第18話 死 闘
ゼオンは大太刀を腰の鞘に納め、背中の長刀を抜く。
ズラァーーッッ……!
低い金属音と眩い光沢と共に2mの刀身が姿を現す。
ゼオンとカイザーは構えると、一瞬で詰め寄り同時に攻撃をする。
ゾルガはカイザーの剣を受けたが、ゼオンの刀はゾルガを捉えた。しかし、斬れない。
セレスも矢を放つが、それは跳ね返された。
―― なにっ!!
「そんな柔な剣や弓で我れを倒せるとでも思うのか!」
カイザーは身を引くと、再びゾルガに斬りかかる。
ゾルガはカイザーへ剣を突き出した。
カイザーは咄嗟に斬りかかった剣で避けるが、剣は真っ二つに折れ、ゾルガの剣先はそのままカイザーの脇腹を掠めた。
―― ぐはっ!
カイザーの脇腹から血が滲む。
すぐにゼオンは腰の大太刀を抜きカイザーに投げる。
「動けるか! お前に使いこなせるか分からんが、それを使え!」
大太刀の柄を握るとカイザーは直ぐに、この剣が片刃であること、反っていることから削ぐように使うこと、という特徴を認識する。
「ああ、これくらいなら問題ない! とりあえずこいつを使わせてもらう!」
カイザーは痛みに耐えながら、再びゼオンと同時に斬りこむ。
ゾルガは再びカイザーの刀に狙いを付け、剣で薙ぎ払おうとする。
カイザーの剣先がゾルガを捉えたと同時に薙ぎ払われるが、大太刀はびくともしない。
「な…何だ?この剣は…刀とかいうやつか。薄刃なのに強度がまるで違う。何なんだこれは!」
―― 剣と刀は、製造の仕方に違いがある。
剣は金属を型に流し固めて作るのに対し、刀は種類の違う鋼を重ねて叩き鍛え延ばすという工程を繰り返し何万層にも折り重ねて作られる。
ゼオンのこの刀は名匠が希少な玉鋼をもとに特別に打ったものであり、適度な撓りの上に尋常ではない硬さが融合しているのである。――
そのころ城の外では、亡者兵も殆ど片付けられていた。
ラルとルネは救出された子供たちの面倒を見ていたが、ふとゼオンたちのことが気になった。
「ゼオンさんたち…。大丈夫かな…。」
背後で様子を見に来た頭目が声を掛ける。
「気になるのか?」
「うん…。」
「連れて行ってやってもいいが、ゼオンたちは殺られるかもしれんぞ…。それでも見届けたいか。」
「うん。僕たちはゼオンさんの闘いは見ておかなきゃいけないような気がするんだ。」
「分かった。俺が連れて行ってやる。」
頭目は二人の覚悟を確認すると、屈強な兵を数人集めた。
「ラルとルネを護衛しながらゼオンのところへ連れていくぞ!」
そう言うと、頭目はまだ多少の戦闘が続いている周りを警戒しながら兵を従え、ラルとルネを連れて城へ入っていく。
階段を上っていくと上の方から激しい剣のぶつかり合う音がする。
最上階まで登っていくと、そこには大広間で巨大な黒い影と闘っているゼオンとカイザーの姿が見えた。
「あ!ゼオンさんとカイザーさんが闘っている!」
大広間の入口には、ルイーザ、ガルナ、セレスの姿があった。
3人の後ろにラルとルネを連れていき、頭目も腕を組み二人の闘いに見入った。
ゼオンがゾルガに攻撃を仕掛ける。ゾルガがゼオンに意識がいっているところをカイザーが斬りこむ。
しかし、刃が通らない。
―― くそっ!!
ゾルガはゼオンに何かのタイミングをうかがっている。
「ゼオン! 気を付けろ! お前に意識を潜り込ませるタイミングをうかがっているぞ!」
ゼオンが宙から攻撃をしようと跳躍したタイミングで、ゾルガが蹴りを放つ。
―― ぐはっ!
ゼオンはまともに喰らってしまった。ゾルガは一瞬ニヤッとし、その瞬間 強烈な思念波がゼオンに叩き込まれた。
ゼオンは弾き飛ばされ、意識が一瞬 遠のいたその隙を狙いゾルガの精神が入り込む。
ゼオンの目が赤く光り、支配された意識は共に闘っているカイザーに向けられる。
「ゼオンの奴、入り込まれたか!」
カイザーはゾルガを相手しながら自分に向けられるゼオンの攻撃の意識を感じる。
一瞬、意識がゼオンへ逸れた瞬間 ゾルガの肘がカイザーを捉え弾き飛ばした。
カイザーは怪我をしている脇腹から叩きつけられ呻き声と共に動けなくなった。
「く…くそ…化物め! なんて力とスピードだ…。ゼオン、なんとか…あとは…頼む…。」
そのとき、ルイーザの声がゼオンの耳と心に同時に響いた。
「ゼオンッ!!」
泥のような暗闇の底で、その名が呪縛の鎖を激しく揺らした。
負けるかぁぁぁ~~~!!
