第10話 村人救出
「死者は操れないと、君は言っていたよな。」
「ええ……それが、セフィリア族の常識よ。死者に意思はなく、支配のしようがない…はずだった。」
ルイーザは震える手を握りしめる。
「でも、これは……。私たちの知る"支配"を、遥かに超えているわ。」
沈黙が四人の間に落ちる。
ゼオンはルイーザを落ち着けるように、そっと肩に手を置いた。
「分かってよかった。ありがとう。」
「ええ……知らずに挑んでいたら、もっと恐ろしいことになっていたかもしれない。」
そう言うルイーザの声は、まだ僅かに震えていた。
ゼオンは彼女を気遣うように頷くと、気を取り直して渓谷の一団へ視線を戻す。
「相手にしているものの底が、まるで見えないな……。」
「どうしますか…。」
セレスが不安げに口を開いた。
「もし、ルイーザの言う通りなら、捕まえたところで何も情報は得られないだろう。」
「では、倒しますか。」
ガルナが険しい顔でゼオンに問う。
「ああ、だがその前に捕えられているはずのセレスの村の人を救出する。」
ゼオンは、さらった者を裏の谷間に捕えていると判断し、ルイーザを後ろに乗せたまま崖の斜面を馬で登っていく。ルイーザは落ちないようゼオンの背中にしがみついた。
ガルナとセレスも馬に乗りその後をついて行く。斜面の上まで来ると見つからないように一団の上方を通り越し細い谷間を見下ろす。
「やはりここか…。」
ゼオンはそのまま崖を注意深く降りていき、村人が閉じ込められている木の杭で囲まれた檻の手前まで来ると馬を停めた。
檻の中では、村人たちが項垂れている。
あとに続いて、崖を降りてきたセレスの姿が目に入った村人たちは声を上げた。
「セレス!生きていたのか。」
セレスは急いで人差し指を口の前に当て、シー!とその声を静めさせた。
ゼオンは馬から降りると鞍に掛けてある縄を外し、檻の一本の杭に巻き付けた。
「ルイーザ、手綱を頼む。」
ルイーザは頷くと馬の手綱をしっかりと握り、ゆっくりと前へ進ませた。
ルイーザに馬を引かせながら自分もその縄を引く。それを見たガルナとセレスも急いで縄に手をかけゼオンと共に力いっぱい引っ張った。
ミシッ、と鈍い音がして、檻の杭が地面から浮き上がり倒れかけてきたところをゼオンは両腕で支え、ゆっくりと地面に横たえさせた。
セレスが捕えられている村人たちに静かに声を掛ける。
「さ!早く出て。」
セレスとガルナは、檻の中にいる村人たちを誘導して盗賊の一団がいる反対側の谷間へ逃がしていく。
それを察した一団の数名が寄ってくるのが見えた。
ゼオンは構える。
「来たな…。ルイーザ、村人たちが逃げて行く先の岩陰に隠れていろ。」
ルイーザはそれを聞くと速やかに岩陰に隠れた。
村人を誘導し終えたセレスとガルナもゼオンの元に来た。
「来るぞ…!」
ゼオンはこちらへ寄ってくるその数人に声を掛ける。
「話ができる者はいないか!何が目的なのか聞きたい!」
しかし、その数人は不気味な笑みを浮かべるだけで予想通り返事は無い。
「駄目か‥やはり人間の意識はないのか。」
ゼオンは僅かに目を細めた。
檻の中に村人たちがいなくなっているのに気づくと、敵の一人が引き返す。仲間を呼びに行ったようだ。
「さて、皆さんお出ましになるぞ…!」
ガルナの声に合わせるように崖の向こうから大人数の一団が迫ってきた。
そして、一番前にいた一人がゼオンに斬りかかった。
ゼオンは大太刀を抜き、刀の峰を首筋へ打ち込む。しかし、一度は倒れるが何事もなかったかのように立ち上がり再びゼオンに斬りかかる。
「やはり既に死んでいるのか。仕方ない!」
ゼオンは刀を返す。次の瞬間、亡者の首筋に一筋の銀線が走っていた。
ゼオンが一人を倒すと、その他の一団はまるで操られた人形のように一糸乱れぬ隊列を組み三人へ襲い掛かってくる。
一瞬、亡者の姿が見えなくなる。
「なに…!」
動きが早い。
「亡骸のクセにこんなに早く動けるものなのか!」
応戦するガルナも声を上げる。
セレスは、そばにある岩によじ登ると背中に背負っていた弓を構え、五本の矢を同時に放つ。
先端に木製の丸い円錐状の塊を取り付け破壊力を持たせた矢である。
セレスが放った矢は5体の敵の頭をそれぞれ打ち砕いた。
それを見たガルナが微笑みながらセレスに声を掛ける。
「やるな!」
セレスは五連射の矢を次々と放ち敵を倒していく。ゼオンも刀を振るいながら倒していくが、一度に5体ずつ倒していくセレスに分があった。
「ほう?かなりの腕だな…。」
思わずゼオンも驚きセレスに微笑んだ。
ガルナも応戦しながら、敵の秩序だった動きに気付き攻撃のパターンを見抜いた。
「ゼオン殿!前にいる2,3体が誘いで、その後ろの一体がど真ん中を狙ってくる。」
「ああ、こっちもそのパターンが続いている!」
二人は攻撃を見切りながら倒していく。
セレスは連携を取るように、二人が逃した敵に狙い定め矢を放つ。
敵の攻撃パターンを見抜いた三人は、一団を倒すことができた。
ガルナは倒したうちの一体を観察した。
「しかし…やはりというか、倒しても一滴の血も出ませんな…。」
「人の亡骸まで操れる黒い影とは一体どんな奴なんだ…。」
ゼオンは首を傾げた。
「結局、彼らからは何も情報を得られなかったようですね…。」
セレスも矢を放っていた小高い岩から降りてきて、改めてその様子をうかがい溜息まじりに言った。
ルイーザも岩陰から姿を現し三人の元へやってくる。
「やはり、生きている人はいなかったようね。」
四人は馬に乗ると拠点の洞穴まで帰ってくる。
すると洞穴の奥からラルとルネが顔を出す。
「拠点を守ってたけど、敵はこなかったよ!」
弟のルネが嬉しそうに言った。
「よく二人で守ったな。偉いぞ!」
ガルナがそう言うと、ルネは喜んでいたが兄のラルは少し不満顔であった。
「ラルは…"僕も戦いたかった"って、顔してるな。」
ガルナが笑いながらそう言うとラルはコクっと頷いた。
「急ぐことはない。お前もそのうち戦う時が来る。そのときまで今はもっと腕を磨いておくんだ。」
ゼオンがそう言うと、
「じゃあ、今度はゼオンがこの変わった刀の使い方教えてくれる?」
「ああ、いいだろう。」
ゼオンはラルの頼みに快く応じてやった。




