第4話 強 襲
盗賊団は一人の旅人など相手にしないかのように、バイクやバギーで爆音を立てながらゼオンの横をすり抜けていく。
―― 内燃機関を持つ者など少ないこの荒野で、盗賊はそれだけの財を力ずくで築き上げてきたのだろう。
しかし、やはりというか馬鹿な一人がゼオンに引っ掛かる。一人で歩いている旅人にちょっかいを出したくなったのだ。
「おい、兄ちゃん、ちょっと遊んでやるよ~!」
バイクですれ違いざま剣の先でゼオンを引っ掛けてやろうとした瞬間、ゼオンは刀を抜き盗賊の足を払い鞘に戻す。その一連の動きが盗賊たちの目には見えなかった。
何が起こったのか分からない。
「あれ…?なんだ…?景色が傾ぶぐ…。」
盗賊はいきなりバイクから盛大に放り出された。
後方部隊にいた者たちが、その異様な光景に気づきバイクやバギーを止める。
盗賊たちは混乱していた。そして、後方部隊のリーダーと思われる一人が声をかける。
「おい…!お前…、止まれ!」
ゼオンはその言葉が耳に入らないかのように変わらず歩き続ける。
すると下端の盗賊が、
「聞こえね~のか、止まれって言ってんだよ~!」
と、ゼオンに襲い掛かる。
一瞬、マントが翻ったかと思うと拳が盗賊の鳩尾を捉えていた。堪らず悶絶しながら倒れこむ。
それを見ていた他の盗賊たちは警戒を強めた。
リーダーが声を掛ける。
「ほう?少しは腕に覚えがあるようだな…面白い。」
ゼオンは少し顔を上げて目深に被ったフードの奥から目を光らせ、そのリーダーの男を一瞥する。
前方部隊もやっとその状況に気づき後方部隊の元へ引き返してくる。
その数、数百名。
「この野郎~!」
血の気が多い無鉄砲な下端の盗賊たちがゼオンに襲い掛かろうとする。
「馬鹿者ー!止めんかーー!」
そのリーダーは下端たちを制止した。
「この男の強さが分からんのか!お前たちなど一瞬で片付けられてしまうわ!」
一瞬で自分の力量を見抜いてきたこの男はやるかもしれない。ゼオンはそう思った。
「面白い、俺が相手になってやろう!」
後方部隊のリーダーは車を降りてゼオンの方へ向かって歩き出す。
ゼオンは刀に手を掛けずにその様子をうかがっている。
「いくぞ!」
そう言うとリーダーは剣を抜きゼオンへと走り出す。
そして、ゼオンを外し横に逸れる。その瞬間剣が脇腹を掠める。
キーン!と鋭い金属音が響く。ゼオンは僅かに抜いた太刀で剣を受けた。
リーダーの男は即座に振り向き間髪入れずにゼオンへ攻撃を加える。
息をつかせぬ連続攻撃、ゼオンは僅かに抜いた刀のままでリーダーの攻撃をかわす。
「何者だ…放浪しているただの武人ではなさそうだな…」そう思いながら、その様子をバギーの後部座席でじっと眺めているある男がいた。
ゼオンは大太刀を腰の鞘に納めると、背中に背負っていた2mの長刀を抜いた。
「一気に片を付けるつもりか…、こいつはデキる…。しかし、こんな長物が本当に扱えるのか…」後部座席で眺めている男はそう思ったが、その疑問はすぐに解消されることになる。
「フフ…、やっとその気になったか?」
リーダーの構えが変わる。
「来るな…」先ほどまで間髪入れずに攻撃していたリーダーの動きが変わる。
ゼオンの動きを読み右に左に流れるような動きで翻弄する。その流れをかわした瞬間に剣が飛んでくる。
「これは…ただの盗賊ごときの動きではない。何だ、こいつは…?」ゼオンは返していた刀の刃を思わず戻した。
