第8話 合 流
「ルイーザ…。」
「お久しぶりです。ゼオン様…。」
ルイーザは重そうに口を開いた。
「何故、君がここに。」
「ルイーザさんもゼオンさんを追って来たんだよ。」
ラルは心配そうに言った。
「そうか、だから俺の名を…。」
ゼオンはルイーザの元へ歩み寄っていく。
「帰るんだ、ルイーザ。」
それを聞いたラルが口を挟む。
「何でだよ!ルイーザさんはゼオンさんをひたすら追って来たんだよ。追い返すなんて可哀想じゃないか!」
「ラル! いいの。」
「ルイーザ、何故俺が君を追い返すのか分かっているね。」
「ええ、分かっているわ。この旅は…危険だから。」
「その通りだ。相手はいくつもの国を亡ぼす大敵だ。君に何かあっても俺は守れないかもしれない。」
ルイーザは少し涙ぐんだ。
「分かってくれ…ルイーザ。これ以上大切な人を失いたくないんだ。」
その様子をルネが少し離れた木陰に隠れてポカンとして聞いている。
少々ませているルネは、
「なんだ…二人ともお互いに好きなんじゃないか…。」
ポツリと呟いた。
ルイーザの決心は固かった。
「分かりました。なら、戦闘時には最後尾で控えていて私は怪我をされた方を介抱し治療させていただきます。」
ゼオンは少し目を閉じて考えた。
「そうか、確かに君たちの種族にはそんな力もあったな…。その力というのは、遠くの者にも及ぶのか?」
とゼオンが問うと、ルイーザは、
「近くの者の傷を癒すだけならば。でもそれ以上のことは…。」
と言葉を濁した。
「ああ、分かっている。君たち種族は人の心も読めるんだよな…。」
ルイーザは、ゼオンが岩陰でうなされていたときの様子をふと思い出し、表情を曇らせる。
「ええ、ゼオン様ほどの方しかご存じないとは思いますが、そんな能力もあります。その見地から言わせていただければ、あの時の……あなたの悪夢。あれは、ただの夢ではなかったのかもしれません。」
ゼオンが、どういうことだ?と問うと、
「実は、あなたを追っているとき悪夢にうなされている姿をお見掛けしました。」
ゼオンはあの時、何者かの気配を感じその場を去った時のことを思い出していた。
「あの時の気配…やはり君だったのか。」
ルイーザは、そう…。と俯きながら答えて続ける。
「あなたほどの精神力の持ち主は、ときに遠く離れた強い気配を無意識に捉えてしまうことがあります。私も、あの時は確信が持てませんでしたが…。」
「ルイーザ…君はここで俺が帰れと言っても聞かないだろう。そして無理に帰らせても私を追い続けるつもりなのだろう。なら、君の提案を飲もう。」
ルイーザの表情は、ぱっと明るくなる。
「本当ですか!」
「ああ、しかし今度ばかりは俺にも君を守り切れるか分からない。だから、戦いが始まったら必ず後ろに隠れていてくれ。」
「はい、分かりました。あなたの足手まといにならぬよう配慮します。」
ゼオンは黙ってルイーザを見つめなおした。
それだけ話すと二人は木陰から出てきて焚火の周りに座る。
その姿を見てガルナと青年はハッとする。
「これは、お美しいご婦人ですな!」
ガルナが感嘆の声を上げた。
「ああ、同郷の友と言ったところだ。」
「私も、僭越ながらお手伝いさせていただきます。」
ルイーザがそう申し出ると、ガルナは困惑気味に首をかしげた。
「こんなご婦人に何ができると?」
「ガルナ、セフィリア族という名を聞いたことはないか?」
「ええ、確かハイランド地方に住む一族とか…。」
「彼女はそのセフィリア族だ。ケガや病気を治癒する能力を持つというあれだ。」
「え!これはお珍しい。あのセフィリア族のご婦人であられたとは。」
「しかし、過信はしないでいただきたいのです。私でも致命傷や重い病は治せません。」
ルイーザが静かに付け加えると、ガルナが神妙な面持ちで口を開いた。
「なるほど、限界があるということですな。ならば、致命傷は何としてでも回避しなければならんな。」
ゼオンは青年の方を見ながら、
「そうだ。手始めにこの青年の傷を治してくれないか。」
「分かりました。ちょっと拝見します。」
ルイーザは青年の元に歩み寄り、体を確認しケガの状態を診た。そして目を見つめる。
「そうですね…この程度なら私でも治せます。」
そう言うとルイーザは青年の腕を掴むと目を瞑った。
「うわ、何だ!傷がみるみる間に治っていく。それに何やら気力も漲ってきた…。」
治療が終わるとルイーザは青年の腕を離し、ゼオンの元へ戻ってきて座った。
「ありがとうございます。これで戦える!」
青年は興奮冷めやらぬという感じで、先ほどまでとは打って変わってはっきりとした口調で言った。
ゼオンが問う。
「戦うつもりなのか?」
「ええ、村を全滅させられて黙っているつもりはありません!」
「まあ、そう気張るな。」
ガルナがなだめるように言葉を挟んだ。
「だけど、こんなこと我慢できるはずありませんよ!」
ガルナは思っていた。自分は立ち向かうよりも自暴自棄になっていた。ゼオンやこの青年に比べれば全く情けないと。
「分かった。俺も手伝ってやる。」
するとゼオンが口を開く。
「まあ待て、慌てるな。相手の素性も分からずに動くのは無謀だ。」
「ええ、手伝うからには先ず相手を偵察し見極めなければ。」
「ガルナ、このあいだ俺が話したことを覚えているか。」
「はい、何かに操られているような精気のない盗賊というやつですか。」
「そうだ。それが何なのか分からないと向こうの思うツボだ。あのとき奴らは倒されても不気味に笑っていた。おそらく痛みを感じないのだろう。」
ゼオンは当時を思い出すように目を細めた。
ガルナがぽつりと呟く。
「もしかすると既に死んでいる者たちとか?」
青年が口を挟む。
「死んだ人間を操っているということ…?」




