君が来る時は…よく林檎の匂いがする
あの日…つまり裕二と恭太郎と喧嘩…というか言い争いか…それから一週間たっていた。考えても考えても…僕には答えが出なかった。バンドをやりたい。そんなちっぽけな、僕の夢は当時大きい夢でひとつの希望だったはずだ。そのためにギターを買った。そのために弾き語りもした。なのに…祐介が死んで…僕自身もあと僅かで死ぬ。もうそんな絶望的状況なのに…今更夢を叶えたいとは思わなかった。
「…辞めた方が良いのかな?僕は後僅かなのに…何も出来ないまま…死ぬのかな…あーあ僕の周りが明るかったらな」
僕はそんな文句を言いながら夕焼けに照らされた天井を見上げていた。ギターの絃をつま引きながらまた一言誰もいない自室に言葉をもらした。
「ホント…後悔だらけだよ…僕の人生は…いや…僕自身が」
そう言いコンポをかける。懐かしい曲が流れてきた。高校入試の時によく聴いていた。この曲を聞いているとやたらと前を向きたくなるものだったが…今の僕には関係ない。ピアノからエレキギターに変わる場面は…当時僕の心を刺激させていた。
「ここは天国じゃないんだかといって地獄でもない。いいやつばかりじゃないけど悪い奴ばかりでもない。」
僕は聞きながらいつの間にか瞳を閉じて…思い出に浸っていた。
「ロマッチックな星空にあなたを抱きしめていたい。南風に吹かれながらシュールな夢を見ていたい」
思い出に浸り続けていても…平等に残酷に時間はすぎていく。コンポから曲が流れ終わると僕は、閉じていた瞳を開けて溜息をついた後にまた考えた。でも…そんなに考える暇もないのかもな。下から林檎の匂いがする琴葉が来た証だ。
「入るよ!あ!なーんだいるじゃん!」
うるさいヤツが入って来たなそう思った。でも林檎の匂いがしたとゆうことは、僕にとって嬉しい限りだった。
「はい!差し入れ!アップルパイ!」
そうこれだ。僕はこのアップルパイを、食べながらバンド活動するのが好きだった。僕は礼を言い合掌した後に、琴葉特製アップルパイを口にする。いつもは無言なのだが…今日の琴葉はいつもより違った。
「懐かしい…祐も…廻も…そのアップルパイ好きだったもんね…」
そうだった…もうすぐ祐介の命日なのだ…僕はアップルパイを口に運ぶのを止めて言った。
「…付き合ってたもんな…君達…」
僕はそう言い琴葉の方へと体を向けまた一言声を出した。
「…祐介の事は…僕も後悔している。」
そうだ…そうじゃなきゃこんな自堕落な生活を直している。僕はそばにあった自分のギターを手に取りそう琴葉に言った。その後琴葉が言った言葉が今の僕に繋がったんだろう
「先週の…喧嘩?詳しくは聞こえなかったけど…裕二さんの言った事は正しいと思うよ…祐はさ…いなくなったけど…それでも私は祐がいたバンドの歌声を聴きたい…だって…好きな人の入ってたバンドなんだもん…幼なじみの歌声を…聞きたいから!…」
涙ぐみながら話す琴葉を見て…僕はやるせない気持ちになりながらギターを弾こうとしていた。そんな時…自分の選択に迷ってしまった時に聴いた曲が流れてきた。
「ブラウン管の向こう側カッコつけた騎兵隊が…インディアンを打ち倒した。ピカピカに光った銃で出来れば僕の憂鬱を…打ち倒して…くれれば良かったのに」
僕は…何かから逃げようとしているのかな。ギターを手に取ると…エレキベースを見ていると…反吐が出る程自分を責めたし…自分を恨んだ。僕はもうそんな思いを、してバンドを…ギターをやりたくないけど…もし…まだやり直せれるなら…やり直してみたい。そう思ってしまった。
「神様にワイロを贈り天国へのパスポートをねだるなんて本気なのか?誠実さのかけらもなく笑って居るやつが居るよ。隠している…その手を見せてみろよ」
考えているだけで流れていた時間にいつか…僕は終止符を打たなければならない。でも今の僕は出来るだろうか?僕の声とギターの音色で人を誘惑する事を。そう問おうとした時琴葉は僕にこう言った。
「THE BLUE HEARTS…廻がそれを聴いてる時は…ギターを弾きたくなった時って!祐が言ってた…から!私は……弾いて…欲しい…よ…」
そう言い琴葉は泣き崩れた。僕は申し訳ない気持ちに…潰されそうになり一分無言になった後こう言った。
「…やるよ…ギターをバンドを」
次の日職場に行き早々上司によばれた。無理もないだろう。なんせ二週間も連絡せず出勤もしなかったのだから。
「遠江君…何故二週間も音信不通だったのだね?」
言えない。だって後僅かで死ぬとか言ったら…仕事の引き継ぎ等で大変だし…退職届を出したとしても…一ヶ月後にその内容が適応される。それだと遅すぎる四年のブランクはすぐには戻せない。だから僕は無言を貫いた。
「………」
こう僕と上司の言葉の攻防戦が一時間続いた末…上司はこう言った。
「もういい…君はクビだ…」
社会人にとって有るまじき行為だが…それをしでも僕にはやりたいことがある。いや出来たと言った方が正しいか。僕は、職場に出てすぐに携帯を取り出しとある人物にこんなメールを送った。
「話したい事がある…夜今残っているメンバーで貸スタジオに集合」
さて問題は全員来るかどうかだ。なんせあんな終わらせ方をしてしまったのだから。
十時間後…
僕は既に貸スタジオに入り…呼んだ人物を待った。二人だあの二人が今僕には必要なのだろう…僕は、ギターをつま引きながら待っていると…
「ガチャ」
そんな音が響き渡る。その後僕の呼んだ人物が溜息を吐きながら入って来た。少しの愚痴を零しながら。
「んだよ…いきなり呼んでよぉ…」
「まったく…廻らしくないじゃないか」
そう言って入ってきたのは…裕二と恭太郎の二人…そう僕はこの二人としか出来ない事を…今からやる。僕はギターをつま引くのをやめ二人に
「ごめん…色々考えてさ…またバンドをやりたいから…協力してくれないか…僕には君達しか居ない」
そう言い頭を下げた。十秒経過したぐらいの時裕二は、笑いながら言ってくれた。
「言うと思ったよ…悔いの無い人生にしてぇもんな…協力するぜ。」
恭太郎は静かに笑いながら僕の肩に手をやってこう言ってくれた。
「誰しも悩みながら前へ進む…周りから見たら廻の行いは小さな一歩だけど…僕ら…いや君にとっては大きな一歩だよ…僕も協力する。」
こう言ってくれる友達がいる僕は…幸せ者なのかもしれない。その後僕達はそれぞれのパートの練習を行い…帰路に着いた。僕は帰り道に言葉を出していた。
「周りから見れば小さな一歩…僕から見れば大きな一歩」
と…