それでも、リーダーの剣速はゼオンのそれには及ばない。流れをかわした瞬間、飛んでくる剣先を紙一重で見切り、再び返した刀を叩き込む。
ガッ、と骨を鳴らす鈍い音。峰打ちが首の根元を正確に捉え、リーダーの体は糸が切れたように崩れ落ちた。
バギーの後部座席で眺めていた男の目が見開かれた。
「あの後方部隊のリーダーを一撃で仕留めるとは、いったい何者だ!」
思わず声が漏れていた。
リーダーがゼオンの一撃で倒されたことに周りの盗賊たちは一瞬沈黙する。が、しかし所詮多勢に無勢とばかりに一斉にゼオンへ襲い掛かる。
その背後にいる盗賊たちは機関銃やガトリング砲をゼオンに向ける。焦げた鉄の匂いを撒き散らす、無骨な連発式の重火器が一斉に並ぶ。
ゼオンは息を止め、気を集中させる。
地面から消え、目では捉えきれない速さで盗賊たちのど真ん中へ突入する。その瞬間、盗賊たちの顔が引き攣る。
盗賊の目に映ったのはその瞬間までで、振り上げていたはずの武器が、いつの間にか宙で真っ二つに割れていた。
2mの刀身が空で唸りを上げ、熱を帯びた砂塵の中に幾筋もの弧を描きながら敵の群れを薙ぎ払っていく。
骨を打つ鈍い音と、悲鳴にすらならない呻きだけが、次々と後方へ流れていった。
襲い掛かったひと群れが倒されると、ゼオン一人に向かって盗賊たちは全勢力で襲い掛かる。
重火器を持っている者は味方が集中しすぎて撃つことができない。飛び道具は自然と無力化されている。
ゼオンは瞬間的に前進し攻撃を加えて走り去り、即座に踵を返すヒット・アンド・アウェイを繰り返す。
地面を蹴る力と踵を返すときの力が強いうえに、次々と繰りだされるため一面に砂塵が舞う。
その砂塵も相まって更にゼオンの姿は捉えづらくなる。
先頭部隊のリーダーがその様子を見ている。
「後方部隊のリーダーは一撃でやられている。一対一で戦いを挑むのは不利か…」すると、そのリーダーは下端が襲い掛かっている隙間を縫うようにゼオンに攻撃を仕掛ける。
先頭部隊のリーダーも後方部隊のリーダーに負けず劣らずの腕を持っている。弱そうな下端盗賊の攻撃の隙間からいきなり鋭い一撃が飛んでくる。
―― なに!
ゼオンは一瞬判断を誤った。鋭い一撃はゼオンの頬を掠めた。ゼオンの頬から一筋の血が流れる。
「下端の攻撃に紛れて攻撃してくるとは…こいつもなかなかやる…。後方部隊のリーダーとの戦いを見て直接対決は不利と判断したか。」
前方部隊には数人の幹部も控えている。
「一度にこれだけの相手をしながら、同時に手練れの奴らも紛れ込んでくる。ちょっと本気を出さないとマズそうだな…。」
ゼオンの攻撃スタイルが変わる。
腰からもう一本の太刀を抜くと地面に一瞬しゃがみこみ、両足を地面にめり込ませ気を集中させる。そして、体を回転させ敵を一網打尽にしていく。
「また、攻撃スタイルが変わった……!どこまで強いのだ、こいつは…」男の喉がごくりと鳴った。
その動きでフードが取れゼオンの顔が現れた。一瞬 盗賊たちはぎょっとする。
現れたのは、むくつけき野性的な男ではなく、金髪を後ろで一つにまとめ鼻筋が通り目鼻立ちの整った涼しげな目元の美青年。
盗賊たちはバタバタと倒されていく。
そして一瞬だが長刀の付け根に掘られている紋章が光った。
男は窓から思わず身を乗り出した。
「あのお方は……まさか、ヴァルディアス王国のゼオン殿ではあるまいか!」
確信に近いものが背筋を駆け抜けた。




