第9話 亡者盗賊団
死んだ人間を操るという意見に眉をひそめながら、ルイーザも口を開く。
「それは無いと思うわ。もしそんな力があっても死んだ人間には意思がないから支配はできないはず。」
ゼオンは厳しい顔をしてルイーザに問う。
「操っているのは、力を増したセフィリア族の人間ということはないか?」
「ええ…実は、私もそれを心配しているの…。」
「心当たりは…?」
「そうね…。10年以上前のことだけど、セフィリア族の中で主権争いがあって、クーデターを企てた者が失敗して逃亡したの。それから彼がどうしているのか知る者はいないわ。」
「なるほど…俺と君がまだ知り合う前の話だな?」
ルイーザは頷いた。
ガルナが提案する。
「とりあえず今はこの青年の村を襲った者たちを追って、何か手がかりになりそうなことがあるか探る方がよさそうですな。」
「ああ、そうだな。」
他の者も頷いた。
すると、ガルナは咳ばらいをし自己紹介を始めた。
「それでは今一度自己紹介をさせていただく。私は元ベラルディア王国で指揮官を務めていたガルナと申す。」
ガルナがルイーザに目配せをする。
「私はルイーザ。ハイランド地方に住むセフィリア族の上級女官よ。」
隣に座っていたラルがそれに続く。
「僕は無くなっちゃったオルグ村のラル。こっちは弟のルネ。」
そして兄弟の隣に座っていたセレスも口を開く。
「やはり僕の村も無くなってしまったけど、グラダ村のセレスと言います。」
皆を見渡し最後にゼオンが言う。
「俺は元ヴァルディアス王国の王直属であった四賢者の一人、ゼオンだ。」
「これで全員ですな。」
ガルナはそう言いながら深く頷いた。
「それでは明日から作戦を開始しよう。先ずはセレスの村を襲った者たちの行方の特定からだ。」
ゼオンはそう言って話をまとめた。
―― セレスは長い金髪の美青年であった。芯が強くまじめで戦況を的確に判断できる冷静さを持っていた。父を亡くしてからは、獲物を仕留めるたび、隣に誰もいないことを一瞬だけ思い出す癖がついていた。その空白を埋めるように、セレスは黙々と矢を研ぎ独自に弓の腕を磨いてきたのである。――
暫くして、洞穴の中で毛布や敷物でそれぞれ寝床を作り横になった。
ルイーザはゼオンの近くへ横になり、囁くようにゼオンに問いかける。
「そういえば、ラルがあなたからもらった刀を使えるようになりたいから、私に教えてくれって頼んできたの。」
「そうか…。」
「私、そのとき気付いたの。女である私にだけ何故あなたが剣の使い方を教え込んだのか。」
ゼオンは黙って聞いていた。
「もし私が一人になっても、生き残れる可能性を少しでも高めて、何とか逃げられるようする為だったんじゃないかって…。」
ゼオンはルイーザを見つめた。ルイーザが目を合わせるとゼオンは何も言わず微笑んだ。
「やはり…。ありがとう。」
そう言いながらルイーザは小さく笑みを返した。
ゼオンは優しく頷いた。
暫くして眠りについたルイーザの寝息を確かめると、ゼオンは外に出てそっと焚火の傍に座った。
かつて稽古をつけていた頃は、生真面目な女性だった。だが、今こうして自分を追いかけ、側にいることを選んだ彼女を見ていると、何かが少しずつ形を変えていくのを感じていた。
それが何なのか、ゼオンにもまだ言葉にできずにいた。
翌朝、朝食を済ませるとゼオン、ガルナ、セレスは偵察に行き、ルイーザ、ラル、ルネは拠点とするこの洞穴で待機することになった。
「じゃ、行ってくる。」
ゼオンは残る三人にそう言うとそれぞれ馬に跨りガルナ、セレスと共に偵察に出かけた。
三人は先ずセレスの村へ行ってみる。
「昨日ここで手がかりを探したが何も見つからなかった。それに、この辺りは草木や落ち葉が多く足跡は追えない。セレス、何か覚えていることはないか?」
「そうですね…。」
セレスは何か情報となるものはないか暫く考え、思い出したように山の間の谷になっている方向を指差した。
「村を去って行く一団は、あの渓谷のある方向へ向かって行きました。」
「そうか。あの時の一団もラルの村を襲ったあと、渓谷のあたりに集結していた。」
ガルナが眉を寄せる。
「以前おっしゃっていた、精気の無い盗賊団のことですか。」
「ああ、そうだ。奴らは渓谷に居場所を構えようとするのかもしれない。」
「そこへ向かってみますか?」
ガルナがそう言うと三人は馬を走らせ始めた。
渓谷の辺りまで来ると三人はゆっくりと警戒しながら谷へ入っていく。
すると、ガルナが気付く。
「ん?何か燃える匂いがするな…誰か焚火でもしているのか…。」
「用心しろ…奴らかもしれない。」
ゼオンを先頭に注意深くその焚火の匂いがする方へ馬を向けた。
暫く行くと谷の一角に焚火の煙が上がるのが見えてきた。
「ん?誰かいる…。」
セレスがそう呟くと、三人は岩陰に馬を寄せ、物陰に隠れながら歩いて近づいていく。
ようやく姿が見えるところまで来るとゼオンが小声で言った。
「あいつらだ。あの精気が無い表情…間違いない。」
「どうしますか…。」
セレスの問いにゼオンは少し考える。
「一度戻ってルイーザを連れ、あの者たちの意識を探らせてみるか…。」
「セフィリア族とは確かに謎が多い。彼女にはそんなこともできるのですか。」
ガルナは少し考えるように言った。
「いや、確証はないんだ。彼女にやらせてみるまでは分からないのだが、探らせてみる価値はあるだろう。」
「分かりました。それで情報が得られるのなら願ったりですな…。では、一旦戻りますか。」
三人はゆっくり警戒しながら谷を出ると、一気に馬を走らせた。
拠点の洞穴に戻ってくるとルイーザが心配そうな表情で出迎えた。
「何か分かったの?」
「ああ、あの一団の居場所が分かった。しかし、やはり奇妙なんだ。彼らには表情も精気もない。そこで君に彼らの意識を探ってもらいたいんだが。」
「分かったわ。私も全ての人間の意識を探れるわけじゃないけど、やってみる。」
「助かる。一緒に来てくれ。」
「僕たちはどうするの?」
ラルが聞いた。
「お前たちはこの拠点を守るんだ。いいな。」
「分かった。」
この子たちだって何か役に立ちたいと思っているはずだからな…。ゼオンはそう思い、二人に拠点を守るという役割を与えた。
ルイーザはゼオンに手を貸してもらって馬に乗ると、ゼオンの後ろに跨りしっかりと背中に掴まった。四人は渓谷へ向かって再び走り出した。
渓谷に着くと、岩陰からルイーザと共に焚火を囲む一団の様子をうかがう。
ルイーザは静かに目を閉じ、彼らに意識を集中させる。
暫くして、その表情が凍りついた。
「分かるか?」
ゼオンが小さく問いかけた。
ルイーザはすぐには答えられなかった。信じられない、というように目を見開いたまま、震える声で言う。
「…嘘でしょう。彼ら…もう、生きていないわ。」
「何?」
「意識そのものが…ない。ただの器として動かされているだけ。こんなこと、あり得ないはずなのに。」




