第15話 偵 察
そして翌朝、ルイーザはゼオンの元へ行き、昨夜思い出したことを話した。
「思い出したの。」
「そうか。」
「もし私の記憶にある人物がゾルガという者なら、あの人は……力への渇望に取り憑かれてしまった。」
「なるほど…悪に心でも売ったか。」
「まあ、欲望に駆られて…そんなところだと思うわ。」
―― そしてルイーザは昨夜思い出したことと、自分の考えた可能性をゼオンに話して聞かせた。
「君たちセフィリア族のその力は、普通の人間に使えば意識も操れてしまうということなのか。」
「ええ、そうよ。」
ルイーザは真剣な眼差しでそう答えた。
「それは……危険な力だな。」
「ええ。だからこそ、私たちの中では禁忌なの。」
ゼオンはルイーザの肩を抱き寄せた。
そして、一点を見つめたまま。
「ゾルガ…、か。」
と、記憶に焼き付けるように呟いた。
朝食を済ませると荷物をまとめて出発する。
「カイザー、お前が戻ってくれて心強い。」
ゼオンはカイザーにそう声を掛けると馬に跨った。
そして、それぞれ馬に跨ると、先頭を行くセレスについて行った。
走り続けるとある山の中腹から、大きな崖の下にかつて炭鉱だったと思われる入口が見えてきた。
「あそこです!」
セレスが馬を停め皆に言った。
離れた場所からそのまま暫く見ていると、中から人のようなものが数名出入りし周りの様子をうかがい、鉱山から黒く七色に光る鉱物を満載した馬車やトラックが出てきて、どこかへ走り去っていった。
「まさに、ここか。」
そうゼオンが言うと、「あの景色、薄っすらと見覚えがある…」首を傾げながらカイザーはそう思った。
「鉱石を運び出しているということは、他にも拠点があって亡者兵どもはあの中だけに集中しているというわけでもなさそうだな。」
ゼオンがそう言うと、セレスが応える。
「そうですね。あの亡者盗賊団のような者たちがいるそれぞれの拠点にでも配るのでしょうか。」
「そのように考えるのが妥当だろうな。中の亡者兵は鉱山を守るための最低限の人数しかいないだろう。」
そうゼオンが言うと、ガルナが提案した。
「それでは、夜まで待って偵察しますかな。」
すると背後で気配がした。
すかさずカイザーが凄まじい速さで気配のする方へ移動する。すぐに首を絞め上げられ口を塞がれた盗賊がひとり引きずられてくる。
「お前は!」
ガルナが驚く。
「カイザー殿。そやつの口から手を離してやってくれませんかな。」
カイザーは頷きながら、盗賊の首を絞め上げたまま口から手を離す。
「何をしておる!」
と、ガルナが尋ねると盗賊が答える。
「は…はい。命令されて後を付けろと…。」
―― 事情を聴くと、暫く前から縄張りに黒い連中がうろつき始め、盗賊の一部の者が奇怪な行動を取るなどおかしくなってきているということであった。おそらくゼオンたちは黒い連中を追っているであろうから、その後を付け居所を把握しておけと命令されて来たのだという。――
「これは、いいところで捕まえられたな。お前に一つ頼みたいことがある。」
首を軽く絞め上げたままカイザーが言うと、盗賊は冷や汗を流しながら応じる。
「へ…ヘイ…。何でしょう…?」
「これからお前の親分のところへ戻って、兵を20人ほどとトラックを数台借りたいと頼んでくれ。それとダイナマイトもたんまりとな。お前の親分が気にしている黒い連中を叩くために必要だと言ってやれ。」
「へ、ヘイ!お頭に伝えまさぁ~!」
そして、ガルナが盗賊の目を見て口を開く。
「ボスのところへ帰ったら、私からの頼みでもあると伝えてくれ。」
「へ、ヘイ!ガルナ様のお言葉、しっかり伝えますでさぁ!」
そう言って盗賊は森の中へ走り去っていった。
そのあと、日が暮れてくるとカイザーとセレスが偵察に出かけた。
坑道には大きな入口のほかに小さな出入り口がいくつかあった。
その少し上の方の岩間に僅かな隙間が見える。迂回してから近づくと、人が一人横向きにやっと通れるくらいの隙間があった。
二人はセレスから順番に体をねじ込むようにその隙間へ入っていく。
「これで行き止まりだったら…泣けるよな…。」
カイザーがそう言うと、セレスは慎重にその奥を確認する。
「ん?この先少し広くなっていますよ…。」
そのまま隙間を抜けると、その先は少し広い空間となっていて奥まで続いていた。
「もしかしたら、ここは不要な通路の入口だけを塞いだ跡なのかもしれないな。」
そうカイザーが言うと二人は更に奥まで進んで行く。
すると、上から見下ろす位置で大きなドーム状の空間に出た。
下の方を見ると、多くの男たちが黒い鉱物を載せた手押し車を押したり、岩を担いだりして働かされていた。
「男たちを見張っている亡者兵はここから見る限り15人程度か、見えないところにいるのも合わせると、この規模なら30人ほどといったところか…。」
カイザーは戦闘の知識から見えている以外に何人いるかを予測した。
「ええ、そうですね。ほかにうろついている者たちも入れるとそんな感じだと思います。」
「ここにいる亡者兵の戦闘力は、たいしたことはない。ほかに外部の敵から守るための精鋭が何人かいる。ほら、あそこに明らかに武装が違う大きな体格の奴がいるだろ? ここからは3人見えるな。」
カイザーが言った。
「全部で何人くらい、いるんでしょうね。」
「そうだな。入り口にも4人いたし、見えないところにいるのも合わせて精鋭は10人くらいといったところか。この規模なら、それくらいが妥当だろう。」
「なるほど。あとは盗賊の兵が来るのを待ちましょうか。しかし、子供の姿は見当たりませんね…。」
「ああ、ここにいないということは、やはり別の目的で監禁されているのかもしれんな。よし、ここはとりあえず引き上げよう。」
二人は戻り、状況をゼオンとガルナに報告した。
夜半になると数台のトラックが到着した。この間の爆音とは違い、近づいてくるのも分からないほど静かだった。
ガルナが迎えに出る。すると、トラックからあの時ゼオンと最初に闘った後方部隊のリーダーが降りてきた。
「ガルナ、久しぶりだな。助太刀に来たぜ!」
「おう!ご苦労。でも、まさかお前が来るとはな。」
ガルナは少し驚くように言った。
「まあ、ちょっと会いたい人がいたもんでな。」
ゼオンも出迎えるが、首を傾げる。
「悪いな。来てくれて助かる。…ん?お前は、確か…。」
「そう、あの時あなたと闘ったアランと申す者。あなたがかつてヴァルディアス王国の四賢者の一人ゼオン殿だと知り、もう一度お会いしたく参上仕った。」
「俺のことを知っているとは、お前もかつては名のある国の上官か何かだったのか…。」
「ええ……。私の場合は、敢えて強い盗賊団に入り、我が国を滅ぼした憎き黒い影を密かに探しておったのです。」
ガルナは思わずアランの国の名と役職が喉元まで出かけた。しかし、彼もガルナ同様に盗賊にまで堕ちることは本望ではなかったであろう。だから、彼のプライドを考え口には出せなかったのである。
「そうか、あの時は本当に強かった。今回助けてもらうことに礼を言う。」
ゼオンも礼を尽くして応えた。




