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林檎の実と僕の後悔  作者: 穂先ロア
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空の青と私の笑顔

「…もう一度聞くぞ?ボーカルやるか…やらないか…どっちだ?お前がこっそりTHE YELLOW MONKEYの曲のためにボイトレしている事を知っているうえでこの提案をしてる事を頭に入れて欲しい。」

そう廻に言われて私は固まってしまっていた。何故固まるのか…その理由は廻の言う通りメンバーの誰にも言わず一人でボイトレをしていたからだ。理由はもちろんある。恐らく廻や他のメンバーに言ってしまうと…全員でやる練習の時間が減ってしまうと思ったからだった。でも…廻はそれを知っていてボイトレをしていた私を見て思うところがあったのだろう。

「その話は嬉しいよ…でもそれじゃ…皆の練習時間が減っちゃうんじゃ…」

そう言いかけた時廻は、口に指を添えた直後私にこんな事を言ってきた。

「…いやアイツらは多分やってくれると思うよ。だって…もうお前は「TheApplehuman」のベーシストなんだからさ…それに…セッションだけなら僕も協力する。だから…THEYELLOWMONKEYの時だけ…ベースとボーカルを兼用しないか?」

そう真剣な顔で提案した廻の期待に私は応えられるだろうか…その言葉が頭に入ろうとした時一つだけ祐との会話を思い出した。それはまだ私達が十六歳の時…祐がまだ生きていた時のことだ。私が祐の為に…ともう一つお弁当を作ってきた時…彼はこう言って笑っていた。「誰かが支えてくれるから上手くやっていけてる…」と。

「…「誰かが支えてくれるから上手くやっていけてる」か…ねぇ?廻?」

私は一つだけ決意をして…廻にこんな事を言う。まるで何かを決めたかのように。その瞳と表情を見て廻も何かを察したのだろう私の言葉を無言で聞いてくれていた。

「もし…廻の提案にのって誰かの支えになれたなら…それって凄いことなのかな?」

私のその言葉に隣に居た廻はため息のようなものをつき…空を見上げる。その顔は何時の廻もより少し明るかった。

「…ああ…凄い事だよ。」

そんな言葉を聞いた私は振り向き…練習部屋へ戻ろうとする。でも途中で立ち止まり…振り向かず廻にこんな言葉を告げていた。

「やってみるよ。ボーカルもさ…だって…凄い事なんだから。」


その話が終わり…ようやく練習時間となった。別に自信があるわけじゃないが…私も一応ボーカルをやる事にしたのだ。今後もボイトレやら演奏やら…課題は色々ある。

「それじゃ始めんぞ!」

廻のその言葉がこのバンドの練習時間の始まりを意味し…私達は演奏を始めていた。何時もなら廻がボーカルを務める曲ばかりだ。だが…この日だけは何時もとは違う練習時間だった。昼休みの前にもう一回私達は演奏する…と思いきや廻がいきなりこんな事を言い出した。

「よし!じゃ午前中のラスト…と行きたいところだが…次の演奏はボーカルを琴葉に任せたい。なんでも良い…お前の好きな曲演奏するから…。」

そう言った後私以外のメンバーは、いつも通りの様に演奏準備を始める。そうして私だけが戸惑っていると廻は私にこんな事を言ってきた。

「大丈夫だ…琴葉お前なら出来る。」

そうして全員の準備が終わると私達はあるバンドの歌の演奏を始めた。すると廻のエレキギターの音の後に私のベースと裕二さんのドラムの音が部屋に響き渡る。まるで私がなんの曲の演奏をしたいか…最初から知っていたかのように。そして…私の歌声は部屋に響き渡るように聞こえ始めてきた。

「回るジェットコースターに乗りながら。Baby君の手を握りたい。その後でちょっと乱れるくらい。くちびる奪いたい。」

私が好きな曲…それは祐が良く口ずさんでた歌だ。何時だっただろう…こんな事を生前の祐に聞いた事がある。

「ねぇ?祐?その曲お気に入りなの?」

そんな私の質問に空を見上げ祐はこう答えた。

「ん?ああ。だってよ…あの空の青とお前の笑顔は…同じ位綺麗だからさ。」

そんな思い出に浸かりながら私は歌を歌い続ける。まるで水に顔を浸したかのような冷たい風を受けながら…。

「神様がどんな顔だろうと。僕には関係ない。決まり過ぎた約束は。あの世に葬りたい。」

ベースの音を乱す事も無く…私は歌う。今良く聞いていた歌を。彼が…祐が良く歌っていた歌を。

「あの空はどこに続くのかな。」

祐が空の青と同じ位綺麗と言ってくれた笑顔を浮かべ…歌を歌い続けながらベースを弾いた。廻が私に託した…祐のベースで音を奏でながら。

「いやな奴の顔にめがけて。ツバをかけてみたい。被害妄想の僕の歌を。君にも聞かせたい。」

そうして…音を奏でるスピードを調整しながら歌を歌い続ける。そう…この後がこの曲の盛り上がりなのだから。

「魂が虹のトンネルをハイスピードで。駆け抜けてゆくのさ。」

泣きそうなる気持ちを意地でも押し殺し…私は盛り上がる所を歌い始めた。そのせいかその声は…どこか震えていた。

「Blue sky and true mind。空を自由に飛びたい。白と黒の羽を伸ばして。雲を切りながら。」

ようやくここまで歌えたと思うと安堵感が私を包む。だが問題はここからだった。ここからこの曲は英語が入るのは分かっている…が私は英語なんて喋るのもおろか歌うことさえ出来ない。どうするべきか…と頭の中で考えを巡らせるとほぼ同時…私の隣から…歌声が聞こえた。私は英語パートの所を歌っている人物わ見て目を丸くした。だって歌っていたのは…廻だったのだから。

「"Now Im flying in the sky like a bird. The big buildings l see everyday are much smaller now. In The sky theres nothing in my way. Nothing. And l feel fine."」

何故廻はこのパートを歌えたのだろうか?…何故なら廻は…英語で歌を歌えないのだから。


午前最後の演奏が終わり各々休憩時間となった。私はすぐに廻にこんな質問を問いかける。

「ねぇ?廻?いつの間に英語歌詞歌えるようになったの?」

そんな私の質問に廻はバルコニーに移動しながら、何時ものような声色とぶっきらぼうな表情でこう答えを返してきた。

「歌えないと思ったろ?残念だが…歌えるんだよ。」

そう言いスタスタとバルコニーへ向かって足を進めた。その後ろ姿を見守るように見ていると…裕二さんと恭太郎さんはクスクスと笑い始める。

「なにかありましたか?」

そう聞くと…恭太郎さんがシルクハットを被りながら…私に優しく言葉をかける。その言葉に私は驚くことしか出来なかった。

「あぁ…すまない。実は…本当は…廻は英語歌詞歌えない人なんだ。」

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