」って伝える事
廻が、裕二さんと出かけてる間…私は裕二さんのライブハウスでエレキベースのチューニングを施していた。その場には小夏ちゃんと裕二さんのお兄さん…翔さんが居てくれていた。翔さんは、今現在ギタリストとして活動しつつ…このライブハウスを経営しており…私達の練習の場を設けて下さり…かつメンバー全員に助言してくださる方だったりする。
「錦山さん…だったけ?エレキベースのチューニング…終わったよ。コレで癖のある弾き方をしても…変な音は出ないはずだ。」
チューニングを、施してくださっていたのも…翔さんで…私達「TheApplehuman」のメンバー全員が使っている楽器の事で知らない事は無いみたいな方だった。
「チューニング…ありがとうございます。」
私がそう言い…エレキベースを爪弾き…音を確認する。そうしている間に…翔さんは小夏ちゃんを呼んで、小夏ちゃんの使っているアコースティックギターのチューニングを始めた。
「小夏さん。次は小夏さんのギターのチューニングやるから来て。」
名前を呼ばれた小夏ちゃんは返事をして…翔さんのいるステージ奥へ足を運んだ。
「はーーーーい!」
トコトコ…とそんな効果音を付けたくなるような歩き方で、小夏ちゃんが客席側から離れて行く。そうして客席側に誰も居なくなったタイミングで私は、ある音程をベースで爪弾いていた。その音程を聞く度…私は祐の事を思い出してしまう。
あれは祐が自殺でこの世を去る…一ヶ月前のことだった。祐の家で遊んでいて…夕方の夕焼けを眺めていた時だ。祐がエレキベースのチューニングをしながら私にこんな夢を語った。
「もしさ…これで…バンドで金稼げるようになったら……俺は琴葉と人生を共にしたいんだよな。その為にはめっちゃ頑張んなきゃな!」
そんな学生時代特有の…夢と希望に溢れた言葉を聞いて私は、笑ってこんな言葉を返す。
「もう!恥ずかしいじゃん。でも…嬉しい。ありがとうね!あっでも…無理はしない事!良い?」
と…よくこんなやり取りをして過ごしていた。このまま私は祐と…運命を共にすると思っていた。でもその前に、祐は旅立った…しかも自殺で。あの時の後悔は今でも過ぎる「愛してる」って伝えなかった自分を今でも責めてしまうものだ。
そんな思い出を思い出しながら、しっかりチューニングがされてるかどうかのテストの為にこの音程を鳴らしていた。弾き終わると…辺りを静寂が包み込む。
「今度ばかりは失いたくない…だから……でも…」
と、そんな言葉を零し…エレキベースをスタンドに戻そうとしたその時だった。
「確か君が祐介君の彼女だった子なのかな?」
その言葉が、聞こえた方に目を向けると…そこには小夏ちゃんのアコースティックギターのチューニングを終えたであろう…翔さんが、腕を胸の前で組んで立ちながら私の事を見ていた。
「ええ…何か用でも?私は彼を…祐を止める事が出来なかった…そんな人間ですよ?ホントは……こんな事していて良いのか…そんな事も思ってます。」
そんな言葉が、自然と口から零れると…翔さんはこう言葉を出していた。まるで私の事を…全て見ているかのように。
「別にいてもいいと思うし…そんなんで君を責め立てる人はいない。後…今君は、人に恋している。そうじゃないのか?ただ…その人との時間は残りわずか…だから今考えているのだろう?」
誰にも言っていない事を私は…バンドメンバーの1人のお兄さんに悟られてしまっていた。
「………………。」
私はそれに答えることが、出来なくて…無言しか返すものがなくて…それなのに翔さんはまるで確信をもったかのようにこんな言葉を口にした。
「無言になる…という事は恐らく「図星」をつかれたんだろうな…すまないね。でも…立ち止まったまんまだと何も進まない。何も変えられない。だから進むしかない。……「愛してる」って言葉は伝えるのに一苦労だ気持ちは分かる。」
その助言に…私、は口を震わせながら一つ言葉を絞り出した。それを言い終わるまで…翔さんは静かに聞いてくれていた。
「そう…です…ね。悩んでるんです。……私が愛して…恋した人は何故……離れてしまうのか…「嫌いになった」とか「価値観が合わなくなった」とかじゃなくて……何も言わず…ひっそりと…消えていくのか…って変な悩み事ですよね…ほんとすいません。」
私の口から出た言葉に翔さんは私の手を握り…こんな言葉をかけてくれた。その言葉は何処か暖かく…冷たく…儚く…寂しかった。
「運命は変えられる。けど宿命は変えられない。錦山さん…恐らくだけど…君の最初の恋は「運命」だ。誰かが気づいてあげられれば…変わっていたんだろうね。でも今の恋は…違う…「宿命」だ。だから…今の君の恋の行く末は変えられない。……だけどね…俺は恋をした事が無いから曖昧な事しか言えないけど…「宿命」でも恐らくその行く末は…きっと悲しいだけじゃ無いはずだ。だから…受け入れるのも一つの手なんじゃないのかな?」
私はその言葉に無言を返すしか出来なかった。それでも翔さんはこう続ける。
「やる後悔…それよりもやらない後悔…これが後から来るもんでさ…裕二もそれで苦しい思いをしていたんだ。そんな…馬鹿な弟を持った兄の小話だけど……君がいましている恋は…消して「悲しいだけじゃ終わらない恋」になるんじゃないのかな…って俺は思うね。」
私はその言葉で少し前を向く事にした。色々不安もある。でも…前を向いて歩かないと…祐に後で言われるだろうな…と心に思いながら聞いていたのだ。
「……「何してんだ?前向いて歩けよ!」ってか……ほんと……私の周りは…前しか見ない馬鹿しかいないんだね。」
「ん?どうしたんだい?ボソッてなんか言った時がしたけど?」
私は少し吹っ切れた顔をしていたのだろう。翔さんは何かに気が付いた様な…どこかで何かを悟った顔で私を見ていた。
「すいません…やりたい事を…本当にやりたかった…伝えたい事をある人に伝えたいので…それの準備してきます。」
そう言って私は立ち上がり…ライブハウスを後にしようとする。その時…翔さんがこう呼び止め…私にこんなエールを送っていた。
「おい……若い子よ。頑張れよ。」
「はいっ!頑張ります!」
そのエールにそう言葉を残し…私はライブハウスを出た。そうして…帰る道中夕焼けを見ていた。その夕焼けは今の私の目には…染みて見えた。
「伝えなきゃな…頑張ってさ…頑張ろう。」




