第14話 不穏な炭鉱跡地
ゼオンたちは、そこに暫く滞在してカイザーの回復を待つことにした。
そして数日後の夜、カイザーは自分の足で洞穴から出てきた。
「もういいのか?」
「ああ、最後に引っ掛かっていた呪縛の欠片を吹き飛ばしてやったよ。」
そう自慢げに言い放つカイザーの顔からはすっかり毒気が抜けていた。
「そうか、だけどまだ無理はするなよ。病み上がりみたいなものだからな。」
カイザーは皆が集っている焚火の側に座る。
ゼオンはカップにワインを注ぎカイザーに渡した。
「焼けた村の跡地で見つけたワインだから、美味いかどうかは分からないが。」
カイザーは渡されたワインを、ひと口ふた口飲み考え込んでいた。
皆その様子を、固唾を飲んで見つめている。
「私に何があったか話そうか。」
「…ああ、そうだな。お前ほどの男がそうやすやすと操られるとは思えん。」
「あれは、お前が遠方に出かけていた最中に起こった…。」
そして、カイザーは静かに語り始めた。
―― その日、カイザーは朝から兵たちに剣術を教えていた。
暫くすると空がにわかに曇り始めた。雷鳴も響き始めたので訓練を終了し、城に戻ろうとしていたところ遠くに黒装束の一団が馬で駆けてくるのが見えた。
「何者だ!」カイザーは嫌な予感がした。
兵舎に戻ろうとしている兵を急いで呼び戻す。
「何か得体のしれない一団が来る、即戦闘態勢に入り応戦しろ!」
数名の兵に、王と他の賢者へも急いで知らせるよう指示をした。
「しかし…、ゼオンだけは遠方か…」カイザーはそう思いながら兵たちに指示をすると、その一団を迎え撃つ。
黒装束の一団は体も馬もひときわ大きく見えた。
各々長い剣を振りかざし兵たちの群れへ突っ込んできた。
馬上の黒装束の騎士たちに兵は次々とやられていく。
しかし、不思議なことが起こる。やられた兵士たちは、一度は地面に倒れるが次の瞬間精気の無い顔で立ち上がると、味方の兵へ襲い掛かり始めたのだ。
「お前たち!何をやっている!」
カイザーは訳も分からず反乱し始める兵に声を掛けるが、全く聞こえていない様子で味方の兵を襲い続けている。
「何が起こっている…。あの黒騎士たちが倒した兵を操っているとでも言うのか。これは人間の所業ではない。勝ち目は無いかもしれんが、とにかく王をお守りしなければ。」
カイザーは王のいる城へ走り出した。
兵は全員が駆り出され、必死に応戦するも倒された先から味方は敵になっていく。
結果、敵になってしまった兵の数が多くなり圧倒されていく。
カイザーは城内で他の賢者と落ち合う。
「無理だ。あの黒装束の騎士たちは人ではない。今の私たちに勝ち目は無い。とにかく王をお守りするぞ!」
他の二人の賢者も守りを固める。
暫くして、黒装束の騎士たちが城内になだれ込んできた。
残った兵と賢者たちは必死に応戦するが、敵になってしまった味方の兵たちもなだれ込み多勢に無勢。
賢者も黒装束の騎士ひとりが相手なら互角以上に戦えたかもしれない。しかし、複数から一度に攻撃を喰らい抗うことはできなかった。
彼らは寸前に絶対的な意志を以て絶命したので、黒装束の騎士も操ることができなかった。
カイザーは危機を悟り、王を懸命に庇おうと意識が逸れた瞬間、黒装束の騎士たちの意識が入り込み支配されてしまった。
その力は強大であり複数の支配する力を一度に喰らわされ、カイザーの精神力でさえ抗うことができなかった。――
そこまで話すとカイザーは焚火をじっと見つめた。
「そこからの記憶がない…。いったい国はどうなったのか、王はどうなったのか、記憶はプッツリそこで途切れているんだ…。」
カイザーの証言を聞くルイーザが、表情を凍らせる。
…その力、覚えがある。とだけ呟いたが詳細を語らない。
「どうした…ルイーザ、何か分かるのか。」
ゼオンが問う。しかしルイーザは、
