第7話 弓の名手
「おい!大丈夫か!」
ガルナは駆け寄り、倒れている青年を抱き起こす。
「は…はい。」
青年は力なく答えた。
「何があったのだ!」
―― 青年の証言は、ルネの村と寸分違わなかった。焼け方も、若い男と子供だけという狙われ方も、何一つ盗まれていないことも。
「ルネの村と同じか…」ゼオンは咄嗟に思った。
「で、お前はどうしたのだ?」
「私は、弓で応戦しましたが不意を突かれ投げ飛ばされてしまいました。しかし、何とか見つからないように ここまで逃げおおせましたが、力尽きてしまったのです。」
ゼオンは青年が応戦したと思われる場所を見つめていた。
ガルナが問いを重ねる。
「何か、他とは違うところはなかったか。」
青年は震える声で首を振りかけたが、そこでふと動きを止めた。
「そういえば……逃げていく一団の中に、様子の違う黒い影のようなものが見えた気がします。馬にも乗らず、ただ黒い影を引きずるように……あれは、人だったのかどうか……。」
ゼオンとガルナは顔を見合わせた。
「黒い影、か……。」
ガルナは首を傾げる。
「しかし、若い男と子供だけ…どういうことだ。武器でも作らせるためでしょうか。」
「おそらくな。」
「しかし、盗賊なら食料や若い女もさらっていくはず…。」
「ああ、このやり方には心当たりがある。とりあえず焼かれた村を調べてみよう。」
ガルナは青年を抱えるとゼオンに続いて歩き出す。
焼かれた村には人っ子一人おらず村はきれいに焼かれていた。
「人間ではこうは隅々まで焼けますまい。」
「そうだな…。」
「やはり、相手は人間ではない…ということですか。」
「確証はないが、おそらく…。少し前に、同じ焼け方をした村を見たことがある。ある少年のいた村だったが、あのとき遭遇した盗賊団は、まるで魂を抜かれたように精気がなかった。」
ガルナは息を呑んだ。
「では、この青年が言った黒い影というのは間違い無いのか。」
ゼオンは頷くだけでそれ以上は答えず、無言のまま焼け跡へ視線を落とした。
沈黙が二人の間に降りる。
暫くして、ガルナが気を取り直すように声をかけた。
「とにかく、腹が減っては動けません。何か残っている物がないか探しましょう。」
ガルナは青年を岩陰に寝かせ、二人で僅かに焼け残っている食料を集めた。
火を逃れた馬が三頭ほど木陰で草を食んでいた。
ガルナは眠ってしまった青年をそっとその馬の背に乗せ、ゼオンは草を食んでいた馬の手綱を引きながら馬を進める。
暫く歩くと木々が生い茂り始めた。二人は岩場の近くに手頃な洞穴を見つけ、そこで一夜を明かすことにした。
火を囲む頃、青年は目を覚ましていた。
「ここは…。」
「村から少し離れた山の中腹あたりの洞穴だ。幸い傷は浅いが体へのダメージはあるかもしれないから、少し休んだほうがいい。」
ゼオンは青年の表情を確認するように答えた。
「ありがとうございます……今日は本当に、見ず知らずの私にここまでしていただいて。」
ガルナが口を開く。
「投げ飛ばされたと言っていたが、よくそんな軽症で済んだな。何か武術の心得でもあるのか?」
「父は弓で獣を狩る猟師でした。武術にも長け戦にも出た人で、その腕を私に仕込んでくれたのです……。しかし、その父は狩りの途中の落石事故で亡くなり、それからは我流で腕を磨いてきました。」
「そうか。それは……苦労したな…。で、これから君はどうする?」
「ええ、どうしようかと考えています…。村も焼かれ誰もいなくなってしまいましたし…。お二人はなぜ旅をされているのですか?」
すると、ゼオンは問い返した。
「最近、君の村も含めて不穏な空気があるのは知っているか?」
「ええ…何となく話は入ってきています。国が次々に消滅しているとか…。」
「ああ、俺たちはその消滅した国の生き残りだ。」
「そうだったんですか。敵は誰だか分かっているんですか。」
「いや、それが一向に分からんのだ。手がかりは黒い影だけなんだ。」
「黒い影…。それで先ほど僕の話に少し驚かれてたんですね?」
「ああ、おそらく君の見た黒い影に間違いないだろう。俺たちはその黒い影を追っている。」
そのころ、ルイーザとラル兄弟は、ルイーザのゼオンを感じる方向にひたすら歩き続けていた。
彼らもまた木々が鬱蒼と茂りはじめた山の中腹に差し掛かっていた。
遠くに焚火らしき火の明かりを見つける。
ラルが言う。
「ルイーザさん。何やら野宿している人たちがいるようです…。」
「え、どこ?」
ラルは指を差し。
「ほら、あそこの洞穴のある切り立った岩の辺りです。」
ルイーザがラルの指を差した方向を意識すると、感じ慣れたゼオンの感覚を覚える。
「あそこに…いる。」
「本当?ルイーザさん、なら早く行こう!」
ルイーザはたじろいだ。
「私は行けない…。」
「どうして!」
「行っても、きっと追い返されるわ…。」
「何で、そんなこと!」
「私には分かるのよ。あの人はきっと私を追い返す…。」
「何言ってるんだよ!そんなの行ってみなきゃ分からないじゃないか!」
ラルはルイーザの手を引き焚火の明かりを目指して進んでいく。
「お姉ちゃん。僕も押してあげる!」
弟のルネが後ろからルイーザを押す。
近くまで行くと焚火をしているところに人影が見える。
あ!とラルが声を上げる。
ルイーザはサッと木の裏に隠れる。
その声に気が付きゼオンが振り返る。
「ラル、ラルじゃないか!」
「やっと会えた!」
ラルは小走りにゼオンの元へ駆け寄る。
「こんなところで何をしているんだ?」
「僕たちゼオンさんを追ってきたんだ!」
「僕たち?…それに、あのとき告げなかったはずだが何故 俺の名を…?」
「それはね…。」
ラルは後ろを振り返りながら言った。
すると観念したのか木の裏から俯きながらルイーザが姿を現した。




