第3話 追う女
ラルは村で焼け残っていた食料などをかき集め、その日のうちに弟を連れて焼け野原になった村を後にした。
夜は荒野の岩陰で野宿をする。夕食が終わり焚火に薪をくべながら二人で夜空を見上げていると岩の間に人影が忍び寄る。
それに気づいたラルが声を発する。
「何者だ!」
すると岩陰から腰に短剣を差した一人の女が現れる。ゼオンを追っている謎の女だ。
「あなたたち、こんな危険なところで何をしているの…?」
二人はその現れた女を見て「なんて綺麗な人なんだろう…」と、呆気にとられた。
それでもラルは、気を取り直すように答える。
「僕たちの村は盗賊に焼かれてしまった。だから、住める場所を探して旅をしているんだ。」
「そうだったの…。」
女は心配そうな表情で二人に近づき、焚火の傍へ来て座った。
「じゃ、お父さんもお母さんも…?」
「いや、お父さんとお母さんは僕たちが小さいときに亡くなってしまったんだ。だから村の人たちに助けてもらいながら二人で生きてきたんだけど…。ところでお姉さんは…?」
「うん…。ある人を追って私も旅をしているのよ。」
「ふ~ん…。大切な人なの?」
「まあね…。」
ラルは踏み入ってはいけないような気がしたが好奇心が勝り口を開く。
「どんな人…?」
「うん…。とても強くて…頼りになる人…かな。」
すると、まだ気遣いなどよく分からない年のルネが畳みかける。
「お姉さん、その人のこと好きなの?」
女は一瞬目を見開き顔を赤らめると、
「そんなこと…。」
「ほら、当たった!」
「こら、ルネ!よさないか。お姉さんに失礼だぞ。」
女はラルが制止に入ったことで少しホッとしたような顔をした。
ラルは、その追っている人というのが少し気になった。
「その人ってどんな人…?」
「気になるの?」
「ああ、そうじゃないけど…。もしかしたら僕たちを助けてくれた人なんじゃないかなって気がして。」
「え、あの人に会ったの? どんな人だった?」
今度は女の方が矢継ぎ早に質問を始めた。ラルは少し考え込むような素振りをみせながら。
「うーん…僕たちより、うんと背が高くて強そうな人だったよ。」
「見た目や格好は?」
「金髪の髪を束ねてて、赤いマントを羽織っていて…。あと、変わった形の凄く長い剣を持ってた。」
それを聞いた女は一瞬で真剣な表情に変わる。
「その人はどこに行ったか分かる?」
「うーん。その場で別れちゃったから分からないや。やっぱり、お姉さんの知ってる人?」
「ええ、まさにその人を追ってるの。」
「僕たちを助けてくれたあの人は誰?」
「その人はゼオンといって、かつて栄華を極めたヴァルディアス王国の四賢者のひとりだったの。剣の腕も最高峰で四天王とも言われていたわ。」
え…!と絶句した。ラルもヴァルディアス王国の名は聞いたことがあった。
「やっぱりそんな強い人だったんだ…。でも、ヴァルディアス王国って何者かに滅ぼされたんじゃなかった?」
「そう、その何者かを追ってあの人は旅をしているの。」
「それで、お姉さんは…誰なの…?」
「私は、ルイーザ。ハイランド地方から旅をして来たの。ゼオンのヴァルディアス王国と私の種族は互いに協力体制にあったから普段から顔を会わせることがあったの。それに、彼には剣を教えてもらったりもしていたのよ。」
ルイーザは腰の短剣を外し少し懐かしむように指で撫でながら言った。
―― なぜ、あの人は忙しい合間を縫ってまで、異なる種族の小娘に過ぎない私に、あそこまで熱心に稽古をつけてくれたのだろう。当時はあまり深く考えたことはなかったけれど、今になって、ふとその理由を考えることがあった。
あの人にとっては大した理由などなかったのかもしれない。ただ、教えを乞う者を放っておけない性分なのだろう、と当時のルイーザは結論付けていた。
それでも、他の誰でもなく私だけに…何故。という淡い期待を心のどこかで捨てきれずにいた。
ゼオンに関わるにつれ、いつしか憧れを抱くようになっていたのだ。
ルイーザは幼少の頃より知性が高く高等教育を受け上級女官となり、一族の記録を管理する立場となった。しかし、ゼオンの影響からかルイーザ自身も前線に立つ者たちへの興味も同時に持ちはじめていた。――
ラルはふと気が付いたように、隠しておいたゼオンに貰った刀を岩陰へ取りに行きルイーザに見せた。
その刀を見て息を飲んだ。
そっとラルからその刀を受け取り、鞘から少し刀を抜くと輝く紋章が現れ、じっと見つめる。
―― 確かにこれはゼオンの刀…あの人の…。
「お姉ちゃん、この奇妙な形の剣を使える?」
「いえ、これはある国で使われている刀という特殊な剣だから私に扱い方はよく分からないわ。」
ラルがルネに問う。
「お前、ゼオンさんが敵を倒すところは見たのか?」
「うーん…暗かったし、動きが速すぎて見えなかった。でも、敵がどんどん倒れていったんだよ。」
ルイーザは真剣にその話を聞いていた。
「そうね、それが彼の太刀筋。瞬間的に気という体のエネルギーをコントロールして攻撃するから、相手がその動きを目で追うのは難しいのよ。」
「す…凄い。攻撃するところが見えないなんて…。ねえ、お姉さん。普通の剣術でいいから教えてくれないかな…。この刀ってやつの使い方は僕が研究するからさ。」
「分かったわ。いずれにしてもこんな荒野を旅するなら剣術は身に着けた方がいいものね。」
「それから、ルイーザさんがゼオンさんを追うなら僕たちも行きたい。そして、もう一度僕もあの人に会いたいんだ。」
「そうね、行く宛がないなら一緒に行きましょうか。」
「ありがとう!」
「ふふ、じゃこれで決まりね!」
それからラルはルイーザに剣の使い方を教えてもらいながら、三人は共にゼオンの足跡を追う旅を始めた。
そのころ、ゼオンは捕えられていた村人たちを解放したあの谷にいた。
あの時の盗賊たちは場所を移動したらしく、焚火のあとを残して消えていた。足跡を辿ろうとしたが、今朝方までの砂嵐でその痕跡も消えていた。
「また振り出しか…」ゼオンは馬の体力を温存させるため綱を引きながら手がかりを求め歩きだす。
馬を引き緋色のマントにフードを目深に被り、歩いていく。
谷を出て丸一日が経つ頃、先日出会った盗賊より遥かに大規模な盗賊団が見えてくる。
縦に長い隊列を組んで進んでおり、このまま行くとその集団とすれ違うが、ゼオンは方向を変えることなく歩いていく。
やがて、盗賊団とすれ違う。