「覚えはあるのだけど…まだ、はっきりとした形になって出てこないの…。」
と、もどかしそうに言葉を濁した。
「この間言っていた10年以上前の主権争いのことだな?」
ゼオンが言うと、ルイーザはゆっくりと頷き、
「そうね…。思い出せるまで少し時間をもらえるかしら。」
そう言うとルイーザは記憶を辿り始めていた。
焚火を見つめ暫くの静寂に包まれた沈黙のあと、ガルナが神妙な面持ちで口を開く。
「しかし、助けた者以外にも、さらわれた者たちは多いはず。その行き先が気になりますな。」
ゼオンが応える。
「ああ、俺もそれが気になっている。」
カイザーが頭を抱え、何か思い出そうとしている。
「そういえば、薄っすらとだが、どこか坑道のようなところで多くの男が働かされていたのを見た記憶がある。」
「その場所は何とか思い出せないか。」
「ああ、今はそれがやっとだ。意識が戻り、その時の記憶は封印されているようだ。」
「ルイーザ。カイザーの意識に入ってその記憶を探ることはできないか?」
ルイーザが答える。
「そうね。黒い影の力で封印された記憶なら強固に封印されてしまっているかもしれないけど、やってみる。」
ルイーザはカイザーの額に手を置き目を閉じる。カイザーも思い出すことに意識を集中する。
すると、ルイーザが目を閉じたまま、ぽつぽつと話し出す。
「これは…。どこかの炭鉱の跡地のようね…その炭鉱の更に下を掘っているみたい。」
ガルナが聞く。
「炭鉱の更に下…。そこに何かあるのですかな。」
そのときルイーザが目を見開く。
「こ、これは!」
「どうした!ルイーザ。」
ゼオンが聞くと、
「かつて私たちの種族が行っていたある呪術のときに使う鉱石。目標とするものを操り続けるためのエネルギーに使うものなの。いまはその呪術は危険なので行われていないけど…。」
このような呪術を使っているのは、やはりセフィリア族の者なのかもしれないとルイーザは確信に近いものを感じていた。
「炭鉱の跡地…。」
ポツリとセレスが言った。
「何か思い当たる節でもあるのか?」
ガルナが問う。
「ええ、かなり前のことですが、狩りで遠出をしたとき、廃坑になっていると思われる場所を目にしたことがあります。そのとき人のようなものが何人か出入りしていて少し違和感があったのを覚えています。」
「人のようなもの…? 怪しいな。」
ガルナがそう言うと、ゼオンがセレスに問う。
「かなり前ということは、その頃から準備していたとも考えられるな…。セレス、その場所は分かるか。」
「ええ、道はだいたい覚えています。」
「僕たちはゼオンに助けてもらったけど…。さらわれた子供たちもいるのかな…。」
ふとルネが口を開いた。
「ああ、別の役割でどこかに捕まっている可能性があるな。とにかく明日、その炭鉱を確認しに行こう。」
ゼオンは冷静に答えた。
その晩、ルイーザはあの時の記憶を辿り続けていた。
―― かつてセフィリア族の中に突出した強さを持ち、権力を手中に収めるという野望を持ったゾルガという男がいた。
彼は王族に反旗を翻し反乱を起こした結果、王側の兵の猛攻に遭い逃げおおせたという記憶。もしかしたら、この男が意識を共有する力を増大させて関わっているのでは…と考えていた。
もしそうなら、あれから歳月を経た今、逃亡したゾルガが種族の枠も力も超え、より大きな世界そのものを支配したいという支配欲の権化になってしまっている可能性もあると思えた。――
〖 ルイーザの属するセフィリア族はハイランド地方に居を構え、通常の人間とはかけ離れた能力を持つ種族である。セフィリア族は自然と調和し無言のまま意識を共有できるという独自の進化を遂げていた。
ただし、普通の人間に対してこの意識を働かせると、力が強く作用し悪意があれば容易に操れてしまう諸刃の剣でもあった。だから、セフィリア族はこれを禁忌として強固に抑制していたのだ。〗




