第19話 旅立ち
頭目は野営地に戻ると、再び新天地を求める旅に出るため、引き揚げ作業に掛からせた。
作業が完了すると、頭目は仲間たちに声を掛ける。
「野郎ども!出発するぞ!!」
するとその一声に続きバイクやバギーが轟音と共に去っていく。
その去って行く頭目に向かって、ゼオンは額から空に向かってサッと手を上げた。
頭目は、それを見て満足気にニヤリと笑って去って行った。
ゼオンは隣で一緒にその様子を見ていたガルナに問う。
「あのボスの男…何という名だ?」
「ボスですか…?ヴァルゴと言いますが…。」
ガルナは少しだけ得意げな顔をしながら答えた。
それを聞いたゼオンは、フン…。と、薄っすら満足そうな笑みを浮かべた。
盗賊たちが去って行くのを見送ると、ゼオンたちは先日まで野営したところへ戻り祝杯をあげた。
しかし、どこか皆 静かだった。勝利したことは嬉しかったが、どこか喪失感もあった。
焚火を前にして皆 心の中で思っていた。この旅は、もうここで終わりなのかと…。
セレスが弓の弦を意味もなく指先でなぞりながら、ぽつりと呟いた。
「みんな、これからどうするんですか…。」
その声はどこか物悲しく聞こえた。
ガルナは手にしたカップの中身をただ見つめ、ラルはルネの肩をそっと引き寄せ、ルネはその腕に大人しく身を預けた。
焚火の爆ぜる音が、暫くの間その場を満たしていた。
帰るところなど無かった。ルイーザを除いては…。
ゼオンは悩んでいた。
あの日から、ずっと二つの声に引っ張られていた。
守れなかった子供の目と、最後に王から託された緋色のマントの重みと。
どちらも捨てることはできず、どちらも十分に応えられていない気がしていた。
ゼオンの中では あの子供の目を思い出すたび、旅の途中で出会う誰かを今度こそ守りたいという思いも心の奥底に息づいていた。
それを見通したようにカイザーが口を開く。
「ゼオン。もう縛られることはない。お前の生きたいように生きていいんだぞ。」
ゼオンはハッとする。
―― それはお前の意志で決めろ。
王の最後の言葉が頭をよぎった。
そして、俯いていた顔を上げルイーザを見つめた。
ルイーザもゼオンを見つめていた。
「このまま旅を続ける…のも、悪くないか…。」
ポツリとそう言うと皆ゼオンに視線を向ける。
「いいね、それ!僕もみんなと一緒にいたい!」
ルネが無邪気に応えた。
みんなから笑いが漏れ、ガルナが言葉を添える。
「子供は正直でいいですな!我々の気持ちを代弁してくれたようだ。」
カイザーがたたみかける。
「それでいいのではないか。どうやら皆 同じ気持ちのようだからな。」
「ああ、そうらしいな。」
そうゼオンが答えると、皆 安堵したような表情になる。
「それでは、明日からまた新たな旅を始めましょうかな!」
ガルナが笑顔で言うと、久しぶりに賑やかな笑い声が焚火の周りに戻り、明日からの旅に想いを馳せていた。
ゼオンは焚火の輪から離れ、木立の切れかかる夜空の見渡せるところまで行き星空を眺めた。
後ろからルイーザがそっと付いてくる。
それに気が付きゼオンは声を掛けた。
「君には帰る場所があるんだろう…?」
「ふ~ん…今さらそんなこと言うのね?」
「だって君には国に家族も居場所もあるだろ?」
「ん~ん」ルイーザは首を横に振った。そして続けた。
「あなたと一緒にいたいという理由じゃ駄目かしら…?」
「いや…、駄目ではないと思うけど…な。」
「答えは?」
ルイーザはゼオンの鼻に指を乗せながらいたずらっぽく微笑んだ。
ゼオンはルイーザを抱きしめそっと唇を重ねた。
その様子を木陰に隠れてラルとルネが見ていた。
あ…!とルネが声を上げそうになるのをラルが口を押さえて黙らせる。
「こら!声を出すんじゃない。放っておいてあげよう。」
「あの二人、良かったね!」
ルネは嬉しそうに応えると、二人の兄弟はゼオンとルイーザをそのままに、皆のいる焚火の輪へと戻って行った。
ゼオンはルイーザの肩を抱き二人は寄り添いながら、いつまでも星空を眺めていた。
夜空には北斗七星が輝いていた。
そこにはひとりひとりの顔が浮かぶ。
ルイーザ、ガルナ、セレス、ラルとルネの兄弟、カイザー
そして、ゼオン…
7人の旅が新たに始まる。
― 完 ―
最後までお読みいただきありがとうございました。
この七人の旅はこれからも続きますが、ひとまずここで完結となります。
皆さまの人生の旅もより良いものになることを願っております。
珀亜