喉の奥で押し殺した叫びが爆ぜ、猛烈な精神力で跳ね返し始める。筋肉が軋み、骨が鳴るほどの意識で支配力を押し返し、ゼオンは己の意思で意識の糸を力ずくで引きちぎった。
赤く濁っていた両眼に、鋭い闘気が戻る。
「ルイーザ!俺にできるだけ強い思念体を送ってくれ!」
「分かったわ!」
ルイーザは意識を集中し強力な思念体をゼオンに放った。
「思念体が動かせるのなら、それに絡めて俺の精神体も移動させられるはず…」ゼオンはルイーザから受け取った思念体と自分の強烈な精神体を意識の中で絡み合わせ、長刀にそのエネルギーを送り込んだ。
長刀が根元から白く輝き始める。
「そんなものを光らせたところで我れを斬ることなどできんぞ!」
ゾルガの剣の切っ先がゼオンに迫る。
ゼオンはゾルガの剣の軌道が動かせなくなる位置まで剣先を引き付け、ギリギリのところで避ける。頬から一筋の血が流れる。そして、そのままカウンターで返すように長刀の切っ先をゾルガに撃ち込む。
グサァァーーッ!!
ゼオンの長刀の切っ先が黒い影の男の体にめり込む。
黒い影を纏った巨躯がぐらりと揺れた。
「グ……ゥァアアアア……! ば…ばかな…!!」
獣の咆哮のような、人のものとは思えない声が響き渡る。
長刀が刺さったところを起点に白い閃光が放射線状に伸び始める。
そして、体中から黒い靄が噴き出し、傷口が焼けるように黒く染まっていく。
ゼオンが長刀をさらに押し込みそのまま貫くと、ゾルガはその場に崩れ落ちた。
フードの下に覗く顔は、もはや人間のものではなかった。
目は落ち窪み、皮膚は黒く干からび、かろうじて原形を保っているだけの、ただの器だった。
「貴様に……この…力を……絶やすことなど……できはしない……。」
声は嗤うように歪んでいた。
「我れの後にも…力を求める…更に強い者が現れる……この世に欲望が絶えぬ限り…な……。」
ゼオンはゾルガから刀を抜き、静かに構え直した。
「なら、現れる度に俺が斬るだけだ!!」
迷いのない一言だった。
ゾルガは何かを言い返そうと口を開きかけたが、声にはならなかった。
黒い靄が体の内側から噴き出し、その巨躯を内から食い破るように膨れ上がると、一瞬の閃光と共に弾け飛んだ。
後には、何も残らなかった。焼け焦げた床と、薄れていく黒煙だけが、そこに何かがいたことを示していた。
重い静寂が満ちる。
「ゼオン、やったのね…!」
ルイーザは瞳を潤ませている。
「やっぱり、ゼオンは強いや!」
ラルとルネはそう言いながら抱き合って喜んでいる。
「本当に強かった…。」
セレスが言う。
「ありがとう…。これで家族の敵討ちが終わった。」
ガルナは胸の前で固く手を組み、薄っすらと涙を浮かべながら見つめていた。
そして、頭目は静まり返った戦場を感慨深そうに眺め、2mの長刀を握っているゼオンを見つめていた。
「フ…流石だな。俺はあのときもう少しで奴に勝てると思っていた…。が、どうやら思い違いだったようだ。ゼオンは強い…ただひたすらに強い。凄い奴がいたもんだ…。」
外では、黒い影に支配されていた残りの亡者兵たちの動きが止まっていた。
そして、主を失った亡者兵たちの屍だった体は干からびた粘土細工のように粉々に崩れ落ちた。
カイザーの傷は少々深かった。ルイーザは手を当て止血する。
老化した子供たちはトラックに乗せられ、セフィリア族の力を借りて元の体に戻すため、ルイーザの故郷のハイランド地方まで運ばれることになった。
明日、いよいよ最終話!
闘いの先に待つものは、終わりか、それとも始まりか。
7人はこれから、どこへ向かうのか――。
物語の結末を、どうか最後まで見届けてください。




