第17話 黒い影との遭遇
「カイザー頑張って。このまま記憶を辿って城内へ入るわ。」
ルイーザはそのままカイザーの記憶を辿っていく。
カイザーの記憶の中で城の門から入っていく。
城の中へ入ると大きなホールがある。
階段を上っていくと、このホールを見下ろせる廊下に出た。
そのまま廊下を進むと再び階段が現れる。
階段を上ると、いくつもの部屋があり、中からは呻くような声が聞こえる。
しかし、それは子供のような声ではなく、しわがれた老人のような声だった。
別の部屋からは子供のすすり泣く声が聞こえる。
「何なの…? 子供だけではなく、老人もさらっていたの…?」
その部屋の大きな扉を開こうとするが頑強に締められていて開かない。
「そこは私でも中を見ることは許されなかったようだ…。」
カイザーは記憶を取り戻しながら苦しそうに目を閉じたまま言った。
その様子に、皆が集まりだし黙って見守る。
再び階段を上っていくと広い廊下に出た。その廊下は奥まで長く続いていた。その突き当りには高さが何mもありそうな巨大な扉がある。
「そこが黒い影のいる大広間だ。」
ここはカイザーも入ったことがあるらしく記憶があり中に入ることができた。
大広間は広く天井も高い。そして一番奥の真ん中にはひときわ大きな玉座が鎮座している。
しかし、黒い影の姿を探ろうとすると意識が反射し跳ね返される。
「ここから先は危ないわ。ここを探り続けていると黒い影に気付かれてしまうかも…。」
そして、大広間を出ていくつもの階段を下りていくと地下へ出た。
暗闇の奥からは何かが動き回っている気配が感じられた。
「ここが亡者兵達の居住区だ。」
カイザーがそう言うと、そのまま居住区へ入っていく。記憶の中の亡者兵たちはサマルナイト鉱石をすり潰したものを口へ運んでいた。
「やはりサマルナイトをエネルギー源にしているようね。」
ルイーザはそう言うと、カイザーが苦しみ始め限界がきたようなので、そこで記憶を探ることを止めた。
カイザーは目を閉じたまま横になった。
ラルとルネは、カイザーの額の汗をタオルで拭ってあげた。
「なるほど、偵察に行かなくても、そういう手があったとは…。」
頭目は目を細めた。
「確かに黒い影の力があれば、偵察に忍び込んでもその気配を悟られてしまうだろうな。」
ゼオンが言った。
「しかし…老人の呻き声か…。セレス、お前の村が襲撃されたとき老人はさらわれなかったのだろう?」
ガルナがセレスに疑問を投げかけた。
「ええ、確かに老人はさらわれていませんでした。」
「うむ…。これだけは現地で確かめるほかなさそうだな…。」
ガルナは訝し気に言った。
翌日、盗賊兵たちが装備を整えるなか作戦会議を行う。
・まず外部から総攻撃し、意識を外に向けさせる。
・相手を操ることができるのは、黒装束の騎士だ。これが出てきたら構わずに逃げる。
・その隙を狙って城内に忍び込み、子供たちを確保する。
・それが完了したら大広間の黒い影を追い詰める。
それらの基本の枠組みを念頭に詳細を打ち合わせた。
作戦会議の後、ゼオンがラルとルネを呼び寄せ、二人のための作戦を話す。
「いいか、二人は城の中に入って子供たちが見つかったら外に連れ出してあげて欲しいんだ。小さくて怖がっている子は手を繋いで励ましてあげてくれ。」
「分かった!」
二人は自分たちへ与えられた任務に、チームの一員であることを誇りに感じていた。
それを後ろから見ていた頭目が声を掛ける。
「おい、坊主。刀を両手で持って動くのは面倒だろ。いいものをやる。」
そう言うと頭目は刀の鞘に革の帯を巻き、ラルの背中に背負わせてやった。
「うわ~!これいいね!」
刀を背負ったラルは、いっぱしの剣士になった気分で喜んでいた。
「いいか?坊主。俺は弱い者いじめはしないが、やはり盗賊だ。しかし、お前は盗賊じゃない。強くなったら これで弱い者を守ってやれ。いいな。」
「うん。分かった。大きくなるまでにもっと強くなるよ!」
そんなラルを見てゼオンは微笑んでいた。
頭目は弟のルネには金貨を持たせてやった。
「これはな、昔の話だが海の近くを通った時、座礁している船を一度だけ助けてやったことがあったんだ。そのとき、船の持ち主がお礼にとくれたものだ。お前たちはきっと正しい道を生きるのだろう。正しいことをして人々の幸せを守るような人生を歩め。」
ルネは、ありがとう。と言って金貨を大事そうにポケットにしまった。
ゼオンは黙って、納得するような真剣な眼差しで、そのやりとりを見つめていた。
そして準備が整い、いよいよ進軍開始。
盗賊団は数百名全員が出撃する。
カイザーは外の猛攻撃に応戦するために出てくるであろう黒装束の騎士と対決するため、ガルナは部隊の指揮を執るため、セレスは弓で亡者兵の足止めをするため、それぞれ城外で戦うことになった。
ゼオン、ルイーザ、ラル、ルネは城内に捕えられているはずの子供を救出するため、盗賊兵数人と共に物陰で待機する。
そして、最後に合流し、黒い影と対決する計画だ。
いよいよ戦闘が始まる。
盗賊たちが重火器を乗せた何台ものトラックやバギー、バイクで城壁に近付くと、城の中からは無数の亡者兵たちが飛び出してきた。
「よ~し! 戦闘開始だ! 撃てぇーい!!」
