第5話 決 着
ゼオンの二本の刀は、凄まじい勢いで回転しながら次々と襲ってくるため、先頭部隊のリーダーも隙を伺うことができない。
一の太刀を避けられたとしても、すぐさま2m級の二の太刀が1ミリのずれもなく正確に飛んでくるのだ。
更に遠心力を利用している刀の速さと威力には太刀打ちできなかった。
「く…くそ…避けられない…!」
先頭部隊のリーダーも倒れた。
「こ…こんなもん敵うわけね~!」
盗賊たちは恐れをなして逃げ始める。
「おい!待て~!逃げるな~!」
盗賊の幹部が叫ぶが聞く者はいない。その様相に幹部たちも逃げ出し始めた。
残っているのは頭目と、もう一人は頭目の腹心でバギーの後部座席でじっと眺めていた幹部の あの男だった。
幹部の男は自分で直にこの男の腕が見たいと思い志願する。
「ボス、ここは私が…。」
しかし頭目はその言葉を退ける。
「いや、俺にやらせろ。久しぶりに手応えのありそうな奴に出会った。腕が鳴るぜ!」
頭目は身長2mを超えようかという大男だった。右手には3mを超えるような金砕棒、左手には大きな分銅の付いた鎖を持ちゼオンの前に現れた。
「なるほどボスらしいじゃねーか…」ゼオンは構える。
「行くぞ!」
頭目は大地に響き渡るような低く響く声で口火を切った。
すると、重量級の分銅鎖を宙で回し始め、次第に風切り音が増していく。
ゼオンは両手の刀を下ろし、つま先でボクサーのように小刻みに跳ねだした。
宙で回していた分銅鎖が高速でゼオンに飛んでくる。そのとき既にゼオンは僅かに体をずらし、紙一重のところで避けている。
「ふん…早いな。」
頭目はニヤリと口の端をわずかに上げた。
鎖の真ん中を支点にして振り回し、更に速さを上げながら両端の分銅を次々にゼオンめがけて叩き込む。
それをゼオンは無駄な動きをせず、ギリギリのところでかわしていく。
「勝てない…」それを見ていた幹部の男の顔から血の気が引いた。
頭目が業を煮やして声を上げる。
「逃げてばかりでは俺様を倒せんぞ!」
ゼオンは、頭目の攻撃の癖、間合い、タイミングなどから、今までの戦いの経験や知識を総動員し冷静に頭目の戦闘スタイルを分析していく。
「分銅の間合いに入れば瞬時にあの金砕棒が飛んでくるだろう…。じゃ、これならどうだ…?」ゼオンは分銅鎖の間合いに飛び込む、その瞬間 予想通り金砕棒が飛んできた。
しかし、頭目の目の前からゼオンの姿が消える。
ゼオンは宙高く飛び上がっていた。
「くそ、どこだ!」
頭目がゼオンの姿を見失った一瞬、その姿は既に真上にあった。
長刀の切っ先が虚空を裂き、鈍い衝撃と共に頭目の首筋を捉える。
「ぐはっ!」
頭目は低いうめき声と共に地面へ倒れこんだ。
その周りでは、あちこちから盗賊たちの呻き声が聞こえる。
殺されてはいないようだ。
頭目も気を失ってはいるだけで息はある。
そして、ただひとり幹部の男がゼオンを見つめていた。
ゼオンは刀を下ろしその男に問いかけた。
「お前は、どうする。」
男は質問にすぐには答えず、少し間を置いてから静かに答え始める。
「もう勝負は見えております。私は戦いませぬ。ところで、あなたのお姿、あの戦い方、そして一瞬見えたその剣の付け根の紋章…。もしや、あなたはヴァルディアス王国の四賢者の一人、ゼオン殿ではあらせられぬか?」
ゼオンは怪訝そうにその男を見つめながら答える。
「如何にも、私はそのゼオンだが…。」
「最強と謳われていた四賢者であり四天王でもある、あなた方の戦いを一度だけ見たことがございます。あれは先に起こった五国五つ巴の大規模な戦闘の最中、戦場を支配していた凄まじい力量の者たちを見たのです。数千の兵士を、ことごとくなぎ倒し、草一本残っていない戦場の跡。あなた様はあの四天王の中でも頂点を極めているといわれたゼオン殿ではないかと思ったのでございます。」
ゼオンは少しこの男に興味を持った。
「そなたは?」
男は口をつぐんだ。
「私など素性を明らかにできるような分際ではございません。今はこのように盗賊などに成り下がってしまった…。」
男は深く首を垂れた。
「ふむ…何か訳がありそうだな。」
暫くして倒れていた盗賊たちが口々に「痛ててて…」と言いながら腕や足を押さえながら動き出す。
逃げ出した盗賊たちは姿が見えなくなっていた。
そして頭目も目を覚まし意識が戻る。
「殺さなかったのか…何故だ?」
「特に意味はない。無駄に殺すのを好まない。ただそれだけだ…。」
「ふむ…。分からん奴だな。」
頭目は打たれた首筋を押さえ首を回しながらゼオンに言った。
「仲間にならないか。と言ったところで応じる器ではなかろう。
ここにいる奴らは、もともとどこかの兵士だった人間が寄り集まっている集団だが、いまは皆 図らずも人のものを奪って生きている。
これが正しいか間違っているかは考えぬし、俺は誰の指図にも従わぬ。
今はただこれが俺たちの生きる道なのだ。」
「そうか…、勝手にしろ…。」
ゼオンがそう答えると、他の盗賊たちは去って行く。
最後に頭目が幹部の男に声を掛ける。
「お前はどうする。」
「申し訳ございませんが、ここに残らせてもらいます。」
ゼオンが男に問う。
「それでいいのか?」
「はい、今あなた様の戦うお姿を見て、私も己の道を考えながら歩むべきだと思いました。」
頭目が続ける。
「そうか。なら、達者でな。いずれお前たちとは、またどこかで会うかもしれん…。」
頭目は無理に引き止めようとはしなかった。そして、部下にバギーから男の荷物を降ろさせると、後部座席に乗り込みその場を後にした。
男は、その降ろされた荷物を担いだ。
盗賊たちが去って行くと、荒野にはゼオンと男だけが取り残された。
「行くか…。」
「ええ…。」
ゼオンは長刀を肩に担ぎ、男はゼオンが連れていた馬を引きながら、特に言葉も交わすことなく歩き始めた。
男はゼオンの姿を見ていた。あれほどの戦いをしたにも関わらず頬に一筋ある傷以外は無傷だ。少し上がっていたように見えた息も今は既に落ち着いている。
「やはりあの戦場で見た四天王の一人なのだな…」と、男は改めて思う。
そして、陽は沈み始める。
崖の下に差し掛かると洞穴があり、男は中を確認する。
「獣もいないようです。今夜はここで暖を取りましょうか。」
「そうだな。」
ゼオンはそう言うと、馬の綱を木に結わえ付けた。馬は周りに生えている草を食み始める。
二人は洞穴の中へ荷物を降ろすと焚火ができそうな木片を探す。その辺りは以前 水が通る谷であったのか幸い枯れて朽ち果てた木々が所々に取り残されている。
二人は集めた木片に火をつけ焚火を始めた。