頭目の号令とともに、マシンガンや連発ガトリング砲が一斉に火を噴き、その咆哮が空気を切り裂いた。
重火器を逃れてくる亡者兵は、武装した盗賊兵が倒していく。
その隙にゼオンたちは城に忍び込み、途中城の中にいた数人の亡者兵を倒しながら階段を上り、いくつもの部屋がある階に辿り着く。
先ずは子供のすすり泣く声が聞こえる部屋の扉の前で、盗賊兵が各々手に持った大型の大槌でその扉を叩き壊していく。
部屋の中には、捕らえられている多くの子供たちがいた。
そして問題の、老人が呻いているような声が聞こえてくる部屋だ。
警戒しながら、大槌で扉を打ち破る。
すると中には恐ろしい光景が広がっていた。
皆、表情が固まる。
「な…なんて酷いことを…。」
ルイーザの目に涙が浮かんだ。
そこには老化した子供たちがいた。
顔も体も皺だらけになり、目にも精気が宿っていない。力なく横たわって、ただ呻き声を上げていた。
「黒い影は、子供の若いエネルギーを吸収しているのか…?」
ゼオンが問う。
「ええ、子供の精気を吸い取り、永久に生き続けるつもりなのかもしれない。」
ルイーザは精気を吸われた子供を抱きかかえながら答えた。
外では、盗賊の多数の重火器が火を吹き優勢であった。
亡者兵はまるで乾いた泥が崩れるように木端微塵にされ復活できない。
一方、黒装束の騎士たちは、まず一番強い者から排除しようと、カイザーを取り囲み始めていた。
カイザーは、このとき既に精神を乗っ取る呪縛の力を自分のものとしていた。
黒装束の騎士たちは精神を乗っ取ろうとする思念波を次々と放つが、ことごとく跳ね返される。
そして、カイザーの目にも留まらぬ動きに翻弄され、囲んだつもりが気づけば一対一の闘いを強いられることになっていた。
あのときプライドをズタズタにされたカイザーの怒りは頂点に達しており、その四天王としての圧倒的な力量と相まって黒装束の騎士たちの力はまったく及ばなかった。
敵の兵たちは押され、盗賊兵たちは城の中に進軍する。盗賊兵を子供たちのいる階まで呼び寄せ、子供たちを救出していく。
ラルとルネは怖がっている子供たちの手を取り一緒に外へ連れ出した。
老化した子供たちは兵たちが抱えて外へ連れ出す。
救出が完了すると、城の最上階に籠城していると思われる黒い影に迫る。
カイザー、ガルナ、セレスも城外の仕事を片付け駆けつけてくる。
最上階の大広間へ到達すると高さ数mはあろうかという大きな扉は、まるで一団を受け入れるかのように開かれていた。
そこには、両端に黒装束の騎士を配し、玉座には膝を組み黒い影を纏った大男が座っていた。
「フフフ…。我が城へようこそ…。」
黒い影を纏った男が目だけを青く光らせている。
暗黒の世界に身を投じたことで肉体も変化したように見えた。
そのとき一瞬黒い影の中に男の顔が見えた。
「こいつだ!俺の夢の中に出てきていたのは。」
とゼオンは、はっきりと認識した。
同時にルイーザもまた、
「やはり、ゾルガだったのね!」
と声を上げ、その男の顔は変わり果てていたが、かつてセフィリア族に反旗を翻したゾルガだと認識する。
「人はあそこまで変わり果てるものなのか…。」
ガルナが呟く。
「暗黒の力に呑まれ続けた末に、器そのものが作り変えられてしまったのでしょう。あれはもう、私たちの知るセフィリア族の者の姿ではありません。」
ルイーザが答えた。
人間とはかけ離れてしまったゾルガのその姿に、皆一瞬凍り付いた。
黒い影の男は余裕の姿で嗤い始める。
「ここまでやっと辿り着けたようだが、人間を捨てた我れに敵うことはない。」
ゾルガが指を上げると、黒装束の騎士が剣を構える。
ゼオンが腰の大太刀を抜く、カイザーも剣を抜く。
決戦の火蓋が落とされる。
騎士が向かってくる。
ゼオンとカイザーは気を溜め一瞬で騎士に詰め寄る。
激しい競り合いが始まる。
黒装束の騎士は、思念波を放ちカイザーの精神を支配しようとするが、今のカイザーには通用しない。
目を赤く光らせたカイザーの強靭な精神力に逆に押し返される。
そして、互いに距離を詰めた瞬間、黒装束の騎士は剣を振りかざし、カイザーは剣を槍のように放つ。カイザーの剣が一瞬早く胸を貫き、騎士の剣は宙を舞った。
ゼオンは向かってくる騎士が至近距離に入ると、しゃがみ込み片足を軸に駒のように回転させ もう片方の広げた足で騎士の足元を掬った。一瞬、仮面の下の顔が見え表情のあることがうかがえた。
「こいつはまだ生きているな。」
騎士の体がバランスを崩し跳ね上がり宙に浮くと、峰で首元を叩いた。
「自分のレベルではあそこまでの闘いはできない。いま出て行っても足手まといになるだけだろう…」ガルナは拳を握りしめ悔しそうに見守るしかなかった。
決してガルナの技量が劣っているわけではない。四天王の強さが尋常ではないのだ。
黒装束の騎士が倒されるとゾルガは玉座から立ち上がり、剣を抜いた。
「どこからでもかかってくるがよい。我れが、そのような雑魚とは違うところを思い知れ…。」
立ち上がったゾルガは、サマルナイトを大量に喰らい、子供の精気を吸いまくった影響で3mはあろうかという巨躯に変貌を遂げていた。
背後の煙のような黒い影は大きさを増す。




